退職金2,900万円を受け取った60歳大企業元部長、妻とゴルフ・旅行三昧のリタイア生活も「元同僚からの助言」で突如自粛…再就職活動で20社書類落ちの果て、「初オンライン面接」で告げられた衝撃の一言
原則として企業は、希望する従業員を65歳まで継続雇用することが義務付けられています。2021年4月からは、70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。定年退職後、再雇用として働くメリットとしては、慣れた職場で働き続けられる・一から仕事を探す手間がない・厚生年金の受給額が増える可能性があるといった点でしょう。一方でデメリットは、賃金や雇用形態が変わることが多く、定年前より収入が減少する傾向にある点。また、もし65歳以降も働く場合は、改めて就職活動が必要です。男性では、60代後半の6割以上が、70代前半でも4割以上がなにかしらの仕事をしています(※内閣府の令和6年版高齢社会白書より)。制度の恩恵が終わる60代以降の再就職市場で通用するスキルの再構築が、特に「ホワイトカラー層」の急務となっています。Aさんの事例から、定年退職後の再就職の現実について、FP兼IT教育設計者の川淵ゆかり氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
定年退職後、半年はゆっくり過ごす予定だったが…
Aさんは大企業の総務部長として、退職金2,900万円を受け取り、60歳の定年を迎えました。元の部下に指示されたり、職場での扱いが変わったりすることに不満があったため、再雇用制度は利用せず、「半年ほどゆっくりしてから再就職でもしよう」と考えていました。
退職後、妻と旅行したりゴルフをしたりして悠々自適の生活を送っていたAさんでしたが、元同僚と一緒にゴルフをしていた際、一人がこんな話をしました。
「前に俺たちより10歳くらい先輩で営業の〇〇っていう部長がいただろ。奥さんが寝たきりになっちゃって、自分も最近ガンになったらしいよ。先の出費を考えると、俺たちもあんまり遊んでもいられないよなぁ」
将来の老人ホームの費用も気になるAさんは、投資の損失で資産に穴を空けたこともあり、「そろそろ働きだそうかな?」と少し焦りはじめました。
「大企業部長職」が通用しない再就職活動
Aさんは特に資格など有していませんでしたが、都内の有名大学を卒業していることや、ほかの同期よりも早く部長職まで上り詰めたこと、一つの会社を新卒から定年退職まで勤め上げたことに自負がありました。部長としての管理能力を強みに思っており、部下の能力や適性に合わせたプロジェクトへの采配などにも自信がありました。
「勤めていた企業よりも規模は小さくてもいい。年収が下がっても仕方がない」そう、履歴書を送ってはみましたが、どこもかしこも落ちてしまいます。「とうとう20社超えちゃったよ。なんでだよ!」Aさんは理由がさっぱりわかりませんでした。
初めてのオンライン面接
そんななか、管理職を募集していた企業からやっと1社、オンライン面接の連絡がありました。勤務していた会社よりかなり小さいですが、同じ業種ですし、「なんとかなるだろう」という軽い気持ちで面接に臨みます。
「うちはあなたがおられた会社に比べると小さいですし、人手も足りませんので、作業着を着て現場にも出向いてもらわないといけないこともあるんですよ。大丈夫ですか?」「ほかの部署が忙しいときも手伝ってあげてほしいんですよ」と面接でいわれ、Aさんはビックリします。大企業では仕事が部課などで細かくわかれており、ほかの部課の仕事を手伝うなどということはなく、デスクで悠々としていた自分には想像もつかなかったからです。
「管理職の募集と聞いていたのですが」とAさんが返すと、「Aさん、中小企業の管理職なんて名前だけですよ。管理職が一番動くんです。そうでないと会社なんて回りませんよ」と笑いながら返されます。さらに、「Aさんがいらっしゃった企業は大きいですから、当然、DXも進んでいるんでしょ。うちも早く進めたいんですが、なかなか難しくてね。うちの若い社員や専門の技術者なんかと一緒になって積極的に進めてほしいんだけど大丈夫ですか?」と聞かれました。
Aさんは画面をみつめながら、(自分はいじめられてるんじゃないか?)と感じました。Aさん自身ITは苦手ですし、部下に任せたり外注したりして直接携わることはなく、若手社員とはほとんど話すらしていません。「せっかく面接にたどり着いたのに散々な目にあった」と、Aさんは二度と就職活動をせず、家に閉じこもりがちになってしまいます。
ホワイトカラーが生き残るための必須課題
大企業のホワイトカラー職は、分業化が進んでいます。そのため、仕事の全行程での経験が少なく、60歳以降に新しい仕事を始めようとした際に「潰しが効かない」という印象を与えてしまうケースも。60代でさえ必要とされるITスキルの重要性は、再就職・起業・日常生活といったあらゆる面で高まっています。ITスキルはもはや「60代だからできなくてもいい」というものではなく、どの職種でも最低限は必要とされる「できて当たり前」のスキルになりつつあるのです。
2029年には、高校でプログラミングやデータ分析を学習してきた若手が大量に社会人になる年です。こうしたITスキルのある人材を狙っている企業は、すでに初任給アップや広告宣伝のための人材調整を始めています。資格や経験といった専門知識や強みのない人は、ITスキルを身に付けておかないと、時代遅れになってしまうでしょう。
中高年が転職・再就職を成功させるコツ
60代に限らず、現役世代でも転職や再就職のために、次の点をチェックしておきましょう。
専門スキル・資格:
医療系、福祉系、技術職、IT関連職、経理職など、専門的なスキルや資格があり、需要が高い分野であれば、いい条件で転職できる可能性があります。
人脈の活用:
現役時代に築いた人脈を活かして、フリーランスやコンサルタントとして独立したり、新たな職場を紹介してもらったりすることが可能になります。
事前準備の重要性:
これまでの経験やスキルを客観的に評価し、転職市場での自身の価値を正確に把握することが大切です。
70代でも働くことが当たり前になりつつある時代、みなさんもご自身の“生涯のジョブプラン”について考えてみてください。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
