沿線自治体、将来像描けるか
 経済合理性だけを考えると釧網線維持のハードルは高い。JR北の元幹部は「ラムサール条約登録湿地の真ん中を通る、他にはない路線。絶対に廃線にしてはいけない。観光鉄道として活用できる」と見る一方、全線維持には否定的な見方を隠さない。「山越え(緑駅―川湯温泉駅間)の廃止は最も現実的な選択肢だ。利用は少なく、施設の老朽化で維持費がかかる。具体的に検討していた」と明かす。

 オホーツクと釧路の両支庁管内を分ける峠周辺は急勾配で豪雪地帯。完成から約80年たつ釧北トンネルが分水嶺(れい)を貫く。同区間の定期利用者はほぼゼロ。網走から知床に至るオホーツク側と釧路から摩周、川湯温泉の釧路側は「文化・経済圏が大きく異なり、行き来する地元需要もほとんどない」(本松昭仁北海道清里町副町長)。

 それでもJR北や沿線自治体は“ネットワーク維持”を念頭に、検討を進める方針だ。道東の周遊ルートとして釧網線が持つ潜在能力を探る考え。くしくもJR北が単独維持困難と示したことで、交流の希薄だった釧路・オホーツク双方の沿線自治体が同じテーブルで話し合う機会が生まれた。鉄道を観光活性化に役立てられるか。沿線の連携、協業は始まったばかりだ。

 18年7月に国土交通省がJR北に監督命令を出した際、ある国交省関係者は「路線を維持するのであれば地元から思い切った提案が必要だ。例えば冬期に区間運休する発想などがあってもよい」と示唆した。

 路線の維持は沿線自治体が、鉄道を活用した地域の将来像を描けるかにかかっている。JR北は集中改革期間を総括する23年度までに、今後の方向性をまとめなければならず、残された時間に余裕はない。
(取材・小林広幸)
<釧網線>
網走市と釧路市を結ぶ。全長166キロメートル。沿線には流氷で覆われるオホーツク海、世界自然遺産の知床、阿寒湖・摩周湖・川湯温泉を含む阿寒摩周国立公園や釧路湿原といった数多くの観光資源を抱える。一方で過疎化によって輸送密度は40年前に比べて5分の1程度に減った。湿地帯に敷かれた線路の維持管理のほか、シカ対策や除雪の対応など保守面も悩ましく、年約15億円の赤字が発生。車両の更新や土木構造物の修繕に今後20年で49億円が必要と試算される。