『スマホ脳』著者のアンデシュ・ハンセン氏 ©Stefan Tell

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『スマホ脳』の大ヒットから5年。そのスマホをも超える驚異的なテクノロジーの出現に対し、著者のアンデシュ・ハンセン医師は「AI依存によって人間のIQは100年前に逆戻りする」と指摘。AIを手放すことができなくなった私たちに、今何が起こっているのか。【聞き手・文/湯浅大輝(フリージャーナリスト)】

テクノロジーは人間の脳を「ハック」する

『スマホ脳』が日本でベストセラーになったのが2021年。それから5年経ちましたが、今度はスマホを超える、驚異的なテクノロジーが出現しました。

 AI。それは人々の想像を超えた、信じられないほど強力なテクノロジーです。精神科医の私はもちろん、大規模言語モデル(LLM)の開発者自身も、その賢さと進化のスピードに驚いています。

『スマホ脳』著者のアンデシュ・ハンセン氏 ©Stefan Tell

 AIはありとあらゆる分野で、人間より優れた知能を持つ存在になりつつあります。Grokを開発するイーロン・マスク氏や、ノーベル化学賞を受賞したGoogle DeepMindのデミス・ハサビスCEOは、期間は問わず「AIは将来、人間よりも高い知能を持つことになる」と予測しています。

 これは考えてみれば驚くべきことです。なぜなら、私たち人間、つまりホモ・サピエンスが、もはや地球上でもっとも賢い種ではなくなることを意味するのですから。

 AIの出現は、テクノロジー史という文脈においても画期的だと言えます。活版印刷やインターネットの登場は人間の仕事・生活のあり方を革新しましたが、これらのテクノロジーは人間が支配・活用する「ツール」という色彩が強い技術でした。

 ところがAIは、単なるツールではありません。自ら意思決定を行い、プロンプトを入力すると物事を独自に創造できる存在です。人類はAIの発展とともに、仕事・社会生活・教育・人間関係の構築といった分野で、根本的な変化に直面せざるを得ないでしょう。

『スマホ脳』『メンタル脳』『ストレス脳』(いずれも新潮新書)などの一連の私の著作をお読みになっていただけた方はお分かりだと思いますが、私の研究の主要なモチーフは「現代社会に広く行き渡っているテクノロジーが、狩猟採集時代から変わっていない人間の脳の仕組みをいかにハックし、依存させているか」というものです。

 街を歩けば人々はスマホと睨めっこしている、電車の中でスマホに熱中しすぎて到着駅を過ぎてしまう、10歳の子どもがスクリーンに8時間以上も釘付けになる、SNSでの終わらないレスバトル──。

 スマホをはじめとしたテクノロジーには強い依存性があり、人々の生活のあり方、認知の方法に歪みが出てくるのに、なぜ依存を断つことが難しいのか。脳の仕組みにその答えがある、というのが私の主張です。

 まず、AIがいかに人々を依存させうるか、そしてなぜAI依存がスマホ依存以上の危険性を持っているのか、分析してみましょう。

AI依存でIQが100年前に逆戻りする

 現代社会は高度な文明社会です。満腹を維持できる飽食社会、誰とでもどこでもオンラインでつながる通信システム、移動時間を大幅に短縮できる交通手段──。先人たちの努力の結果、私たちは驚くほど便利で豊かな生活を手に入れました。

 高度な文明を手に入れた私たちは、昔の人類よりはるかに「賢く」なっています。代表例として、人類のIQ(知能指数)向上を示した「フリン効果」が挙げられます。

 過去100年間で、人間はIQを30ポイントも伸ばしたというもので、たとえば今の人類の平均であるIQ100の人が、仮に100年前のIQテストを受けた場合、IQは130程度(現在の人口の上位約3%)になるということを意味します。逆に、100年前のIQテストで100だった人は、今では70程度になるでしょう。70は、現在では知的障害との境界だと言われています。

 なぜ私たちはこれほど賢くなれたのでしょう。ひとつには教育を受ける期間が長くなったことが関係しています。脳は可塑性といって、勉強を重ねれば変化し、より正確な答えを導き出せる能力があるとわかってきています。

 ところが、AIは私たち自身が勉強せずとも、答えを与えてくれます。人間の知識がなくても、質問さえすれば、AIが回答を出してくれるのです。「理解できなかったらAIに聞く」という状態が続くと、人間は徐々に基礎的な勉強をしなくなると容易に想像できます。

 人間が学習しなくなると、この先どうなるのでしょうか? この問いはまだ誰も証明していない、未知の領域です。人間がAI依存を続けると、IQが100年前に逆戻りするかもしれません。これが良いか悪いかは、各自の立場によって変わるでしょう。ただ「脳は使わなければ衰える」という事実だけは、最低限認識すべきだと思います。

湯浅大輝(ゆあさ だいき)
フリージャーナリスト。同志社大学在学中に米アリゾナ州立大学へ交換留学。卒業後、記者としてのキャリアを開始し、経済メディア、小売専門誌を経て独立。教育、小売、海外スタートアップ、国際情勢、インフラなど多様なテーマを取材・執筆している。過去携わった書籍に『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)、主な特集記事に「出生数75.8万人の衝撃」「奈良のシカ」(ともにJBpress)、「リニア 20世紀最後の巨大プロジェクト」(NewsPicks)、「精肉MDの新常識」(ダイヤモンド・チェーンストア誌)など。

デイリー新潮編集部