脱・根性論で覚醒…!大谷翔平や若手アスリートが世界の大舞台で「プレッシャーに強い」納得の理由

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脱・コーチ依存で覚醒した若手

WBCでは日本は準々決勝で敗退。残念ながら2連覇とはならなかった。

「でも、実力は世界トップクラスだと思います。今、日本のスポーツ選手は世界を席巻していると言っても過言ではない。私はイチローと同い年ですが、我々が若い頃は、NBAで日本人が活躍するなんて想像だにしていなかった。隔世の感があります」

こう言うのはスポーツ選手の心と身体の関わりについて研究している菅生貴之大阪体育大学教授。

確かに野球ではメジャーリーグで活躍する選手が何人もいるし、サッカーは世界中のクラブに日本人選手が所属している。NBAには八村塁選手や河村勇輝選手がいる。

特筆すべきは10代や20代前半の選手たちだ。オリンピックの大舞台でも臆することなくプレーしているように見える。いったい彼らのメンタルの強さはどこからきているのか。

「いちばん変わったのはコーチングだと思います。かつては指示型の、コーチが教え込むやり方が指導現場でかなり多くみられました。そのため選手はコーチ依存の傾向が強くなってしまい、自分自身で心をコントロールすることを知るすべがなかった。その結果、いざというとき力を出せなかったのではないかと思います」

菅生教授によると、日本で「メンタルトレーニング」が導入されるようになったのは、1984年のロサンゼルス五輪がきっかけだった。国内ではいい成績を出している選手が、ことごとく惨敗。金メダルを量産したアメリカではメンタルトレーニングが行われていると聞いて、日本でも始めることになったという。

それまでの日本のスポーツ界といえば、「俺についてこい」という監督やコーチに言われるまま。時には暴力的な指導もあった。「もし失敗したら、また怒られる」などと思ったら、心も身体も萎縮してしまう。

「こうしたやり方を変え、選手自らが気づき、考える、主体性、自立性を促す指導をするように行ってきた啓蒙活動が、ようやく浸透してきたのかなと思います」

若い選手が活躍するのは、押し付けられる練習から、自分が主体になった練習に変わったからかもしれない。

大谷も実践!? 失敗のデータ化

選手が気づくために必要なことが「振り返り」。毎日練習日記をつけ、1日を振り返ることで、自分の心や身体の状態に気づくことができ、じょうずにコントロールできるようになるのだとか。

「どんなにすごい選手でも、不遇の時代があったり、成績を残せなかったり、失敗したりを繰り返しているんです。一流の選手の素晴らしいところは、そこから立ち直る力。失敗したことを、成功するためのデータにするんです。そういう姿勢はぜひ学んでほしいと思います」

もう一つ大事なことは、目標を設定すること。

「忘れてはならないのは、『優勝したい』などの成績を重視した目標(アウトカム・ゴール)はピラミッドの一番上だということ。下から積み上げていくものなので、日々自分が何に取り組むかという土台を組み立てなければ、一番上にたどりつけません。遠い目標に対して、今日何をすべきか具体的な行動ベースの目標(プロセス・ゴール)に落とし込むことが大切です」

大谷翔平選手が高校生のときに作った目標設定シートが有名だが、これには最終目標として「8球団からドラフト1位指名を受ける」とあり、それを達成するために「体づくり」「人間性」「メンタル」「運」など8つのキーワードを作り、さらにそれを達成するために行うべきことが8つずつ考えられている。

「あれはすごい。ふつうキーワードだけでも8つも思いつかない。あそこまで完璧にしなくていいので、目標を立てたら、それを達成するために具体的な行動に視点を移すことが大事です」

これはアスリートでなくても参考になる。「1年後に昇進する」「資格をとる」などと目標を定めたら、「明日からやればいいか」などと思わず、今日できることをやる。それをやりきらなければ、勝利を手にすることはできない。

重圧から解放! Z世代の戦い方

若い選手が活躍するのは、指導法の変化やメンタルトレーニングだけではないと菅生教授は言う。

「昔はオリンピックに出場するとなると、戦場に赴くような気持ちで、国の威信をかけて戦うようなところがありました。期待していた選手が思うような結果をあげられないとバッシングもひどかった。

ところが今は国際大会がたくさんあって、海外で試合をするからといって、とくにプレッシャーを受けることもない。ごく一部、誹謗中傷などの問題はありますが、国民全体としては寛容になっていると感じます。

翻訳アプリを使ったりして、そこで知り合った選手たちと、試合後もSNSでやり取りできる。成績のいい選手を褒め合ったり、みんな仲良く友だちという様子を見ていると、さわやかで、新しい風を感じます。

今や選手にとって、試合は戦いの場ではなくて、自分を表現する場になっていると感じます」

これからも日本の選手は強くなっていくのだろうか。

「海外のコーチの中には、日本人は感情を表現しない、おとなしいと思っている人もいますが、最近は日本人の強い忍耐力や、チームのために貢献しようとする姿勢が評価されつつあります。

こうした日本人の特性に、メンタルトレーニングという西洋の合理的な考え方が融合されたら、日本人選手はもっと強くなると思います」

6月から始まるサッカーW杯。どんな活躍を見せてくれるのか楽しみだ。

▼菅生貴之 大阪体育大学スポーツ科学部教授。国立スポーツ科学センター研究員を経て、‛06年より大阪体育大学に着任。スポーツ選手の心と身体の関わりについて、自律神経機能や内分泌機能を指標とした生理心理学的な研究を行っている。’13年よりゴルフのナショナルチームメンタルコーチを務め、ナショナルチームやPGAで活躍するゴルフ選手の心理支援を行っている。

取材・文:中川いづみ