廃線トンネル走る“カート”が人気、高千穂あまてらす鉄道が年間15万人を集める理由

高千穂あまてらす鉄道で巡るトンネルの旅を紹介する(写真:あまてらす鉄道提供)
日本各地で、さまざまな形で公開されている鉄道廃線トンネル。今回は高千穂あまてらす鉄道で巡る、旧高千穂鉄道と九州横断鉄道計画に関連する未成線トンネル群を紹介する。
宮崎県高千穂町にある高千穂あまてらす鉄道は、2005年9月に台風14号の甚大な被害を受けて休止され、その後廃止された第3セクター高千穂鉄道の一部を活用した観光鉄道だ。
鉄道運行当時の終点・高千穂駅から天岩戸(あまのいわと)駅跡を経て大平山トンネルの手前で折り返す約5kmを往復している。“グランド・スーパーカート”(以下、カート)と呼ばれる、オープンエアの向かい合わせロングシートの2車両の前後を動力車を挟む編成で、1日10便ほど運行している(カートは各30人定員、1便当たり60人定員)。

トンネルの先にグランドスーパーカートが見える(写真:あまてらす鉄道提供)
インバウンド比率は約4割、神話の里が観光コンテンツに
2008年の会社創立以来、復活への道のりは紆余曲折があった。しかし現在社長を務める郄山文彦氏らの熱意が実を結び、徐々に観光客の人気を集めていった。
併設する高千穂鉄道記念資料館や、現在も動態保存されている運行当時のディーゼルカーの運転体験を含む入場者数は右肩上がりに伸び、2025年度は単年の入場者数が初めて15万人の大台に達した(同社調べ、下図参照)。

2025年度の入場者数は15万人を突破した(速報値)
この数字は、全国各地で鉄道廃線の観光活用が珍しくなくなった現在でも稀有なケースと言える。特にインバウンドはSNSの影響が大きく、来訪者がTikTokで拡散してさらに増えていくという好循環が生じ、2024年度のインバウンド客数は前年の2.5倍に急増。単年で5万人を突破し、インバウンド比率が全体の4割に迫る伸びを示している。
かつては台湾などアジア主体だったが、今、欧米からの来訪が増えているのはSNSの効果だと、同社では分析している。
高千穂は外国人旅行者に人気の阿蘇エリアから宮崎方面へのルート上にある。高千穂峡や天岩戸神社など、見どころの豊富な神話の里・高千穂を経由して宮崎へ、五ヶ瀬川の清流に沿って抜けるこのルートは、外国人観光客にも魅力的で、路線バスでも外国人グループの姿が目立つ。
高千穂あまてらす鉄道は、今や九州の人気横断ルートの観光コンテンツとして彼らに認知されつつある。さらに、まだまだ伸びしろがあり、インバウンドの地方分散化への一翼を担う期待も感じる。

高千穂駅全景。ホームや車庫など鉄道運行当時と変わらない風景の先に九州山地がそびえる(写真:筆者撮影)
「九州横断鉄道」の未成線トンネルを活用
鉄道の歴史は古く、1939年(昭和14年)に国鉄日ノ影線として延岡〜日ノ影間が開通し、その後、戦争を挟んで1972年(昭和47年)に高千穂まで延伸されて、高千穂線と改称された。
国鉄当時、熊本側ですでに開通していた高森線(現・南阿蘇鉄道)の終点・高森と高千穂を結ぶ「九州横断鉄道」の延伸計画があり、実際に路盤やトンネルの建設に取り掛かっていた。
しかし、途中の高森トンネルの工事中に地下水脈に突き当たり、大量の湧水が発生したため工事は頓挫。その後、延伸計画は凍結された。
高森トンネルはその後「高森湧水トンネル公園」(熊本県高森町)として利活用されており、高千穂側の葛原(かずらわら)トンネルの一部は高千穂観光物産館「トンネルの駅」として、地元焼酎会社による特産の焼酎の貯蔵・販売が行われている。
未成線のトンネル跡地の活用が県境を跨いで実施されている中、鉄道を復活させたい有志の強い思いが実を結び、高千穂あまてらす鉄道は、多くの観光客を集めている。

運行当時と変わらない高千穂駅の駅舎。限られたスペースには物販コーナーもあり、同社の売上増に貢献している(写真:筆者撮影)
峡谷を見下ろす“日本一高い鉄橋”で撮影タイム
朝一便の高千穂9時40分発の便に乗車した。
高千穂駅は運行当時の姿をとどめる駅舎やホームのほか、保存された車両を格納する車庫も健在で、併設された高千穂鉄道記念資料館(別料金)とともに公開されている。カートは予約制ではなく先着順のため、早めに駅に行ってそれらを見学すると良いだろう。
車庫内には当時のディーゼルカーが2両あり、車両下の検車用のスペースに潜って、エンジンや台車を真下から見学することもできる。
また、駅構内での運転体験も行われ、定期開催のほか事前予約制による臨時開催も受け付けている(運転免許証が必要)。


車庫内には運行当時の気動車が2両保存され、運転体験も行われている。車両点検用通路に潜ると台車などを下から眺められ、鉄道ファンにはうれしいところ(写真2点:筆者撮影)


高千穂鉄道記念資料館にはタブレット閉塞機など国鉄時代の展示物や、高千穂鉄道や高千穂エリアをイメージしたジオラマもある(写真2点:筆者撮影)
屋根のないカートで味わう抜群の開放感
ホームにはすでに、白地にピンクのラインが鮮やかな2両のカートが停車していたが、発車時にはシートがほぼ満席になる盛況で、女性客の姿も目立った。後で関係者に聞いたところ鉄道ファンは少数だという。
強力なディーゼルエンジンを搭載し、バイオディーゼル燃料(食用油の廃油から作られた燃料)を活用した動力車に牽引され、スタートすると、ほどなく最初のトンネル(第2高千穂トンネル、214m)に入る。
トンネル内では天井部が鮮やかにライトアップされる仕掛けが見られ、これは2両の動力車から発光しているものだ。
ほどなく、長い2番目のトンネルに入る(第1高千穂トンネル、489m)。トンネル内は25/1000(1kmで25m)の勾配で、九州山地を貫く山岳路線であったことを物語る。
トンネルを出ると、やがて高千穂を取り巻く山並みが遠望できるようになる。カートに屋根がないため、開放感この上ない。雨天時は傘を持ち込むスペースがないため、レインコート(雨ガッパ)着用となるが(持参していない場合は乗車前にポンチョを購入)、高千穂の雄大な自然を体感できる魅力は、あまてらす鉄道ならではだ。

グランドスーパーカート(2両)の前後に強力な動力車を連結。自然環境に配慮しバイオディーゼル燃料を使用している(写真:筆者撮影)

2本あるトンネルの最初が第2トンネル。運行当時の終点からスタートするため、“第2”が先となる(写真:筆者撮影)

489mの長い第1トンネル内は勾配とカーブが続く山岳トンネル(写真:筆者撮影)

走行中の動力車から発光するトンネル内のライトアップ。無照明のトンネルに入ると、サプライズで鮮やかな光がトンネル壁面を照らす(写真:あまてらす鉄道提供)

運転席後ろに発光装置が見える(写真:筆者撮影)
運転士がシャボン玉を飛ばして景色を彩る
切り通しや、ホーム上に小さな待合スペースが残る天岩戸駅を過ぎ、一旦停止。運転士が風速を確認した上で、最大の見どころである高千穂橋梁(高さ105m、全長352m)に、速度を落としてさしかかる。
はるか下に五ヶ瀬川の清流を見下ろす地点で停車し、撮影タイムとなった。
この地点でかつての運行当時も特別停車のサービスがあり、ディーゼルカーの窓を開けて直下をのぞき、その高さにゾクっと身震いしたものだ。
日本一の高さの鉄橋として有名であったが、今、遮るもののないカートからの眺めは爽快で、谷をわたる風が心地良かった。また、カートの床中央部は強化ガラスのため、直下が見えて迫力満点だ(ただし、カート上で移動できないので運次第)。
停車中、運転士がシャボン玉を吹くサービスがあり、シャボン玉が橋梁から谷へと輝きながら飛散するさまには、乗客から歓声が上がった。
方言交じりの肉声の案内も朴訥として好感が持てる。同乗したアジアからの観光客はおそらく全てを理解はしていないと思われたが至って楽しげだった。
昔、ほかの地域のある観光列車で、車内放送のマイクで歌を大声で披露する車掌に正直、閉口した経験があるが、こちらは運転士2人の息の合ったもてなしで、さり気ないホスピタリティが心地良い。旅の思い出を彩る温かさがあった。

沿線に平地は少なく、丘陵部の切り通しに設けられた両側の擁壁の高さに圧倒される(写真:筆者撮影)

高千穂の次の駅だった天岩戸駅のホーム跡を、カートがゆっくりと通過する(写真:筆者撮影)



コースのハイライト、高さ105mの高千穂橋梁。はるか下に五ヶ瀬川の渓谷が見える。しばらく停車してくれるので、九州山地の遠景や高千穂の田園風景を楽しめる(写真3点:筆者撮影)
通年営業を支える社員の奮闘
往復約30分の行程を終え、同社専務取締役の齊藤拓由(ひろよし)氏にお話を伺った。
台風被害による鉄道廃止の後、地域に復興運動の機運はあったものの、運営を軌道に乗せて現在の盛況に漕ぎつけるまでの道のりは、決して平坦なものではなかったという。
高千穂あまてらす鉄道は、いわゆる上下分離方式で運営され、線路や鉄道関連施設などの用地は自治体が保有している(法規上は鉄道ではなく遊具)。
社員数は11人で(2025年10月時点)、人件費は物販や入場料などの収入でカバーできており、少数精鋭の中で、社員それぞれが役割を果たしている。
また、日本一の高さを誇る高千穂橋梁や2本のトンネルといったインフラのメンテナンスは、自治体との適切な役割分担により対応されているという。
例えば、定期的な点検は鉄道側で行い、仮にトンネル内で漏水などのアクシデントが発生した際には自治体が対応する。しかし、車両のメンテナンスを自前で行うことは他地域のローカル私鉄でも容易ではなく、維持費はもとより、代替部品の入手など、厳しい現実の中でやり繰りをしているという。
バイオディーゼル燃料も高騰しているが、「自然に恵まれた高千穂において環境への配慮を第一に考えている」と齊藤氏。気象条件の厳しい山間部で、通年で安全運行を続けられるのは、社員の意識の高さと地域とのコミュニケーションを常に大切にし、全国各地の廃線活用事業者からも慕われる齊藤氏の人柄によるところが大きいと感じた。


高千穂橋梁上の停車中に、2人の運転士がシャボン玉を吹いてくれ、風の音を聞きながら粋なサービスを楽しんだ(写真2点:筆者撮影)
「1%の可能性があれば、鉄道の復活に賭けたい」
齊藤氏は、「“ローカルな玄関”としてこの鉄道を大切にしていきたい」と語る。
初めて訪れた観光客に対し、カートの運転士自らが肉声で沿線風景を案内し、一生懸命なおもてなしで楽しんでもらう。一方で地元の高校と連携し、高校生の探究学習の一環として、高千穂名産のお茶の販売や、天岩戸をイメージした鬼のコスプレでのお出迎え、カートでの放送体験などを行う。そうして高千穂の歴史や文化、当地にあった鉄道の存在を学ぶ機会を設けている。
そんな齊藤氏は「“鉄道”を復活させたい」と語る。今なお当時のレールが沿線に現存する、かつての高千穂鉄道の復活だ。
高千穂鉄道で運転士として現場経験を積み、廃止後、長らくあまてらす鉄道の運営に携わってきた齊藤氏は、全国の地方鉄道を取り巻く厳しい現状を承知の上で、「今あるあまてらす鉄道も、何もやらなかったら更地になっていたかもしれない。99%無理でも、1%の可能性があるのなら、それを目指したい」と力を込めた。
廃線跡の“鉄道”の本格復活へ、奇跡のような右肩上がりの曲線を描いてきた高千穂あまてらす鉄道の今後から、目が離せない。
下の動画は、長いカーブの第二トンネルをゆくカートから撮影したトンネル天井部ライトアップなど(高千穂あまてらす鉄道撮影)
※インタビュー、主な撮影は2025年10月23日実施
関連情報
◆高千穂あまてらす鉄道(公式ウェブサイト)
筆者:花田 欣也
