――5枚目のアルバム「夕凪LOOP」(2005年)から6枚目の「かぜよみ」(2009年)までの3年間だけでも大きな変化を感じていたのですが、15年間の中でのターニングポイントや想い出深い出来事はありますか?

坂本:今回30曲を選ぶ中で全部の曲を聴きながら、本当に根底は変わってないんだなと感じたんですけど、自分で思っている以上に多分、リスナーの方達のほうが客観的に色んな変化に気が付くのかもしれませんね。私としては、連続している時間の中での出来事なので、どこかですごく変わったとは思わないのですが、15歳から30歳までの間に自然な形で変化していった一人の人の成長ということ以外では、一番分かりやすい変化は、デビューからずっと一人の人と組んでやってきた音楽作りが、9年位した所でガラッと体制が変わって、全く新しい人達と組んだのがその「夕凪LOOP」というアルバムの時なので。その時期がすごく大きな変化でしたね。

――その時に、それまではプロデュースされたり共同作業だった音楽制作が、自己発信へと変わって、改めて自分は何がやりたいのか?と考えたことはありましたか?

坂本:その時はもう、そうするしか他に道が無いぐらい、それまでの9年間に色んなことをやってきて、行き詰まったとまでは言わないんですけど、「この先、更にどうしていけばいいんだろう?」みたいな気持ちがあったんですね。なので体制が変わって、また未知なものに飛び出していくことで、もう一回、自分の歌とか自分らしさを確かめるために、かなり勇気のいる決断をしたんです。

だから、この5年、6年の間に得たことって、すごく大きいんですね。それまでが温室の様な所ですごく大事に、ある種家族と一緒に過ごしてきた時期だとして(笑)。その後は、独り立ちして色んな人と出会う中で、いちいち自分のアイデンティティーを問われ続けた6年間で。その間に自然と、坂本真綾という者の音楽の中で、これはアリかナシかという判断基準がすごく明確になって、迷いが無くなってきましたね。

だから今、音楽を、作品を作っている中で「どうしたいか?」というビジョンはもちろんありますけど、自分として何が好きだ、何がいいと思っている、何が私らしい、私らしくない、みたいなことの迷いが無いですね。それが大きな変化なのか、成長なんだと思います。

――15年の音楽活動の中から30曲を選ぶのは大変な作業だったと思いますが、どんな基準で選曲したのですか?

坂本:百何十曲も歌ってきた中で選ぶので、思い入れとかで選んじゃうと、線が引けないので際限が無いんですね。だから、まず最初に30曲という枠をもう決めてしまって。たまたま30歳の誕生日のリリースだし、30曲がキリがいいみたいなことで、そこにピックアップした中からはめ込んでいったんです。15年やっていて、ベスト盤は今回が初めてだったので、まず分かりやすいベストであることを心掛けて。坂本真綾を今までよく知らなかった方にも、「はじめまして」と言った時にこのアルバムを持っていって、「15年間こんな歌を歌ってました」って名刺代わりに渡せるようなラインナップにしたくて。でも、それが人の思う坂本真綾の30曲だったかどうかは分からないんですけど、私の思う30曲を詰め込みました。後は、自分の活動の中でターニングポイントになった曲とか、その年齢、そのアルバム毎に一番自分自身のテーマになっていた曲を必ず入れようと思いました。

――歌手としてだけではなく、声優としても活躍されていますが、自分の声質についてはどのような特徴があると思いますか?

坂本:自分の声って、誰でも違和感があるものだと思うんですよね。自分で聞いてる声と録音した声の違いに、みんな驚くと思うんです。私も長年それがあって、「声が好き」と言われることも多かったんですけど、「意味が分からない」という、どこが自分の声のいい所なのかがよく分からなかったんですよね。でも大人になって、色んなミュージシャンの人とコラボレーションするようになってからは、楽曲ごとに違う出会いの中で、自分の声の一番いい成分が抽出されるように、いっぱいディスカッションしたり、色んな方法を試したりする機会が多くなって。初めて自分の声をちゃんと意識して聴くようになると、自分でもなんとなく好きな所が見つかってきて、今は違和感なく聴けています。「どういう声か?」と言われると、空気穴が空いている感じというか、あまり密度がべったり濃くなくて、スカスカしてる声だなと思います。でも、そこが好きです(笑)。