●「京都に行きたくなった」という声がうれしい

俳優の佐々木蔵之介が主演を務めるABCテレビのスペシャルドラマ『ミヤコが京都にやって来た! 〜ふたりの夏〜』が、30日24:24〜、10月1日24:05〜・2日24:25〜に放送される(関西ローカル、見逃し配信あり)。2021年1月期に連続ドラマとして放送されると全編京都ロケで京都を知り尽くした撮影スタッフによる映像美が話題となり「東京ドラマアウォード2021 ローカル・ドラマ賞」を受賞。その続編である今作では佐々木演じる父・空吉と娘・ミヤコ(藤野涼子)のぎこちなくも愛おしい共同生活を引き続き描きながら、空吉と想い人・佐知子(松本若菜)との大人の恋にもフォーカスする。

今回は佐々木に、今作の見どころや愛する京都の魅力、そして共演者でもありサラリーマン時代の元同期・ますだおかだの増田英彦とのエピソードを聞いた。

俳優の佐々木蔵之介 撮影:島本絵梨佳

○■制作陣が京都をよく分かっているドラマ

――昨年1月クールに放送された連ドラ版の『ミヤコが京都にやって来た!』は「東京ドラマアウォード2021 ローカル・ドラマ賞」を受賞されました。そのときの心境を教えてください。

このドラマはコロナ禍で皆がどこにも行けなくて、僕たちキャストもスタッフも仕事が止まってしまったというときに、この時間を使って何かしてみようというところから手作りで始まりました。海外の方が来られなくなってしまったからと英語を取り入れてみたり、有名なところはもちろん僕たちも知らない新しい京都の姿を盛り込んでみたりしながら、時代劇でお世話になった京都のプロ・松竹や東映の方に教わりながら撮影して。それがこうして賞をいただけて、あぁ、やって良かったなと思いました。「京都に行きたくなった」というお声をいただけたこともすごくうれしかったです。

――作品のどんなところが「京都に行きたくなった」と思わせる仕上がりになったと感じますか。

空吉が自転車に乗るシーンがあるのですが、カメラを川下に据えて鴨川を南から北に向けて撮るだけで、川の段差が美しく「あぁ、えぇなぁ」と思える画になるんです。僕が子供の頃はなかったのですが、飛び石もドラマティックだし、出町柳の三角デルタも美しい。比叡山も映っていて、制作陣が本当に京都をよく分かっているんですよね。京都弁の柔らかさや皆がフワッと面白いことをやる優しい空気も上手く出ていて、穏やかに時が流れているような作品に仕上がったと思います。





(C)ABCテレビ/ケイファクトリー

――蔵之介さんは昨年放送された主演ドラマ『IP〜サイバー捜査班』(テレビ朝日系)でも京都の街並みを自転車で走ってらっしゃいましたね。

ありがたいことに続きまして(笑)。京都市内はさほど広くも高低差もないので、いろんなところへ自転車で移動できるのが魅力です。

○■子どもの頃の“京都の夏”を追体験

――その好評を経て、今回は夏の京都を舞台にした続編が3夜連続で放送されます。決定したときの心境を教えてください。

まずは地元・ホームで仕事ができる、その期間京都で過ごせる、京都に帰れるという個人的な喜びがあり、そして作品を通して京都の1年の中で僕は夏が好きだなと再認識できました。今作の始まりは祇園祭のシーンで、大通りを進む山鉾にスマホカメラを向ける娘のミヤコのカットからスタートするんですけど、台本ができたときにはまだ今年の祇園祭がどうなるか分かりませんでした。でも3年ぶりに山鉾巡行が行われることになり、今年の祇園祭を無事に撮影できたことがうれしかった。京都の子どもにとって祇園祭は夏の始まり。宵々山、宵山と烏丸通や四条通が歩行者天国になって、山鉾を見たり、露店で遊んだり……祇園祭で夏が始まって、五山の送り火があって地蔵盆があって、鮎釣りに行って。しかも僕は実家が酒屋なので、冬場は手伝いで忙しかったのですが夏は少しゆっくりできたんですよね。京都は四季折々でいつも楽しいけれど、今回の作品では子どものときから大好きだった京都の夏に戻れたようなノスタルジックな気分になれました。ただ、ここまで暑かったかな? と(笑)。



――(笑)。京都の夏は暑いと言いますが、昔よりさらに暑くなっているのかもしれません。コロナ禍で始まった作品で、復活した祇園祭が撮影できたというのは、希望を感じられるお話ですね。

文化の伝承の大切さを改めて感じました。でも京都はただ歴史が長いだけではないんです。たとえば食事にしても当然和食ばかりを食べているわけではなく、パン屋さんが多かったりと新しい文化も取り入れている。伝統も流行も両方兼ね備えた京都の魅力がこのドラマにも詰め込まれています。

●サラリーマン時代の元同期・増田英彦との思い出

○■松本若菜も喜んだ差し入れ

――今作では松本若菜さん演じる佐知子との大人の恋も描かれます。先日松本さんに取材した際に蔵之介さんのことを「差し入れの王様」と仰っていたのですが、どんな差し入れをされたんでしょうか。

もう、僕が京都で仕事をする意義はそこしかないと思っているので(笑)。実家が京都で商売をさせていただいている関係でいろんなお店を知っていますし、素敵なものをたくさん味わってもらいたくて、考え抜いた差し入れをさせていただきました。



――松本さんは、中でも生麩のおまんじゅうが忘れられないほど美味しかったと仰っていました。

生麩のまんじゅうって皆あまり食べないんですかね。京都駅でも買えるんですよ。僕もいつも新幹線に乗るときに買って帰ります。ほかにも洋菓子店のアイスや、老舗和菓子屋の大福を差し入れしました。

――やはり東京より京都のほうが勝手知ったるお店が多いですか。

特に今回は松本さんが泊まっていたところが僕の実家の最寄り駅だったので、親子丼や南インド料理、フルーツサンドにアップルパイ、たくさんオススメのお店をお伝えしました。松本さんもメモされていましたね。

――南インド料理まで! 本当に幅広くカバーされているんですね。そんな松本さんとのお芝居はいかがでしたか。

皆さんもご存知の“松本劇場”で話題になった松本さんとまたお芝居ができて有り難かったです。

――“松本劇場”でのご活躍は蔵之介さんも目にされていましたか。

はい。お綺麗なのはもう周知ですが、やはり“実力”を兼ね備えてこその“劇場”ですよね。佐知子は柔らかくてしなやかだけど芯が強くてなんでもへっちゃらという女性。穴の開いた靴下を履いていたりノーメイクだったりという素顔も、松本さんが気持ち良く演じてくれました。ご一緒できてすごく楽しかったです。



○■増田英彦とのシーンは「一番稽古した」

――そして今回は、サラリーマン時代の元同期・ますだおかだの増田英彦さんも出演されます。増田さんが「台本にはない『笑い』を入れたがる蔵之介氏に相談され、リハーサルをする毎に2人のやりとりがドンドン長くなっていった」とコメントされていたのですが、共演シーンについて教えてください。

せっかく増田さんが出てくれるので、僕も色々とやりたいなと思って「ここ、こう変えたくて」と現場で話したら、増田さんは「台詞完全に入れてきたのに」と(笑)。でも「これはどうかな」と聞くと「じゃあこれは?」とまた提案してくれて、楽しくアイデアを出し合いながらどのシーンよりも一番稽古しました。元同僚の増田さんと掛け合いをできることがすごくうれしくて。2人の呼吸が心地よかったです。

――印象に残っている増田さんとのエピソードはありますか。

実は、このインタビューを受けているスタジオが正に思い出の場所なんです。お互い会社を辞めてこの業界に入って、初めて再会したのがこのスタジオの楽屋。僕はドラマの撮影で来ていたのですが、さんまさんの番組で来ていた増田さんが僕の名前を見つけて楽屋まで会いに来てくれました。今まで会社で一緒に仕事をしていた同僚と、スタジオで会うというのは感慨深いものがありました。あとは、『ますだおかだのオールナイトニッポン』に呼んでくれたのも思い出に残っています。しかも番組が始まってまだ2回目の放送に、僕の作品の宣伝にとゲスト出演させてくれて。『オールナイトニッポン』って、オープニングでテーマソングをBGMにスポンサーの名前を読み上げていくじゃないですか。それを自分の同僚が目の前でやっているのを見て、「本当にオールナイトニッポンのパーソナリティやってるんだ、すげぇかっこいい」と涙がこみ上げました。ものすごく感動的でしたね。『M-1グランプリ』で優勝したのもうれしかったなぁ。



――ずっと活躍を応援されていたんですね。お2人のシーンが楽しみです。それでは最後に、今作の見どころを教えてください。

連ドラを見て頂いた方からの声で一番うれしくて、今回もそう感じてほしいと思うのは、このドラマを見て「あぁ、京都っていいな、京都に行きたいな」と言ってもらえること。きっとそう思える作品になっているので、これを見て夏の京都を思い出して、これからは秋という素敵なシーズンも待っていますので、ぜひ京都へお越しください。

――今回のインタビューで蔵之介さんの京都愛が伝わってきましたが……京都に帰りたいという気持ちは湧き上がらないのでしょうか?

それは……ずいぶん前から湧き上がっています(笑)。いつかまた京都に住めたらいいなとは思いますね。





佐々木蔵之介

1968年2月4日生まれ。京都府出身。神戸大学在学中から劇団「惑星ピスタチオ」で活動し、NHK連続テレビ小説『オードリー』(00年)で注目を浴びる。映画『超高速!参勤交代』(14年)で第38回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、映画『空母いぶき』(20年)で第43回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。近年の出演作にNHK大河ドラマ『麒麟がくる』、ドラマ『和田家の男たち』、映画『科捜研の女 -劇場版-』など。2022年は、ドラマ『ミステリと言う勿れ』、映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』、『峠 最後のサムライ』、配信ドラマ『モアザンワーズ / More Than Words』(9月16日〜)のほか、舞台『冬のライオン』にも出演。公開待機作に映画『嘘八百 なにわ夢の陣』(2023年1月公開予定)、『シャイロックの子供たち』(2023年2月17日公開予定)、舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』(2022年11月23日より東京芸術劇場にて)がある。

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