なぜ「ポスト(地位)が人を作る」のか
■ビジネス人生の原点に立ち戻って勉強
この6年間、昭和シェル石油のグループCEO兼務を含めて会長職を務めてきた。私は、この会長という役職は自分からなろうとしてなれるものではないという気がする。就任時の年齢を考えると、知識も実務経験も他者より優れている必要はあるだろう。また、長いビジネス人生で「あれは彼の仕事だった」と賞賛されるような伝説も持っていたほうがいいかもしれない。しかし、それ以上に重要になってくる要素は心身両面の健康だと思う。
副会長を3年間務めてから、会長になり、最初に感じたのは「孤独なポストだ」ということだ。それだけにプレッシャーも強い。ビジネス上の最終的判断は自分でしなければならない。当然だが結果責任を取る覚悟が求められる。また、業界や財界での活動機会も多くなっていく。そこでは常に会社を代表する公人の立場で振る舞わなければならない。肉体的にはもちろん、精神的にタフでないと役割を果たすことができない。
そこで私は、会長としてのベーシックプリンシプル、すなわち原理原則を再確認しようと思った。そのときに思い出したのが新入社員時代の記憶にほかならない。40数年前、22歳のフレッシュマンとしてシェル石油に入った際、配属先の上司に教えられたのが「君の取ったアクションが、会社のインタレスト(利益)に合っているかどうか、そのことを常に考えろ!」ということだった。よく「初心忘るべからず」というが、私は新米会長として、ビジネス人生の原点に立ち戻って勉強し直そうとしたのである。
では、新入社員の心がけとは一体何だろうか。誰しも「一日も早く会社に馴染もう。諸先輩からよく話を聞いて、自分の肥やしにしていこう」といった素直な姿勢といっていい。ところが、人間というのは厄介なもので、仕事や人間関係に慣れてくると、つい慢心が頭をもたげ、仲間や上司のアドバイスがうるさくなってくる。
■本質を見極めることの大切さ
「眼で聞いて耳で見ろ(眼聴耳視)」というユニークな言葉がある。われわれは眼と耳で世の中の動きをとらえているが、ついつい惑わされてしまう。人と話をするとき、目で見た表情や耳で聞いた声だけで判断するのではなく、本質を知るためには相手の心を察知せよということだ。これができると、物事を正しく認識し、真のコミュニケーションが可能だ。だから私は、社内外の人たちと接する際はいつも、このことを心がけてきた。
そしてこの方法は、私のもうひとつの行動規範である人事の公平性を保つことにも役立った。というのも、私は仕事に関しては非常に厳しく社員に接している。そのことは同時に、誰に対しても公平でなければならないことを意味する。会長みずからはライン業務には携わらないから、自分が「彼こそ」と信じた人物に仕事を託す。そのときに、自分の目を曇らせないためにも、本質を見極めることは大切である。それによってこそ、適材適所の人材登用が可能になる。
振り返ってみると、会長になってから自分自身にも厳しくなったという気がする。周囲は迷惑だったかもしれないが、出社時間は今までで最も早い。勤務時間中の集中力も明らかに高まった。やるべきことは速やかに処理してきたつもりだ。そして、何より社外の動静にも敏感になった。石油業界や上場会社の会長の発言や行動から学んでいこうとしたものである。
その意味で「ポスト(地位)が人をつくる」というのは本当だ。確かに、組織の部門長やトップには実力があるから選ばれるわけだが、その役割を担い、結果を出すことによって力量がさらに増し、リーダーシップも人格も磨かれていくのも間違いない。私自身、それがどこまでできたか、確たる自信はないが、みずから課した規律からはぶれないで職務に尽くしたと思っている。
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1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。
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(昭和シェル石油会長 香藤繁常=文 岡村繁雄=構成)
