武者陵司「2024年なぜ米日が世界経済をけん引するのか」
●コストダウンと販価上昇のダブルメリット
また、ハイテク企業は独占的地位を利用し、販売価格を押し上げている。ChatGPTなどの生成AIに必須の半導体GPUを独占するエヌビディアはその高額販価により台湾積体電路製造(TSMC) やインテル を引き離し、半導体業界売上高首位に躍り出た。知的財産権が価格支配力を生み、価値はそれによって決められていく。他方、技術向上は生産性を上昇させコストダウンをもたらす。
この価格支配力とコスト低下の相乗作用がインターネットプラットフォーマーなどハイテク企業の衰えない利益成長力を支えている。GAFAM5社の税引き利益は2024年には4000億ドルに達するとみられるが、それは日本の法人企業全体の利益額にほぼ匹敵する。また、世界株価指数であるMSCIACインデックスの構成割合をみると、Magnificent7(M7)は17%と、日本、フランス、中国、英国の合計の15%を上回っている(ウォール・ストリート・ジャーナル12.18.23)。M7の株式時価総額の大きさがうかがわれる。
このように巨大化した「第七大陸」が依然として指数関数的成長を続けている事実は、もっと重く受け止められるべきだろう。
●Higher for longer 米国経済は大きな調整なく、大きな利下げもない
米国経済の深刻な減速や株価の急落は考えられない情勢である。今の米国の政策金利5.25~5.50%から利下げがスタートするので2~3%もの利下げが可能、それはアニマルスピリットを鼓舞し株価を大きく押し上げるだろう。
しかし、リセッションの危険がなければ利下げを強行し、過度に株価を押し上げる必要はない。これまでは決まって急速な利上げの後、急速な利下げが実施されてきたことから、市場は今回もそれが繰り返されると見て性急に金利低下を織り込もうとしている。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は繰り返し「Higher for Longer(より高く、より長く)」と述べて、市場で高まる利下げ期待に牽制をかけている。
そもそも利上げの発端であるインフレは大きく鎮静化した。武者リサーチの主張通り、2021年後半からのインフレが一過性であったことは今や明白である。エネルギー価格、サプライチェーンの混乱、食品価格は完全に沈静化した。サービス価格と家賃はまだ上昇が続いているが、サービス価格の決定要因である平均時給はピーク時前年比7%上昇から年率で2~3%まで低下している。また、帰属家賃は住宅価格をもとに遅れて計算されるもので、これから下がってくることが見えている。
●急低下するインフレ、やはり一過性だった
このように2%台のインフレが見えているのに、政策金利は5.5%、実質金利は2~3%と過去15年間で最高の水準が維持されるのはなぜか。FRBはなぜ「Higher for Longer」のスタンスを維持しているのだろうか。
それは持続的な経済成長を維持するのにふさわしい、いわゆる中立金利の水準が上がってきたから、と考えるしかないのではないか。しかし、正しい中立金利の水準は誰にも分からないので、これまでFRBは瀬踏みをしながら利上げを続けてきた。パウエルFRB議長がジャクソンホール会議で言った名言「我々は曇天の下で星を頼りに航海をしている」はそれを示している。
