「SNSが未成年の脳の発達に影響」米研究者が明かす、驚くべき「子どものSNS依存問題」の本質
世界でSNS運営企業への訴訟が相次ぐ中、「SNSの『投稿』よりも、『設計』そのものが有害なのでは」という争点が浮上している。米コーネル大研究員からは、「SNSが未成年の脳の発達に深刻な影響を与えうる」との指摘もあがるが、SNS依存をめぐって見えてきた新たな問題の本質とは。
※取材・文/湯浅大輝(フリージャーナリスト)
※新潮QUEの記事【スマホネイティブ世代に芽生える自覚――米研究者が明かす SNS依存の本質】を再編集したものです。
SNSは「欠陥商品」
報道によると、原告側は6歳から「ユーチューブ」、9歳から「インスタグラム」を使い、いいね機能や頻繁な通知、アルゴリズムの影響などで慢性的な依存状態にあったと主張した。訴訟戦略においても、今回のケースには注目が集まっている。従来、SNSはあくまでプラットフォームであり、投稿の管理責任を負わないというお墨付きを連邦法「通信品位法230条」(1996年成立)によって与えられていて、誤情報の流布などの責任を免除されやすかった。

ところが今回は「SNSの設計そのものが、人を中毒にさせるという意味で有害なのでは」という新たな論点が持ち出されたのだ。
SNSの健康被害を研究する米コーネル大のアシュリー・シェイ研究員はこの訴訟で「潮目が変わる可能性がある」と分析する。
「SNSの設計上の問題における訴訟は、90年代のタバコ訴訟と似ている。長年製品の害は認識されていたがタバコ会社はそれを認めなかった。訴訟が相次いだ結果、タバコ会社への賠償命令が下り、ついに未成年への広告やマーケティングを大幅に変化させざるを得なくなった。SNSについてもプラットフォームの有害性を問う訴訟が続出しており、今後も免責される未来は考えにくい」
海外メディアによると原告のケイリー氏は幼い頃にインスタグラムを使い始めてから外見に執着するようになり、醜形恐怖症(自分の外見を過度に心配する症状)と診断されたという。
また、同氏は学校のトイレに駆け込んで「いいね」の数をチェックするなど、深刻な依存状態にあったと証言し、家族との交流も疎かになったことで、うつ病になったとする。さらに原告弁護士はメタ社の成長目標に若者に同社のプラットフォームを使ってもらうことが含まれていた、と主張したとされる。
メタ社とグーグル社は控訴する意向だというが、シェイ氏は「SNSプラットフォームがある種の『欠陥商品』であり、消費者に害を与えているという訴訟戦略は有効である可能性が高い。これは公衆衛生の議論ではなく、消費者に害を与えたという経済的な議論であり企業側の責任を追求しやすいからだ」と分析する。
SNSは特に未成年の消費者にとって、どのような「欠陥」を抱えているのだろうか。
若者の「未完成な脳のブレーキ機能」につけ込む技術
シェイ氏は、未成年へのSNS規制を読み解く上で重要な論点は「脳科学」にあると説く。脳は20代半ばまで発達を続けることが明らかになっていて、未成年の脳はまだその途中にあるというのだ。
「脳には短期的な満足を追求する報酬中枢を司る部分と、これを抑制する前頭前皮質とがある。両者の関係は車のアクセルとブレーキに似ている。脳は常に報酬と満足を求めるべくアクセルを踏もうとするが、この誘惑に抵抗するブレーキも社会生活を営む上で重要だ。だが、ブレーキは20代まで発達を続けることが分かっており、未成年では完成しない。『いいね』や『通知』など短期的な満足を誘発するSNSの仕掛けは、ユーザーの脳にアクセルを踏んでもらうことを狙っている。未成年ほどSNSに依存しやすい、ということだ」
SNS企業は未成年の脳の脆弱性を利用して、SNSの各種機能を開発していたのだろうか。シェイ氏は、「SNS企業は人間の脳の仕組みを専門的に学んだ心理学者を雇っていたことは事実であるものの、未成年を狙って依存させたかどうかまでは言い切れない」と言う。一方、数々の内部告発や社内文書を読む限り、「未成年にとって有害な可能性がある」という自覚自体は示唆される、とも付け加える。
「ヒトという種は進化の過程で認知的脆弱性を持つようになった。そのうちのひとつが、『他人がとにかく気になる』というもの。ヒトは徹頭徹尾社会的な生き物で、共同体の中で長年生きてきた。自分の価値観・信念よりも他人や“世間”を優先するのがデフォルトだといえよう。SNSはこの傾向を強化し、『他人によく見られたい』という原始的本能を強く刺激する」
続けて、
「ヒトは『楽をしたい』という欲求も強く持つ。意識的な熟慮の結果の行動よりも、受動的で衝動的な行動に出やすいということだ。これを利用するのが、SNSの『無限スクロール』と『自動再生』。ユーザーが何もしなくても、好みの投稿・動画が延々と流れてくる」(シェイ氏)
そしてシェイ氏は、「このシステムは驚くほどに社会に浸透している」「単純なSNS規制では解決にならない」と力説するのだ――。
湯浅大輝(ゆあさ だいき)
フリージャーナリスト。同志社大学在学中に米アリゾナ州立大学へ交換留学。卒業後、記者としてのキャリアを開始し、経済メディア、小売専門誌を経て独立。教育、小売、海外スタートアップ、国際情勢、インフラなど多様なテーマを取材・執筆している。過去携わった書籍に『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)、主な特集記事に「出生数75.8万人の衝撃」「奈良のシカ」(ともにJBpress)、「リニア 20世紀最後の巨大プロジェクト」(NewsPicks)、「精肉MDの新常識」(ダイヤモンド・チェーンストア誌)など。
デイリー新潮編集部
