【特別篇】出張!『伊藤家の晩酌』in 尾道 vol.4/今田酒造本店の魅力について
弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 通常回をちょっとお休みして今回から全4回の特別篇をお届け! なんと伊藤家を飛び出し、父・テツヤゆかりの地、広島県尾道市で特別ゲストをお迎えしてイベントを開催した模様をレポートします。最終回は、広島を代表する今田酒造本店の魅力について。(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
“百試千改”の酒造り。日本酒界に新風を吹き込んだ今田酒造本店の存在。

父・徹也(以下、テツヤ)「『富久長』の『海風土(シーフード)』って飲んだことあります?」娘・ひいな(以下、ひいな)「海のSeaに風土って書くんですけど」岡本真人(以下、岡本)「へぇ」テツヤ「ラベルにカニとか魚とかの絵が描いてあってね」ひいな「シーフードに合う日本酒で、白麹で仕込んでいるんです」岡本久美子(以下、久美子)「おいしそう」ひいな「もうひとつ、『Shell Lovers(シェルラバーズ)』っていうお酒もあって。それは貝に合うお酒で『伊藤家の晩酌』でも紹介したことがあるんです。その時は柑橘系にも合うということで鮭のホイル焼きに合わせました」テツヤ「そうそう。あの時は、あえて貝は外したんだよな」ひいな「そうだったね。この間、今田酒造本店に蔵見学に行った時、美穂さんに前掛けをいただいて。そこに『百試千改の酒』って書いてあって。意味は100回試して、1000回改める。その意気込みで日々酒造りに向き合っているんだなと。今の美穂さんの夢は、造れるうちにいろいろ造りたいそうです」
今田酒造本店にて、美穂さんと。いただいた前掛けをつけて。
日本を代表する杜氏のひとり。
テツヤ「美穂さんは小さい頃、東京でバリバリ働くことを夢見てたらしいんだけど……」久美子「へぇ」岡本「人生はいろいろあるものだよね。僕らも尾道にたどり着いちゃったわけだし。時には間違った道に行きながらね……」テツヤ「その道について、個人的にもっと聞いてみたいですけれども(笑)」久美子「いやいや、続きを……」ひいな「はい。美穂さんは酒蔵に生まれたんだけど、小さい頃から東京に行きたくて、大手百貨店に就職したらしいんですけど、32歳の時、手に職をつけたいと思ったんだって。何か技術を身につけることによって人生を変えていきたいという思いがあって仕事を辞めて広島に戻ってきたらしいんです。実家が酒蔵だということで、酒造りをやってみようと。一度、東京に出て、また広島に戻って、当時は女性がお酒を造ることはまだ珍しい中でお酒を造りはじめて、2020年に『今年の100人の女性』に選ばれたのは、本当にすごいことだと思うんです」テツヤ「すごいねぇ」ひいな「美穂さんが選ばれた要因は、精米へのこだわりと、三浦仙三郎さんのような広島杜氏を輩出した“吟醸酒の里”とも呼ばれる安芸津町で、日本酒の新風を吹かせたってことなんですよね。本当にすごいなと思います。今は、食中に飲める貴醸酒造りをしているらしいです」岡本「貴醸酒って?」ひいな「お酒を仕込む時に、水の代わりにお酒を使うんです」久美子「えぇ? どういうこと?」テツヤ「ポートワインみたいなもので、デザートワインっぽい感じかな」久美子「なるほど」ひいな「一般的には、食中に飲むお酒というよりは食前にちょっと嗜んだり、食後にデザート代わりに飲んだりするんですけど、そうじゃなくて、食中に飲める貴醸酒を造りたいらしいんです」テツヤ「蔵に見学に行った時、見せてもらったよね。中華に合うお酒になりそうだって」久美子「中華に合う日本酒か。おもしろいね」ひいな「低温で長時間もろみを造ることを、美穂さんは“相談する”っていう言い方をされていたんです。もろみを“造る”んじゃなくて、もろみと“相談する”と。たとえば、長時間もろみを発酵させる時、何日目で終わらせるのか、どういう基準で決めてるんですか?って質問してみたんですよ」岡本「確かに。今日か明日かって、難しい判断だよね」ひいな「どのタイミングで終わらせるかは、もろみがサインを出してくれるっておっしゃってました。“父と手を繋いでる感じ”ともおっしゃってましたね」テツヤ「ひいなごめんな。出張ばっかり行ってて」ひいな「私もごめんね。出張行っている間に飲んじゃってて」岡本「僕らが使ってる自然派ワインの生産者さんも、きっとそんな感じだと思うよ」ひいな「一緒につきあっていくみたいな感じですよね」岡本「その“対話”ができる人がプロフェッショナルなんだと思うな」テツヤ「広島で、いや日本を代表する杜氏だよね、美穂さんは」岡本「昔は、尾道にも酒蔵があったみたいなんですけどね。因島(いんのしま)にも『白冠』っていう酒蔵があったらしくて」テツヤ「へぇ、そうなんだ」岡本「80代のおばあちゃん杜氏だったらしいんだけど、2013年になくなっちゃったらしい。酒蔵は継いで行かないとなくなっちゃうからね」
伊藤家父娘の心のふるさと、尾道という街について愛を語る。

ひいな「尾道ってどんな街だと思いますか?」岡本「僕も尾道来るまで知らなかったけど、日本でも稀有な街ですよね。こんなに海が近くて、箱庭みたいな街、他にないでしょう?」テツヤ「うん。俺もないと思う。やっぱり尾道に移住して来てよかったですか?」岡本「東日本大震災を機に福島から尾道に移住してきて。あの頃荒んでいた僕らをホッとさせてくれた場所ですから」テツヤ「そうか。福島の前は東京にいたんですよね」岡本「そうなんです。うちのお店は関東から来てくれるお客さんが多いんだけど、尾道に来るとホッとするってみんな言うんです」ひいな「あぁ、わかるなぁ」岡本「どこに生まれ育っていたとしても、たぶんDNAにある原風景が尾道にはあるんだろうな」テツヤ「そうそう」
千光寺山ロープウェイで山頂まで。千光寺公園から尾道の街を見下ろす。
ひいな「私、東京で育ったので、いつか結婚したら地元を持ちたいって思ってたの」テツヤ「東京は地元じゃないのか」ひいな「そうじゃなくて、帰省に憧れがあって。おばあちゃん家も家から近かったので。生まれもった故郷みたいなものを自分の子どもにも味わわせてあげたいなと思ってるんですけど、尾道って理想だなって思うんです」テツヤ「ということは、尾道に住まなきゃいけないね」ひいな「もちろん!」久美子「でも帰省なら、うちらが尾道におって、遊びに来ればいいよね」テツヤ「帰省感を味わうならね」ひいな「それはぜひお願いしたい!」久美子「ひいなちゃんに家族ができたら、うちに連れて来んさい」ひいな「本当にうれしい」テツヤ「いいじゃない。岡本家なら安心だ」ひいな「尾道は本当に住んでみたい街なんです。私の好きな日本酒もあり、好きな食べ物もあり、あったかい空気もあり、広島っていいとこじゃじゃけぇ」テツヤ「突然、じゃけぇ(笑)」岡本「おいでんさいよ」
「いつでも尾道に帰っておいで」と久美子さん。
ひいな「旅行先としても、もちろん最高なんです」岡本「尾道、いいところですよ」ひいな「この記事を見てくださった人も、ぜひ尾道に遊び来てほしいね」テツヤ「桂馬さんでかまぼこ買って、〈BISOU〉でワイン飲んで」久美子「日本酒の連載なのに(笑)?」ひいな「なんと坂の上にある素敵なホテル〈LOG〉にある〈カフェ&バー アトモスフィア〉で『富久長』が飲めるんだって」テツヤ「この〈ONOMICHI SHARE〉でも、窓から海を見ながらお酒が飲めたら最高だよね」スタッフ「持ち込み可能です」テツヤ「最高! ここからの眺めって向島をのぞむ絶景ポイントじゃない?」岡本「日本酒ってね、家で飲むよりも外で飲むものってイメージがああるんだよな。だから『さぁ、飲むぞ』っていう感じがどうしてもあって」テツヤ「わかるよ。ワインは気軽に開ける?って感じがあるけど、日本酒はね。どうしてなんだろうね」ひいな「そのイメージを変えていきたいっていう気持ちでがんばっています。日本酒をもっと気軽に飲めるデイリー酒にしたいです」テツヤ「伊藤家では、毎日飲んでるからね」ひいな「私にとってはデイリー酒だから」岡本「でも、確かにこうやって酒器をそろえるだけでも、楽しみは広がるよね」久美子「本当に」ひいな「毎朝、どの服を着ようかなとか、どの靴を履こうかなって選びますよね。それと同じ感じで、今日はどのお酒にしようかな? 今日はどの酒器にしようかな?って選んでほしくて」久美子「うんうん」ひいな「1日のはじまりがそうなら、1日の終わりはお酒選び、酒器選びでもいいんじゃないかなと思っていて。これからもっと広めていきたいです。ね?」テツヤ「うん。これからも『伊藤家の晩酌』をよろしくお願いします!」ひいな「岡本さん、久美子さん、どうもありがとうございました!」岡本夫妻「とてもおいしかったです。ありがとうございました!」

【ひいなのつぶやき】広島県東広島市安芸津と尾道にお邪魔して、日本酒を介していろいろな方の情熱・愛情・考えに近づくことができました。日本酒が近づけてくれた出会いに感謝! いろいろな土地に行って、いろいろな方と日本酒を飲んでみたくなりました!ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中
【告知】2月5日発売の雑誌『dancyu』の「日本酒 2021」特集に、テイスターとして参加させていただきました!この雑誌の毎年恒例の日本酒特集に出られることは、とてもうれしいことです!ぜひお手に取ってご覧ください。

