シャープなデザインが減ったのは「歩行者頭部保護基準」の影響

「最近、カッコいいクルマが減ったよな〜」「大体にして、ボンネット高が高すぎる」「顔の面積が広く、ドヤ顔のクルマが増えてきた」とボンネットのカタチに不満を持っている人は少なくない。

 クレオパトラの鼻から、ロケット、飛行機、スーパーカー、新幹線に至るまで、美しいもの、カッコいいもの、速そうに見えるものは、みんな「鼻先を高くシャープに整える」という共通項がある。

 なのにどうして鼻ペチャでボンネットが高いクルマばかりになったのか。これは、2004年に国土交通省が導入した新しい「歩行者頭部保護基準」の影響によるものと考えていい。

 この「歩行者頭部保護基準」というのは、頭部を模した測定機器(頭部インパクタ)を自動車のボンネット上の数箇所にぶつけ、頭部インパクタが受ける衝撃を測定し、その結果から合否を判定するというもの。これをクリアするためには、ボンネットとエンジンの間にある程度のクリアランスを設ける必要があり、そのためにどのクルマも不自然なほどボンネットが高くなってしまったというわけ。

 では、この「歩行者頭部保護基準」をクリアしながら、みんなが大好きなスラントノーズを復活させる方法はないのだろうか? じつは安全性の問題はあるにせよ、法律で「乗用車のボンネット高は何ミリまで」と決まっているわけではないので、鋭い鼻先を持ったクルマを作る道は残されている。

いまデザイナーよりもエンジニアが外観を決める!?

 具体的には、

●エンジンをリヤに持っていく

 フロントにエンジンがなければ、ボンネットが低くても衝撃を吸収するスペースは確保できる。

●CFRP(カーボンコンポジット)などへの材料置換

 ボンネットの素材をスチールやアルミではなく、CFRPなど、適度なヤング率、大きな弾性変形域、優れた衝撃吸収能力、低比重の新素材を模索し、材料物性・構造を見直すという研究も進められている。

●エンジン、モーターの小型化

 フロントエンジンでも、エンジン自体が小さければ、クリアランスに余裕ができるので、エンジンの省スペース化は有効。既存のエンジンでも、3代目プレリュードのように、エンジンを18度後ろに傾けて、ボンネットを低くする方法もあるし、初代エスティマのようにエンジンを75度傾斜して低床化を実現した例もある。

 その他、ドライサンプ化してエンジン高を下げたり、ロータリーエンジンを使ったり、EVにしてモーターを使えば、低いボンネットでもイケるはず!?

●ロングノーズ化する

 ボンネットが高くても、ロングノーズ化して先っぽを尖がらせれば、鼻が長くてカッコいいクルマの出来上がり! しかし「慣性モーメント=出っ張りの重さ×出っ張りの長さ」である以上、運動性能を考えると、オーバーハングは短ければ短いほどいい。運動能力を犠牲にしないと、このロングノーズ化によるスラントノーズは成立しないので難しい……。

●ポップアップフードの採用

「ポップアップフードシステムとは、万一の歩行者事故の際ボンネットフードの後ろ側を持ち上げ硬いエンジンなどとの間に空間をつくり、歩行者の頭部に与える衝撃を和らげる技術」(ホンダの資料より)。

 これはけっこう実用的だが、問題はコスト。高級車はいいとして、小型車にはなかなか……。あとは、スラントノーズ、ウェッジシェイプに頼らないで、カッコいいクルマを作り出すいう道も考えておきたい。

 今年(2019年)に亡くなった、自然をモチーフにした「バイオデザイン」の元祖、ルイジ・コラーニさんや、“違いのわかる男”=ムーンクラフトの由良拓也さんは、鋭い鼻先とは違うカタチを見せてくれたデザイナーだ。

 レーシングカーも含め、最近のクルマはエアロダイナミクスと安全性のプライオリティが高く、デザイナーよりエンジニアのほうがスタイルを左右する力が強い傾向があるが、カッコいいクルマを登場させるためには、このエンジニアとデザイナーのパワーバランスを見直すことも重要。

 デザイナーの皆さんにもっと奮起していただいて、空力や安全を確保したうえで、もっとスタイリングを重視したクルマを世に送り出していただきたい。