デートの愚痴を女友達に報告。「一生ひとりでいなさいよ」と言われた女は…
年収“8ケタ”(1,000万円以上)を稼ぐ女性たち。
給与所得者に限っていえば、年収8ケタを超える女性の給与所得者は1%ほど。(「令和2年分 民間給与実態統計調査」より)
彼女たちは仕事で大きなプレッシャーと戦いながらも、超高年収を稼ぐために努力を欠かすことはない。
だが、彼女たちもまた“女性としての悩み”を抱えながら、日々の生活を送っているのだ。
稼ぐ強さを持つ女性ゆえの悩みを、紐解いていこう――。

File10. 美紀、年収3,500万円。恋人は同レベルの男でないと許せない
「まだ9時かぁ…」
Cartierの時計に目をやると、まだ朝9時を回ったばかり。
一般的には、この時間から仕事をスタートする人がほとんどだろう。
しかし、美紀の朝はいつも早い。なぜなら、外資系証券会社に勤務するファンドマネージャーだからだ。
1日24時間、世界中のどこかの株式市場は必ず動いている。
そのため、グローバルで市場の動きを把握しなければならないファンドマネージャーは、実際に会社にいる時間以外でも情報をチェックしている。
とりわけ、ニューヨーク市場の終了時刻に合わせて、朝5時ごろには起床して7時には業務を開始する人も多い。
それは美紀も同じだ。今日も、早朝からアメリカとのcatch-up callが入っているし、緊急度の高い業務の合間に市場チェックをしなければならない。
『生き馬の目を抜く』
こう表現される外資証券業界でキャリアを積んできた美紀は、外見こそ外資系女子らしくお洒落に気を使ってはいるが、中身は完全に男性だ。
気がつけば恋愛もご無沙汰のまま、今月34歳の誕生日を迎えようとしていた。
これまで結婚もせずに、ただひたすらに仕事に邁進してきた。そのおかげで、美紀は3,500万円という年収を獲得できている。
― 私だって、人間らしいゆとりのある生活がしたい。普通の女性として、人並みの幸せも欲しい。
多忙な毎日を送る一方で、心の片隅にこのような気持ちをしまい損ねているのだった。
アメリカで高校・大学時代を過ごした美紀は、大学卒業後に日本に帰国して現在勤務している外資系証券会社に就職した。
外資系金融業界を就職先として選んだ理由は、極めてシンプルだった。
「英語力を武器に、努力次第で高年収を獲得できる」
入社時の志を忘れず、高校・大学のアメリカ生活で身に付けた英語力を武器に、美紀は日々努力を重ねてめきめきと実力をつけていった。
そんな美紀は職場での評価も高く、そろそろヴァイス・プレジデントへの昇格も見えてきていたのだった。

とはいえ、1人の女性としては「もう34歳になる」という焦りがあった。
いくら稼ぐ力があるとはいっても、男性に求められない女は片手落ち…こんな気持ちもどこかにある。
「このままじゃダメ!ちゃんと婚活しよう!」
以前は忙しさにかまけて参加しなかった食事会にも、積極的に参加するようになっていた。
◆
今日は、元同僚で現在は別の外資系証券会社に勤務する礼子がセッティングしてくれた食事会だった。
『Reiko Takayama:美紀、今日はよろしくねー!まぁ、正直なところお相手の方々は美紀の年収より低いと思うけれど、一般的には高い方だよ!』
『Miki.Y:はーい!ありがとう〜。楽しみにしているね!』
礼子から事前に“けん制”と取れるようなLINEが送られてきていたが、実際に食事会の場となってそれは現実のものとなった。
「じゃあ、自己紹介しまーす。えっと、幹事の加藤高志です。食品メーカーに勤めている32歳です!…」
― 32歳、食品メーカーか。…よくて1,200万円くらい?
男性陣は案の定、日系企業の人ばかりだった。
美紀は結婚したいものの、自分自身が厳しい世界で生きてきて高年収を稼いでいるだけあって、男性に対する要求が高い自覚がある。
男性陣の自己紹介を聞く度に、美紀は頭の中で彼らの年収をはじき出しては、自分のテンションがどんどん下がっていくのを感じていた。
しかし、即座に思い直した。
― ダメダメ!私は、結婚相手を見つけるためにここに来ているんだから!笑顔でちゃんと対応して次につなげないと!
「はじめまして、山根美紀です。えっと、いまは証券会社でファンドマネージャーをしています…」
このような場で、自己紹介に“外資系”をつけるのはご法度であることは百も承知だ。
職業や会社名で引かれたらそこで試合終了だ。そんなことがないように、あくまでふんわりと自己紹介をする。
そして、終始笑顔で可愛い女子を演出し、男性陣から連絡先を求められたのだった。

◆
翌日。
『Takuya:美紀ちゃん、昨日はお疲れさま〜!早速なんだけど、今度飲みに行こうよー』
早速LINEを送ってきたのは、不動産会社に勤務する拓也だった。
美紀は、久しぶりのデートのお誘いに舞い上がる。
しかし、拓也からの食事の誘いに美紀が返事をしてからというもの、彼からは好きな食べ物や都合のいい日程を伺う連絡は一向に来なかった。
ようやく返信が来たと思ったら、とうに1週間を超えた後だったのだ。
― ったく、こういうのって相手の都合を考えて日時は早めに決めるものでしょ?その後は、女性の好きな食べ物を聞いたりするものじゃないの?
もし美紀が誘う男性の立場なら、まず日程の候補を出して日時を確定させる。
そして、食事についても、相手の女性に好き嫌いやアレルギーがないかを必ず確認する。その上で、店をいくつかピックアップし、もちろん2次会のお店まで含めてプランニングするはずだ。
年収が高くハイキャリアを自負する人種は、基本的に時間の無駄が嫌いだ。
たとえ相手が無意識であっても、自分の時間を無駄に食う行為をしてくる相手は気に入らない。
キャンセルしてやろうかと思ったが、そうしては食事会に行った時間と金を回収できない…。
費用対効果を考え、とりあえずこのデートは対応しよう、と美紀は思ったのだった。
デート当日。
それまでのやりとりに不満を感じつつも、美紀はデートの準備を進めていた。
まったく期待はしていないが、一応デートだ。ESTNATIONで購入したワンピースに、Valextraのバッグで向かった。

しかし…。
あらかじめ『恵比寿に18時、詳細は当日連絡する』と知らされていたが、当日になって連絡がきた待ち合わせ場所のLINEに、またしても美紀の不満は限界に達しようとしていた。
『Takuya:恵比寿駅西口の改札を出たところに18時ね』
― はぁ?何で私があんなに込み入った場所で突っ立っていないといけないの?だいたいお店で待ち合わせとか、もっといいやり方あるでしょう?
その後の拓也が選んだお店でも、料理やお酒のセレクトから、何から何まで気に入らなかった美紀。
飲み直しの誘いを受けたが、「ごめんなさい。次の日、仕事が早いので」とだけ告げて、デートを切りあげた美紀だった。

◆
1週間後の土曜日。
美紀は、食事会をセッティングしてくれた礼子とランチをしていた。
「ねぇ、あの食事会の後はどうだった?」
礼子に聞かれた美紀は、あのデートの日のいら立ちを思い出し、こう返したのだった。
「うーん、不動産会社の拓也くんと1度食事に行ったのだけれど、何だかあまり合わなかったなぁ…。
お店のセレクトとかも取ってつけたような居酒屋だったし、それまでの調整もグダグダで、この人仕事できなさそうって…」
美紀が話している間、礼子の表情がどんどん曇っていったのもわかっていた。しかし、もう美紀は自分で愚痴を言うのを止められないでいた。
そして、話を一通り聞いた礼子は、半ば呆れた顔で美紀に言った。
「ねぇ、美紀。結婚したいなら、そういうのは直した方がいいよ」
「えっ?」
驚く美紀に構わず、礼子は続けた。
「美紀が言っていることなんて、ぜんぶ他愛ないことじゃない?それに、仕事できなさそうって…。世の中の男性の多くは、美紀の半分の給料でも十分高年収とされるの。
そんなことにいちいちNG出していたら、もう男性と付き合えないよ?もう、一生1人でいなさいよ」
長年の友人だからこそ、礼子は言ってくれたのだろう。しかし、思わぬお叱りを受けてしまい、美紀は黙り込んでしまった。
そんな美紀に、礼子はさらに追い打ちをかける。
「美紀、確かにあなたは自分の努力で年収上げてきたし、それは友人としても認めるわ。でも、だからって人をバカにしていいわけじゃないのよ。そういうのって、どこかで透けて見えるからね」
30代前半にして年収3,500万円を達成した美紀は、知らず知らずのうちに鼻持ちならない女になっていた…ということを礼子は言いたかったのだろう。
― 礼子の言っていることは正しいけれど…。
本来なら、反省するべきところなのだろう。
しかし一方で、“鼻持ちならない、傲慢な考えを持った自分を矯正しなければ”という気持ちよりも、“高年収を誇って何が悪いのよ”という気持ちの方が勝ってしまっている。
この「年収が高い」というのは、自分のアイデンティティーの1つだ。それを誇って何が悪いのか。
そして、自分と同レベルの男を求めて何が悪いのか…。
「そうね、私、一生独身でいいかもしれないわ。お金あるし」
もう、どうしていいのかわからなくなっていた美紀は、自嘲気味に礼子にこう返したのだった。
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