とんねるず(左から)石橋貴明さん(Getty Images)、木梨憲武さん(2016年5月、時事通信フォト)

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 2018年に「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ系)が終了したのは、テレビバラエティーの歴史の中でも大きな出来事でした。それ以来、現在に至るまで、お笑いコンビ・とんねるずとしてのレギュラー番組がない状態が続いています。

 しかし、これによって石橋貴明さんと木梨憲武さんの二人が活動を休止してしまったわけではありません。むしろ、「とんねるずのみなさんのおかげでした」が放送されていた頃よりも、いろいろな形でそれぞれの姿を見かける機会が増えています。

芸人と関わらない独立独歩の芸人

 石橋さんは「石橋貴明のたいむとんねる」(フジテレビ系)で、毎回さまざまなゲストを招いてトークをしています。AbemaTVでは、「石橋貴明プレミアム」という特番がこれまでに3回放送されました。一方、木梨さんが新たに始めた「土曜朝6時 木梨の会。」(TBSラジオ)も話題になっています。

 最近の彼らを見ていると、番組を通してさまざまな若手芸人と共演していることに気付かされます。多くの若手芸人が出演している「ウチのガヤがすみません!」(日本テレビ系)に木梨さんが出演した時には、突発的な行動の連続で芸人たちを散々振り回し、驚かせていました。

 とんねるずは元々、他の芸人と関わることが少ない独立独歩型の芸人でした。他に芸人がいない小さい事務所に所属していて、その後は独立して個人事務所を設立しました。同じ事務所の後輩がいないため、芸人との接点がほとんどなかったのです。「とんねるずのみなさんのおかげです」では、ミュージシャンや俳優、アイドルなど、他のジャンルのタレントがゲストとして加わることが多く、芸人はあまり出ていませんでした。

 また、番組の裏方であるスタッフを表舞台に引っ張り出すこともありました。とんねるずはコントの中で、彼らをひどい目に遭わせたりする「スタッフイジリ」を得意としていました。いわば、とんねるずにとっては、番組スタッフが後輩芸人のような役割を果たしていた時期が長かったのです。

 しかし、番組が「おかげです」から「おかげでした」にリニューアルされた1997年以降、芸人がよく出るようになりました。とんねるずと後輩芸人が絡むところは、それまであまり見られなかったので、当時は新鮮に映りました。おぎやはぎ、バナナマン、有吉弘行さん、カンニング竹山さんなどがよく出ていました。

 とんねるずの後輩芸人に対する扱い方は独特です。普通の芸人であれば、一定のルールの範囲内で後輩には優しく接するものです。例えば、「人志松本のすべらない話」(フジテレビ系)のことを考えてみてください。確かに、あの場にいる若手芸人は「面白い話をしなければいけない」というプレッシャーを感じていることでしょう。

 ただ、いざ話をすれば、松本人志さんをはじめとする先輩芸人が優しくフォローしてくれたりします。何より、厳しそうに見える松本さんは後輩の話で誰よりもよく笑います。厳しそうに見えても根底のところでは優しいというのが、後輩芸人に対する普通の接し方なのです。

 それに比べると、とんねるずの後輩芸人に対するイジリは容赦なく、冷たく見えます。石橋さんはわざと横暴に振る舞い、スベってしまった芸人には「面白くない」とすら言うこともあります。また、木梨さんは先の読めない行動で芸人たちをひたすら翻弄(ほんろう)します。落とし穴に落ちていったん出てきた芸人に体当たりをして、もう一回突き落とすというのは木梨さんの代表的なテクニックです。

 とんねるずは決して冷たいわけではありません。長年、バラエティーの最前線で生きてきたプロとして、予定調和に陥ることを徹底して避けているだけなのです。今のお笑い界では芸人同士が優しく助け合うことが普通になっていますが、それが視聴者に見透かされてしまうとスリリングな面白さはなくなってしまいます。

 とんねるずは、あえて緊張感を作ることで現場の空気を盛り上げ、笑いを生み出していきます。それは後輩芸人への態度にも表れています。長年、一匹狼として誰ともつるまずに笑いを作ってきたからこそ、周囲を圧倒して場を制する技術が抜きん出ているのです。テレビに出る芸人の数が増えた今の時代、とんねるずの芸風は特別に輝いて見えます。