安倍晋三首相は2020年4月1日、新型コロナウイルス対策のため、全国すべての世帯に布マスクを2枚ずつ配る方針を表明した。

これを「エイプリルフール」のジョークと受け取った人もいたが、残念ながらジョークでも、フェイクニュースでもなかった。

たちまちツイッターのハッシュタグ「#アベノマスク」がトレンドの上位にランクインし、一時はトップに立ったほどだ。マスクへの関心が否が応でも盛り上がってしまった日となった。

そんな中、次のようなツイートが投稿され、話題になっている。

写真は、なんだか古めかしい袋だ。「愛國印 衛生 軍隊マスク」と記されている。「いよいよこいつの世話にならねばならぬか」というコメントも添えられている。

いったいこれは何だろう?

Jタウンネット編集部は、このツイートを投稿した信州戦争資料センター(@himakane1)に取材した。

日中戦争初期頃のもの?


軍隊マスク 信州戦争資料センター(@himakane1)のツイートより

「軍隊マスク」を紹介した信州戦争資料センターは、長野県を中心として、戦時下の資料で、戦時関連資料を幅広く収集、分析、活用し、戦争の実態を後世に伝えることを目的として活動している。長野市在住の有志がツイッターとブログを運営し、毎年展示会も開催しているという。

Jタウンネット編集部の取材に、「オークションで入手して保管していたものです。詳細は全く不明です。わかる範囲でお答えいたします」と応じてくれた。

このマスクは、いつ頃作られたものだろう?

「分かりません。ただ、国の漢字が旧字であることと、愛国という言葉が流行った時代を勘案すると、日中戦争初期頃かとも思えます」

日中戦争の開始は、1937年(昭和12年)からとされている。盧溝橋事件、北支事変を経て、戦火が広がっていった。ちなみに1940年(昭和15年)9月から開催予定だった東京オリンピックは、戦争その他の影響で開催権を返上し、結局中止された。

英語は敵性言語で使用できなかったとも聞くが、「マスク」は使用できたのだろうか?

「敵性語は、法律ではなく、許認可事務の際に政府が指導したり、民間の活動で取り締まったりしてますので、濃淡があります。影響のない時代のものか、気にとめられなかったか、どちらかだと思われます」

この「軍隊マスク」は、英国、米国との戦争が始まる前の時代の製品なのかもしれない。「軍隊マスク」が作られたのは、1940年前後のころだろうか。有事に備えて、今回のように民間に配布された可能性も、ゼロではないだろう(Jタウンネット記者の推測に過ぎないが......)。


軍隊マスク 信州戦争資料センター(@himakane1)のツイートより

「軍隊マスク」の材質、サイズ、特徴などを聞くと......、

「幅20.5センチ、縦10センチ、四隅にヒモが付いており、長さ11センチ。本体は3枚の布をミシンで縫い止めてあり、ヒモは1枚布です。油紙のような包みにずっと入っていたせいか、少々ホコリの香りがする程度。比較的丈夫な本体に対して、ヒモは短く弱そうという感じです」

けっこう丈夫そうなマスクのようだが、抗ウイルス効果があるかどうかは不明だ。


本体は3枚の布をミシンで縫い止めてある。 信州戦争資料センター(@himakane1)のツイートより

ツイッター上の反響で、とくに印象に残ったことを聞いてみた。 

「マスクを配布するという政府発表のタイミングと重なり、多くの関心を集めていただいたと思いますが、予想以上の反響で驚きました。

身近な雑貨でも歴史を伝える存在になると感じて、感想、関心を寄せていただいたのかなと。これまでも、戦争と庶民の関係を示す資料を収集して、将来をあゆむ時の皆さんの参考になればと展示会やツイートで紹介してきました。

政府配布のマスクも、100年後には歴史の記録になるでしょう。この時代を伝えるモノと一緒に保管していきたいです」

安倍首相が配布する布製マスクは、信州戦争資料センターに収蔵され、大切に保管され、長く後世に伝えられることになりそうだ。軍隊マスクと「アベノマスク」の比較・検証も、かなり興味深いかもしれない。