芸能界を一時去った後、絶望のどん底にいたルビー・モレノさん。そこから這い上がり、辿り着いた先に待っていたのは、かつてのきらびやかなスポットライトとは対極にある世界でした。ジェットコースターのような人生を歩んできた彼女が、「今が人生で一番幸せ」と語る、その等身大の日常とは。

【写真】一世を風靡したのも納得「思わず瞳に吸い込まれる美女」当時のルビー・モレノさん(4枚目/全8枚)

4時半に起きて、アルバイト先に向かう日々

現在も女優として活動を続けるルビー・モレノさん

── かつて主演女優賞に輝く活躍をされていたルビー・モレノさん。現在はどのような生活を送っているのですか?

ルビーさん:女優のお仕事を少しずつしながら、毎日平穏に暮らしています。普段は4時半に起きて家のことを済ませ、6時には近所のスーパーにあるパン屋さんに行って、10時までアルバイト。私、パンとピザを焼いてるんですよ。これが本当に楽しくて。

職場の仲間がみんな私と同じ60歳以上の女性ばかり。昔は帽子とマスクとエプロンで正体を完全に隠していましたが、最近は居心地が良すぎて、休憩室ではマスクも外し、ノーメイクの素顔で過ごしています。

── 以前は身バレを恐れていましたよね。バレそうになっても「ルビー・モレノに似てるってよく言われる」とごまかしていたとか。

ルビーさん:今は素顔をそのまま出しています。それなのに、誰も気づいてくれないんです(笑)。あまりに気づかれないので、先日とうとう自分から「ねえ、ルビー・モレノって知ってる?」って匂わせてみたんですよ。そしたら「あー、昔いたね。もうフィリピンに帰ったんでしょ」って散々言われて。「帰ってないよ!ここにいるよ」って言ったんです。

── まさかのカミングアウト(笑)。

ルビーさん:そしたら「まあ、言われてみれば似てるよね」で終わり。誰も信じてくれません。今日だって仕事終わりに「今から取材に行ってくるね」とみんなに言ったら、「そういう冗談はもういいから」って(笑)。そんな、なんでもズケズケ言い合える関係が最高の職場です。

── 楽しそうな職場ですね。ルビー・モレノさんが同僚で、一緒にピザを焼いているというのは不思議な感覚です。

ルビーさん:焦がしてよく怒られるんですけどね(笑)。自分で焼いたパンを買って帰って、ご近所さんや仲良しのお友達におすそ分けすることもあります。

帰宅したらお昼ご飯を作って夫と食べます。夫は定年退職をして家にいるので、2人でゆっくりする時間が今は多いですね。午後は愛犬の散歩に行ったり、家のことをしたり。夕方になると夫と「今日は何を食べようか?」と相談して、外食したり自宅で作ったり。毎日が本当に穏やかで幸せです。

「立ち止まらなければ沈まない」どん底を越えた先の境地

親友とはいつも一緒で家族ぐるみのお付き合い

── 脳性まひの娘さんの医療費を稼ぐために日本に出稼ぎに来て以来、多くの出来事を体験されました。激動の人生を振り返って、今はどう感じられていますか?

ルビーさん:振り返ってみると、本当にジェットコースターみたいな人生ですよね。良いときもどん底も経験しました。振れ幅が大きいんです。自分にも至らない部分があったけれど、事実と違うことを言われてたくさん傷つきました。でも、今はそれを否定したり「わかってもらおう」という気持ちはまったくないですね。大切な人たちに囲まれたこの生活が守れればいいと、それだけです。

──「お騒がせ」と言われた時期もありましたが、その強さの秘訣は。

ルビーさん:私はどんなときでも常に前向き。「負けてたまるか」っていう気持ちで人生を這い上がってきました。「立ち止まらなければ沈まないじゃん!」と自分に言い聞かせて。いろんな経験が私を強くして、この穏やかな日々に連れてきてくれた。毎日に感謝しかないです。

── 今後の夢はありますか?

ルビーさん:フィリピンの妹たちも全員大学を卒業して自立して、それぞれ幸せな人生を歩んでいるので、今の生活を大切に、周りが健康でいられれば。あとは、映画に出て職場の人たちを試写会に呼び、「ほら!私、本物のルビー・モレノでしょ!」って証明するのが、最近のささやかな夢ですね(笑)。

「私が誰であるか」を証明することに、疲れてしまう日はありませんか。

かつてのスターであることを誰も信じない職場で、ピザを焼きながら笑うルビーさん。彼女が手に入れたのは、過去のレッテルから解放された「本当の自由」でした。「立ち止まらなければ、沈まない」。 その力強い言葉は、不器用な毎日を必死に泳ぐ私たちの、小さくて頑丈な浮き輪になってくれるのかもしれません。

取材・文:大夏えい 写真:ルビー・モレノ