『風、薫る』藤原季節「詐欺師の寛太は弱き者の代弁者。上坂樹里さん演じる直美にシンパシーも」
存在感のある演技で活躍の場を広げてきた俳優の藤原季節さん。放送中の連続テレビ小説『風、薫る』(総合、毎週月曜〜金曜午前8時ほか)では、詐欺師の寛太を演じ、物語に奥行きを与えている。同作は、看護師という職業の確立に貢献した大関和と鈴木雅をモチーフにしたバディドラマ。見上愛さん演じる一ノ瀬りんと、上坂樹里さん演じる大家直美2人が、看護婦として共に学び成長する物語。原案は、田中ひかるさんの『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社刊)。直美と再会した寛太だが、孤児という同じ境遇ながら、違う生き方をする直美と関わるようになり――。めまぐるしく変わる明治の世、「寛太は弱き者の代弁者」だと感じている藤原さんに、役に込めた思いと俳優としてのこれからを聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部)
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直美との違いに戸惑い
<寛太が直美と再会したのは5月21日放送の第39回。ある日直美が商店街を歩いていると、男から「夕凪」という名前の女郎と間違えられる。直美が夕凪の若い頃に似ているというのだ。直美が母につながる手がかりがあると感じて、男の後をつけていた時に、声をかけたのが寛太だった。再会した2人は団子屋に行くが、そこでは同じ孤児でも、直美と寛太の生き方の違いが明らかになった>
寛太は世の中を憎んでいて、復讐心を動機にお金持ちを狙ってだまそうとしています。でも、親がいないという共通点があるのに、りんと出会って看護を学ぶようになった直美は、「私は運が良かっただけかも」と口にする。直美との大きな違いに寛太は何かしら感じるものがあったと思っています。そこが、寛太の更生の糸口かどうかはわからないけれど、少なくとも寛太と直美はお互いに何かを与えあっていると思っています。
寛太は直美の「母親探し」を手伝うことになりました。これから何度も直美に会いに行きます。ただ、それが恋愛的な意味なのかはまだつかみかねていて。寛太は心の中にどこか、さみしさを抱えているから会いに行く。でも、直美にはりんという心を許せる存在がいるから、複雑な気分でもあります。
弱き者の代弁者
連続テレビ小説は15分と放送時間が短いので、ピンとくるセリフ、1行を取りこぼさないようにしています。たとえば、「直美の後ろ姿を見つめる寛太」という1行があったとして、俳優としてはそこにいろんなニュアンスを込めたいという欲がある。カットされてしまうかもしれないけれど、その1行にどんな表現を込めるのか、という勝負をしています。
寛太はつかみどころがないし、何を考えているかわからない部分も多いけれど、寛太を1人の人間として生かしてあげたいし、視聴者に少しでも寛太のことをわかってほしい。脚本の吉澤智子先生が残した1行に魂を吹き込む作業をしています。

(『風、薫る』/(c)NHK)
これから脚本がどうなるかわからないけれど、寛太として激動の明治を生き抜くということだけは決めていて。明治時代には飢饉もあって感染症も流行りました。寛太のように幼いころに親を失った子どももいたでしょうし、新政府がシステムを作るなかでこぼれ落ちてしまった子どももいる。
そんな子が大人になった姿が寛太だと思っています。だから、寛太は弱き者の代弁者でもある。『風、薫る』の物語が終わりを迎えた時に、観ている方に「寛太、生き延びたな」と思ってもらうことが使命だと感じています。
上坂樹里にシンパシー
直美役の上坂樹里さんは以前から注目していました。NHKのドラマ「TRUE COLORS」に出演されているのを見た時に、僕は(俳優の)毎熊克哉さんに「この子絶対、朝ドラのヒロインになりますよ」と言っていたんです。だから、ご一緒できてうれしかったですね。
僕も上坂さんも連続テレビ小説初出演なのでシンパシーを感じています。一緒のタイミングでクランクインした時に、2人ともガチガチに緊張していました。
リラックスするきっかけとなったのが撮影序盤、スリの男の子を小日向がわざと逃がすシーンです。監督がOKを出した後に、スリを演じていた男の子が「これが俺の本気だ」って叫んだ。
それを見て上坂さんと「今の僕たちに必要なのはこれかもね」って笑い合いました。上坂さんに対しては、「一緒に『風、薫る』の世界を生き抜こうね」という気持ち。寛太も直美に対して、同じように思っているんじゃないかな。
朝ドラで目が覚めて
俳優として仕事がない20代のころ、朝起きる理由がないから、ひたすら寝ていました。それじゃ良くないと思って、朝8時にテレビで朝ドラが流れるように設定しました。朝ドラアラームです。朝ドラの音が鳴り響いて起きる生活を送っていました。
今は「風、薫るアラーム」。毎日、Mrs. GREEN APPLE さんの主題歌『風と町』を聞いて起きています。自分が出演している作品なのに感情移入してしまい、泣きそうになることも。すごくフレッシュなキャストが揃っていて、自分もその中の1人に加えていただいたと思うと、頑張らなくちゃいけないと気を引き締めています。
現場では「あ、りんちゃんだ」とか「環ちゃんだ」とか、視聴者目線になるのも新鮮でした。寛太は登場回数が多くはないので、撮影と撮影の間が空いてしまいます。毎回扮装が変わるので、プロデューサーに「どなたですか?(笑)」とわざと言われる。
スタッフの方に愛される人物に育ってきました。 今後も寛太は、登場ごとにいろいろな扮装を見せるので、その七変化を「寛太を探せ」という感覚で楽しんでいただけたら嬉しいです。
目に見えないものを表現
<『ちるらん 新選組鎮魂歌』(U-NEXT)など今年に入って出演作品が相次いでいる。俳優としての知名度が広がりつつある>
注目していただく機会が増えても、僕自身浮かれないように、作品を届けることだけを考えています。もともと、調子に乗りやすい性格だからこそ、気を引き締める日々です。

(『風、薫る』/(c)NHK)
俳優は、感情や命といった目には見えないものを表現する仕事。世の中が便利になって裕福になる一方で、人と人の情とか失われていくものもある。人の気持ちといった目に見えないものを扱えるのが俳優のいちばんの醍醐味だし、便利の裏側で失われたものに関わっていきたい思いが強くあります。世の中から見落とされたり、失われそうになったりしているものを大切にしていきたいです。
全国の映画館にお客様を呼び込めるような俳優になるのが夢。これからのことを考えた時に、真っ先に浮かんでくるのがミニシアターです。僕はインディーズ映画出身で、いろいろな映画館を回らせていただきました。
支配人の方や、観客の方たちと直にコミュニケ―ションを取ってきたからこそ今の僕がある。だから、「藤原季節が舞台挨拶に来るなら映画館に行こう」と思ってもらえるような役者になりたいです。
