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2026ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、2026年3月17日まで開催されています。前回の2023年大会でWBC日本代表メンバーに選出された読売ジャイアンツ・戸郷翔征選手は、初戦で大谷翔平選手に続く第2先発で登板するなど世界一に貢献。しかし2025年シーズンは不本意な成績に終わり、2026年シーズンの再起に向け新たなスタートを切りました。今回は、そんな戸郷選手の著書『覚悟』から、一部を抜粋してお届けします。

【写真】戸郷翔征さん「僕はまだ若輩者で軽々しく口にできませんが、あの大会は…」

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ダルビッシュの存在感

栗山英樹監督は2023年WBCにおいてキャプテン制をしきませんでしたが、「ダルビッシュ・ジャパン」と明言したほど、ダルビッシュ投手の存在は大きかったです。

2009年WBCで22歳のダルビッシュ投手は「世界一の胴上げ投手」でした。23年WBCピッチャーたちの14年前は小・中学生で、そのシーンを憧れのまなざしで見つめていました。もちろん僕もその一人です。

ダルビッシュさんがWBC前の宮崎キャンプにおいて、測定機器の「ラプソード」で投球成分(球速、回転速度、回転数、回転軸、縦変化)を一球一球確認しながら、ブルペンで投げ込んでいる姿はとても参考になりました。その一挙手一投足を見つめる僕たち若手投手陣の姿は、まるでファンそのものでしたが……。

実際にスライダーの握りをして、「こうやって指先から力を伝えて、こうやって回転をかけるんだよ」と、ボールを離す瞬間までの回転を教わっているピッチャーもいました。

ダルビッシュ投手が日本のトップレベルの選手に伝えた野球技術、日本野球界発展のためにもたらした財産は大きかったと思います。

ダルビッシュの緊張の理由

ご存知のことと思いますが、ダルビッシュ投手の、WBC前の宮崎キャンプへの早期参加は、ご本人の実績とパドレスの厚意があってのこと。ただMLBの規定により、実戦(壮行試合、強化試合)での調整登板はできませんでした。

だから、本番前の中日との合同練習において、実戦形式に近いシートバッティングに投げたぐらい。ほぼ「ぶっつけ本番」という感じでした。


『覚悟』(著:戸郷翔征/講談社)

ダルビッシュさんは、2023年3月10日韓国戦、16日イタリア戦、22日アメリカ戦、すべて1ホームランずつを許しました。

日本ハム時代に専属捕手を務めた鶴岡慎也さん(WBCでブルペン捕手)にあとで聞いた話によれば「正直、あまり状態が上がってこなかった」とのことです。

チームの柱として

特に第2戦韓国戦での先発。過去、世界大会で死闘を演じてきた因縁の相手。野球記者が驚いていました。

「プレーボール直前のマウンド。あのダルビッシュ投手が、ツバをゴクリとのみ込んだ。珍しく緊張していたのかもしれない」

イタリア戦後には「日本で最後になるかもしれないマウンド。感謝の気持ちを持ってかみしめて投げた」と、ダルビッシュ投手が語っていました。

年齢が上がっていくごとに緊張のしかたも違うと思います。チームの柱としてのプレッシャーは並大抵ではないと思うのです。

それにしても登板した3試合とも、状態が上がってこない苦しい中、苦しいなりのピッチングでまとめてしまう「修羅場のくぐり方」は、見ていて勉強になりました。

一人ひとり、年齢も、ポジションも、立場も違います。僕はまだ若輩者で軽々しく口にできませんが、あの大会は、皆がそれぞれに抱えた緊張があったと思うのです。さまざまな感情が渦巻いた大会だったかなと、今にして思います。

※本稿は、『覚悟』(講談社)の一部を再編集したものです。