栃木・岐阜・群馬 こんな宿にはなかなか出会えない!もう手に入らない高級木材で造られた至極の温泉宿3選

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「こんな木材はもう、手に入らない」「今ではこのような宿は建てられないだろう」――そんなふうに建築のプロたちから絶賛される宿がある。木の宿は温もりが感じられて、なんとも居心地がよいもの。加えて、最上級の木材をふんだんに使った宿に出合えたら、それだけで温泉宿選びは成功したと言ってもいい。今回は旅行作家・野添ちかこが、本物の木を使った極上の宿を3軒セレクトした。

※トップ画像は、槍見館の囲炉裏の間

平家落人の里、木と石の館 「上屋敷 平の高房」(たかふさ、栃木県・湯西川温泉)

広いロビーラウンジ

日光市の南西部にある「湯西川温泉」の最奥にあるのが、最初に取り上げる「上屋敷 平の高房」だ。

重厚な木の階段をのぼり、まず驚くのは太い木で組まれた高い天井をもつ広いロビーラウンジ。そして、客室へと続く石砂利を敷いた廊下もまた趣がある。この宿を作った初代社長は、もともと材木屋を営んでいたという。

「叢林亭」の客室。この客室の床柱はアカシア。大黒柱と床の間上部に天井と平行に渡された横木、「落とし掛け」には欅が使われている

1万2000坪の敷地に19室の客室をもつぜいたくな造りで、とくに「叢林(そうりん)亭」の客室は樹齢300年以上、直径45cmのケヤキの通し柱で支えられ、長寿の象徴とされるケヤキやヒノキ、魔除けの木とされるエンジュといった銘木を使った床柱も見応えある。

離れ「望郷(ぼうきょう)亭」の客室

「上屋敷 平の高房」の若女将、山城晴香さん。離れ「望郷亭」の客室では温冷交互浴ができる

離れの「望郷亭」は築80年以上の古民家を移築した館で、サウナと源泉かけ流しの温泉・冷水の半露天風呂付き。プライベート空間を満喫したい人はぜひこちらへ。

露天風呂の石の雰囲気も楽しみたい

温泉はすべて源泉かけ流し。銘木尽くしの宿は往々にして石にもこだわっていることが多く、露天風呂を形作る石の表情がなかなかいい。無色透明の温泉は弱アルカリ性の単純温泉。ずっと入っていたくなる、やわらかな肌触りだった。

囲炉裏端で夕食を食べる

料理は湯西川に伝わる「囲炉裏料理」で、源氏の厳しい追っ手から逃れた平家の一族が食したと伝わるなど郷土の味覚も味わえる。鶏肉と鴨肉のミンチ(以前は山鳥を潰していたとか)に味噌を混ぜ竹べらにつけて焼く「一升べら」も地域の名物。地酒とともに味わいたい。

【施設データ】

『上屋敷 平の高房』

住所:栃木県日光市湯西川1483

電話:0288-98-0336

料金:1室2名利用時1人1万7150円(消費税・入湯税込)〜

湯西川温泉

日光市の南西部、鬼怒川の支流・湯西川沿いにある、静かな山あいの温泉地。平家の落人が源氏の追っ手を逃れ、この地に隠れ住んだ際に発見したと伝えられ、開湯は天正元(1573)年、400年余りの歴史がある。

古民家移築の情緒あふれる木の館 槍見館(岐阜県・新穂高温泉)

槍見館

伝統的な木組みの技術で建てられた古い民家などを、別の場所で再び組み立て直す「古民家移築」。古材を解体・運搬し、再び命を吹き込むのだから、手間もコストもかかる贅沢な建築手法だ。

天井に梁が大きく出た、槍見館の民芸調和室

重厚な梁と柱が趣ある姿の「槍見館」。廊下や階段も絵になる

岐阜県・奥飛騨温泉郷のひとつ、新穂高温泉にある「槍見館」は蒲田川の川沿いに立つ一軒宿。かつては北アルプスに登る登山客が泊まる山宿だったが、2000年に築200年の庄屋の館を移築した。建築方法は釘などを一切使わない昔ながらの木組み工法で、木材はすべて欅を使っている。

古材は本館の主に民芸調の和室の客室とロビーでも使用され、そのロビーでは毎日炭が焚かれて昔ながらの雰囲気が楽しめる。また客室の天井に張り出した梁は大きいもので長さ20メートルにもなり、天井の高い部屋があったり、低い部屋があったり、それぞれ趣が異なる。ロビー周辺の一部の柱にもこの欅の木材が使用され、昔の建物で使われていたであろう切り口や加工のあとが垣間見える。

槍見館の露天風呂

名峰・槍ヶ岳を望む、絶景の露天風呂「槍見の湯」がこの宿の看板風呂。大浴場のほかに開放感のある混浴露天風呂、4つの貸切露天風呂、女性専用露天風呂が点在していて、館内での湯めぐりも楽しい。無色透明のお湯は源泉かけ流しで高クオリティ。混浴露天風呂も、客室に用意された湯浴み着を着て入浴するので男女とも楽しく湯浴みできるはずだ。

槍見館のロビー

朝の餅つき

朝は趣ある土間のロビーで活気ある餅つきが行われる。お餅はもともと「ハレ」の日の縁起のよい食べ物。「ヨイショ!」というかけ声とともに杵と臼でつく餅つきに参加すると、心も晴れ晴れとしてくる。旅の楽しさがよりアップすることだろう。

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【施設データ】

『槍見館』

住所:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂587

電話:0578-89-2808

料金:1泊2食1人2万1250円(消費税・入湯税・宿泊税込)〜(休前日1100円、年末年始などの特定日は3300円アップ)

新穂高温泉

奥飛騨温泉郷にある5つの温泉のひとつで、北アルプス穂高連峰の登山口に位置する温泉地。昭和45(1970)年に開業した新穂高ロープウェイをきっかけに発展、大自然の野趣あふれる温泉を楽しめる宿が点在する。開湯時期は不明だが、戦国時代、武田信玄の家臣が見つけたとも言われている。

光と風を操る木の館 美郷館(群馬県・たんげ温泉)

美郷館の外観

25年ほど前だったか。初めてこの宿を訪れたとき、『木を読む』(小学館)という一冊の本をいただいた。著者は「最後の江戸木挽職人」といわれた故・林以一(はやし いいち)さん。

「木挽き職人」とは、昔ながらの方法で山から木を切り出し、木目を読みながら美しい板を無駄なく挽く、今では貴重となった職人さんのこと。その技術は、時代とともに失われつつあるという。

総欅造りのロビーと分厚い一枚板のテーブル

美郷(みさと)館の建物には、その林さんが挽いた木材がふんだんに使われている。

美郷館の初代は材木屋が本業だった。プロの目利きで「これは」と思う木を見つけると、7年、8年と寝かせ、ちょうどよい頃合いを見計らって木挽きを施し、温泉宿を築き上げたのだという。

木の使い方が面白い。ほかでは見たことがないこんなテーブルで寛ぐのもよし

なかでも、樹齢300〜500年ともいわれる欅を使った「総欅造り」のロビーは圧巻だ。きらびやかな最新型の高級ホテルといえども、この空間には敵わない。こんなに立派な木材はもう、手に入らないからだ。

そして「木挽き」には時間も要する。林さんは仲間とともにこの宿のために足かけ3年、延べ200日をかけて木を挽いた。「木挽き」という職業があることも、そうして作られた宿があることも、このとき初めて知った。こんなにも木にこだわった宿はなかなかない。

ステンドグラスの光が美しい「瀬音の湯」

銘木を使った大浴場は心がふんわり、ほどけていく。職人魂を感じながら、木と対話しながらの湯浴みを楽しんでほしい。

滝を眺めながら入れる「滝見の湯」

【施設データ】

『美郷館』

住所:群馬県吾妻郡中之条町大字上沢渡1521-2

電話:0279-66-2100

料金:1室2名利用時1人2万2150円(消費税・入湯税込)〜

たんげ温泉

四万温泉と沢渡温泉のちょうど中ほど、中之条町から沢渡温泉へ向かい、反下(たんげ)川沿いをのぼった場所に位置する。もともとこの地に温泉はなかったが、たんげ地区の観光振興を目的に鉱泉の掘削が行われ、平成3(1991)年に一軒宿が開業した。泉質はカルシウム-硫酸塩泉で、やわらかな湯ざわりが特徴。

文・写真/野添ちかこ

温泉と宿のライター、旅行作家。「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。「NIKKEIプラス1」(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、「旅の手帖」(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)や『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。

【画像】木の温もりに癒される、日本情緒あふれるこだわり宿(18枚)