【真壁 昭夫】VAIO&日立の家電事業を買収で「ノジマの家電メーカー化」が加速…中国メーカーの安い家電が障壁に
家電量販大手のノジマは4月21日、日立製作所グループの国内家電事業を買収することを明らかにした。昨年のVAIO買収に続き、自社で製造部門を確保することで、店舗での対話や購買データから得た顧客ニーズを迅速に製品開発へ反映させる戦略を加速させている。
“家電メーカー化”とも映るノジマのこの動きに市場は期待を寄せており、買収報道後、同社の株価は一時15%近くまで急伸した。
対する日立は、家電事業を非中核と位置づけて切り離し、総合電機メーカーからソフトウェア企業へと大胆な業態転換を断行した。この徹底した構造改革は世界の投資家から高く評価され、同社の株価は5年で5倍にまで成長を遂げている。
前編記事〈なぜ「日立製作所の株価」は5年で5倍になった?ノジマへの家電事業売却が物語る「大いなる覚悟」〉では、こうした背景を詳しく解説している。
しかし、両社が描く成長シナリオは決して楽観できるものではない。
前編に引き続き、多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏が解説する。
ノジマは組織管理が問われる
今後、ノジマは家電の販売と製造を迅速に結合し、収益性の向上に取り組むことになる。そこで重要なのは、経営風土が異なる組織が一つとなって、円滑に利害を調整できるか否かだ。
日立の家電事業は、同社創業の地である茨城県日立市にも拠点を持つ。創業の地で事業を運営してきたことに、大きなプライドを持つ従業員は多いだろう。そうした価値観を、ノジマの経営風土に融和させるのは、口で言うほど容易なことではないはずだ。
昨年時点で、ノジマは5年間で最大5000億円の買収を行う計画を持っていたようだ。家電などの製造分野で、同社が追加の買収を実行する可能性は高いだろう。
ただ、複数の組織を横断的に管理し、構成員の集中力を一つにまとめることが難しいと、事業運営の効率性を高めることも難しくなる。高付加価値の製品開発、ブランドイメージ確立を迅速に行えるか否かも注目点だ。
家電は中国、韓国勢が強い
さらに、重要なポイントは、家電事業の成長性だ。
家電分野では、コモディティー化が進み、価格競争が激化している。この点で競争力があるのは中国勢だ。中央・地方政府の産業補助金や低価格での土地の供与により、中国家電メーカーの競争力は圧倒的に高い。
テレビ分野では、ソニーが中国のTCLに事業を事実上譲渡した。世界のテレビ市場で、韓国のサムスン電子を中国勢が上回るのは時間の問題だろう。
これから、ノジマが、すでに世界シェアの高い韓国勢、コスト面で圧倒的な中国勢と真正面から競合するのは分が悪い。株価が高い状況下で製造事業を取得したリスクもある。米欧の中央銀行が利上げを再開したり、想定外にイラン戦争が長期化したりすると、世界的に株価急落の恐れは高まる。
それに伴い、ノジマがのれんの減損処理を余儀なくされる恐れもある。リスクに対応するため、重要性が低下した資産の売却を進め、迅速に家電製造分野で収益を生み出す体制構築が求められる。
日立が直面「AI開発競争の激化」
一方、日立が直面する事業環境も楽観できない。
特に、米国と中国では、日増しに新たな推論モデルが登場している。産業用分野で日立がAIを使った分析力を高め、より高付加価値のサービスを提供するために、新興のAI開発企業を買収する必要性は高まるだろう。
アンソロピックの最新モデル“ミュトス(Mythos、ミトスとも読む)”の登場で、ITセキュリティー分野でのサービス供給体制の構築も急務だ。
激化するAI開発競争に対応する準備として、ヒト・モノ・カネのねん出が必要になる可能性もあるだろう。今後、同社は新たな事業売却を企図している可能性もある。
資産等を売却する場合、可能な限り株価が高い時が好ましいはずだ。ただ、株価はいつまでも堅調とは限らない。日立は今回の家電事業売却を成功させ、ソフトウェアやAI関連分野での競争力向上を柱とする“日立の構造改革”を新たな次元へと引き上げたいところだろう。
他メーカーも日立に続くか
今回の家電事業の売却によって、日立は今後、成長期待の高いソフトウェアやAI分野に集中することができる。
鉄道運行や配送電、あるいはインフラ分野のサイバーセキュリティーなど、的を絞った買収、提携戦略は、既存事業の収益性向上に必要だ。今回の資産売却は、そのための資金調達になるだろう。
日立が最新のソフトウェアやAI先端分野で買収を実施し、さらなる構造改革に取り組むことは、他の日本企業が事業ポートフォリオの入れ替え加速を目指すきっかけにもなるはずだ。
総合電機メーカー業界では、日立の資産売却を参考に、家電事業全体、あるいは部分的な売却を加速させようとする企業が増える展開も想定される。
いずれにせよ、それぞれの思惑が絡んだ今回の買収が、ノジマ、日立の成長加速につながるか否かに注目が集まる。
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