「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「払う」、「払拭する」の「払」。十二月十三日はすす払いの日。年神さまを迎える準備が本格的に始まります。



「払」という漢字は手へんにカタカナの「ム」に似た字を書きます。

この「ム」の部分が古い字体では「弗(ドル)」と使われる文字になっています。

この「弗」は、「弓」という字に縦二本の線が入っています。

これは「弓」をあらわす部首で、打ち消しやしりぞけること、道理に反する、捻じ曲がる、といった否定の意味をもち、そこから「払いのける」様子を示すようになりました。

私たちが「弗(ドル)」にあてはめて使うこの文字は、象形文字として見ると、「弗(フツ)」という音をもちます。

この「弗(フツ)」は数本ある木に縄をまきつけようとする様子。

その木が曲がりくねっているためうまく束ねることができず、「ばらばらになっている」という状態を表わすといいます。

そこから「払う」という漢字を、ばらばらになったものを手で「うちはらう」、「のぞく」という意味で使うようになったのです。

江戸時代に使われていた暦によれば、十二月十三日は吉と出る縁起のよい日。

そこでこの日を、すす払いや松迎えなど、お正月の準備にとりかかる「事始め」の日としました。

特に、すす払いは単なる大掃除以上の意味をもち、一年の厄を取り払うけじめの節句としての役割を担ってきました。

かつて、すす払いは一家総出の大仕事。

家具を動かし、畳をあげてほこりをたたき出す。

高い梁をもつ大きな家では手伝いの男衆がやってきて梁にまたがり、雑巾で汚れをぬぐいとる。

神社仏閣で盛大に行われるすす払い行事と同じ真剣さで、神さまの訪れを願いつつ、家中の穢れを取り払ったのです。

ではここで、もう一度「払」という字を感じてみてください。

家具まで動かして家のすみずみを清めるすす払い。

見慣れない空間に光が差し込めば、浮かびあがる塵の中で、ふと、意識が時空をさまよい始めます。

今年一年の、あの日、あの時。

ひとり悩んだこと、みんなで喜んだこと、鎮めた怒り、かみしめた幸せ。

それは、ハレの日とケの日のつなぎ目に生まれた、不思議なひとときです。

余計なものを払いのけ、大切なもののありかを確かめる大掃除。

あなただけの儀式をすませたら、心新たに、一年を歩き始めることができるでしょう。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『京町家の木もれ日』(杉本歌子/著 光村推古書院)

12月10日の放送では「赤」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/