−−魔法少女の変身シーンもみんなキュートに描かれています。

新房:ほとんど現場に任せていたのですけれど、一つだけ変身シーンに限らず全編通してですが「裸にはしないでね」と(笑)。僕の中では、美少女が裸になるというのは『イデオン』の刷り込みだと考えているんです(笑)。それが嫌だったんですよね。この作品はそういう話じゃない、と。

−−なるほど(笑)。一方で魔女との戦闘シーンには劇団イヌカレーさんが携わっていますが、独特の世界観ですね。紙芝居や影絵のような造形もあって、まさに「異空間設計」というクレジットの通りでした。

新房:今までにない演出が欲しいという意図でのオーダーだったのですが、完全に「イヌカレー・ワールド」ですね。女性的なメルヘンな要素もありながら紙一重の危うさもありますね。

−−戦闘シーンのアクションもかっこいいですよね。特にマミのガンアクションはファンの人気が高いです。

新房:シナリオ段階で既にアイディアはあったのですが、誰が決めたというのではなく皆でディスカッションして、アクションディレクターの阿部望さんが武器などを調べて描いてくれて、あのような形になりました。

−−そのマミは、テレビ版では3話で死んでしまうのですが。

新房:プロットの時点で早い段階で死ぬとというのは決まっていたので、狙っていたところではあります。これでファンが離れるのではとドキドキしました。人気が出て嬉しいというよりほっとしましたね。

−−特に女性ファンの間では、恭介を巡るさやかと仁美のエピソードが話題になっています。「あなたには私の先を超す権利がある」という仁美の言葉には賛否両論あるようです。

新房:ストーリー上さやかが魔女化する一環ではあるけれど、そういう論争が出てくるところは面白いですよね。正々堂々と恋の勝負をしているように見えるけれど、仁美が自分の勝ちを分かっていて言っているのか。さやかにわざと告白させるために言っているのかもしれないし。ストーリーを進めるためのエピソードがいろいろな解釈をしてもらえるところが面白いですね。

劇場版『魔法少女まどか☆マギカ』後編 (C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project

−−テレビ版と、映画の前後編との違いについてもお聞かせ頂きたいのですが。ただのダイジェスト版には留まらない完成された作品という印象を受けました。

新房:これはテレビを原作にした映画なんですよね。だから「あの場面がなかった」とかいう声がどうしても出てくると思うけれど、それだけ細かく観ているファンが多いということでもありますし。

−−後編にも、テレビ版オープニングテーマの『コネクト』が入っていますが。

新房:最初は入れるつもりはなかったんです。劇中でテレビのオープニングが流れるということは普通はやらない。それでもあえてやったのは、ファンムービーという側面があるからです。賛否はあると思いますが、それでもいいんじゃないかと。それに、大きな画面で観てもらいたいという思いもありました。

−−テレビ版よりも、画面が少し暗いような感じを受けたのですが。

新房:それは、夕方と夜の場面が多いからですね。だから、劇場版では場面によってはテレビ版とわざと時間を変えて、バランスを取ったところもあります。テレビだと一週間のインターバルがあるし、CMも入るので場面が切り替えやすいのですが、映画だと全く違うので、そこが難しかったですね。

−−見滝原の街並みもかなり作りこまれています。風力発電が回るシーンもありますね。

新房:工業地帯にロケもしていて、絵的に映えるというのがあります。本当をいうと、風力発電はレンズ型のものにしようとも悩んだんですよ。でも絵にならないのでやめました。騒音が抑えられたり、たくさん風が取り込めてそちらの方が実際にはいいらしいのですけれどね。

−−まどかの家がモダンだったり、一方でほむらの家はヨーロッパの市街地を思わせる作りで、無国籍なイメージを受けました。

新房:ほむらの家はキャラクターの印象が欲しくて、イメージを湧かせていってああいう感じになりました。まどかの家も、実際に今も既にあったりする住宅を参考にしています。学校も全面ガラス張りの教室のところがあるようですし。

−−教室の机が床に収納されたり、近未来的な描写もありますね。

新房:本当は、学校に着いてカードで入ると自宅に連絡が行くようなシステムになっている。描写はされていないけれど、そういう設定なんです。決して夢物語ではなく、モデルケースがあったり近い将来にそうなるであろうというものを取り入れています。これは原作ものではなく、オリジナルストーリーだからこそやれることです。

−−そのような細部へのこだわりも見どころですね。

新房:場所を説明するだけの絵にあんまりしたくなかったというのはありますね。それならばテロップでいいわけで。これは『まどか☆マギカ』に限らずそうしています。

−−それにしても、試写会をせず公開3日前に関係者でご覧になったというのには驚きました。

新房:今のシネコンはデータで納品されるからそれも可能になりました。試写の際には自分も虚淵さんもいなかったんですよ(笑)。

−−実際に劇場でご覧になっていかがでした?

新房:大きな画面では観るもんじゃないな、と(笑)。でも、スクリーンならではの迫力はあるので、そこをファンの方にはご覧頂きたいですね。

−−特に音響は全て新録ですね。

新房:音楽も新曲がいくつも入っていて、梶浦(由記)さんにオーダーしたら「そんなに?」と驚かれてしまったのですが(笑)。シーンがテレビ版から完全に変わるわけではないですけれど、印象は違ってくると思います。そういうところも含めて楽しんでもらいたいですね。


43館という限られた公開劇場数での大ヒットもあって、2012年11月23日から全国26館でのセカンドラン上映もはじまり、今後も上映スクリーンが順次増える予定だという『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』。2013年に公開が予定されている『[新編]/叛逆の物語』への期待も高まるところですが、まずは前後編を鑑賞して、新房総監督以下スタッフの細部にまで渡った劇場版仕様の物語を堪能する必要がありそう。
もちろん、テレビ版が未見で「乗り遅れた!」と感じている人にとっても楽しめる内容になっています。アニメファンならずとも映画館に足を運ぶ価値のある再編集版で『まどか☆マギカ』の世界に触れてみてはいかがでしょうか。


劇場版 魔法少女まどか☆マギカ
http://www.madoka-magica.com/

※画像提供 (C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project