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私立通信制高校の大手「N高等学校」(学校法人角川ドワンゴ学園)に対して、亀戸労働基準監督署(東京・江東区)が労働基準法違反にもとづく是正勧告をおこなっていたことがわかった。

同学園の元・現教員の3人が加盟する労働組合「私学教員ユニオン」が6月11日、都内で会見を開いて明らかにした。是正勧告は5月19日付。角川ドワンゴ学園は「真摯に受け止めている」とコメントしている。

●150人を担任する教員も

勧告内容は、(1)賃金の未払い(労基法24条)、(2)休憩時間がとれていない(労基法34条)、(3)36協定なしでの残業(労基法32条)、(4)就業規則の作成・届出の義務をはたしていない(労基法84条)。

私学教員ユニオンによると、N高の教員だった組合員は、生徒・保護者の電話、メール、Slack(コミュニケーションツール)を対応するほか、業務に関する会議、単位認定試験の作成・採点、レポートの採点など、幅広い業務をおこなっていた。

こうした状況のもと、教員1人あたり150人(3年生は80人)を担任するため、スクーリング(対面授業)期間は、事実上、ほぼ休憩がとれなくなり、ある組合員は、最も多い月で90時間を超える残業だったという(労基署の認定は66時間)。

●元教員「労働環境は教育の質に大きく関わる」

この日の会見には、ことし3月末で退職した元教員の女性も出席した。

多様な教育ができる理念に共感していたが、「担任数の多さやスクーリングなどの業務過多で日に日に疲弊し、ピークで忙しかった時期には、休日にもSlackの通知音や着信音が幻聴で聞こえてきたり、エアコン音が着信音に聞こえることがあった」(女性)。

それでも担任業務にやりがいを感じて、仕事をつづけようとしていたが、他部署へ異動できず、長時間労働に耐えられなかったため、退職することにした。現在は、派遣のアルバイトで生活しているという。

「N高は日本の教育を大きく担い、教員の労働環境は教育の質に大きく関わります。また、教育は社会や未来に関わるものであるため、N高の労働問題は内部だけの話ではないと思っています」(元教員)

●角川ドワンゴ学園「労働環境については非常に力をいれている」

N高の労働問題をめぐっては、ことし5月24日、ダイヤモンド・オンラインで「角川ドワンゴN高は『教員1人で150人担任』が当たり前の超過酷職場だった」というタイトルの記事が掲載された。

この記事について、学校法人側は「当校が“超過酷職場”であると記事では書かれていますが・・・(中略)・・・『超過酷職場』というような表現は当たらないと考えております」と反論していた。

角川ドワンゴ学園は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、是正勧告があったことは事実だとしたうえで「真摯に受けとめている。労働環境については非常に力を入れており、改善につとめていきたい」とコメントした。

一方で、賃金の未払いについては、「休日出勤は、代休として年度内に消化していた。割増分の『25%』は支払っており、未払いはないと考えている」とした。(この点について、ユニオン側は、本来は『125%』を支払うべきだと主張している)

●生徒数は2万人弱

ホームページによると、角川ドワンゴ学園が運営するN高は2016年4月、沖縄県うるま市に開校。インターネットを活用した「新しい高校」だ。ことし4月には、茨城県つくば市でS高を開校した。生徒数は合わせて1万9732人(2021年5月現在)。

理事長は、元文部科学事務次官の山中伸一氏、理事は、スタジオジブリ代表の鈴木敏夫氏、ドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏など。アドバイザリボードのメンバーには、社会学者の上野千鶴子氏、古市憲寿氏など、そうそうたる顔ぶれが並んでいる。