【金田 健也】「中古住宅なら安い」はもう通用しない…!ナフサショックで一変する”住宅購入の新常識”

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住宅を持ち続けるコストが上昇

ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって起きたナフサショックが、住宅市場に深刻な影響を及ぼしている。

前編『「マンション価格」はもう限界水準へ…すぐには終わらない「ナフサショック」、衝撃の長期高騰シナリオ』で見て来たように、とりわけ深刻なのが分譲マンションだ。そして、戸建住宅も例外ではない。

建築コストの上昇、供給減少、高値維持――住宅市場では、こうした変化が同時進行し始めている。

では、この影響は新築だけにとどまるのか。それはありえない。

中古住宅を買う人、リフォームを考える人、すでにマンションを所有している人にも、ナフサショックの影響は及んでいく。

住宅は「買う時の価格」だけでなく、「直すコスト」「持ち続けるコスト」まで含めて考えなければならない時代に入った。

「中古なら影響ない」という落とし穴

「新築の建材が高騰しているなら、中古を買えばいい」という発想は一見合理的だが、注意が必要だ。

中古住宅の建物自体は、今回の建材高騰の直接的な影響を受けない。しかし、購入後にリフォームやリノベーションを行う場合、そのコストは新築と同じ建材や職人を使うため、同様に急騰している。

塗料のシンナー類は50%以上、断熱材は20〜40%、接着剤は20〜30%の値上がりがすでに発表されており、これはリフォーム工事にもそのまま波及する。「中古を安く買ってリノベして住む」というモデルの前提となっていたコスト試算が、今や成り立ちにくくなっているのだ。

中古物件の市場価格には、まだこのリノベコストの高騰が十分に織り込まれていない。「中古+リノベ=割安」という方程式は、静かに、しかし確実に崩れつつある。

マンションも例外ではない。その影響は、すでにマンションを所有している人にも及ぶ。大規模修繕工事で使う塗料、防水材、シーリング材なども急騰しており、修繕積立金の不足や値上げ圧力が強まりつつあるからだ。

つまり今回の問題は、「買う時の価格」だけではなく、「持ち続けるコスト」そのものを変えてしまう可能性がある。

複合危機の時代に住まいをどう選ぶか

インフレ、地価高騰、利上げ、原油ショック。この四つが重なった複合危機の中で、住宅市場は新しい局面に入った。

「建てるコスト」は建材高騰で上がり、「買うコスト」は地価高騰と金利上昇で上がり、「持つコスト」は修繕費・管理費・エネルギーコストの上昇で上がる。かつて住宅選びのチェックリストに並んでいた項目に、いま新たなリスクが加わっている。

同じく当社の調査で「住宅を資産として考えた場合に重視すること」の2位に、「実利重視」(42.5%)が入ったことは象徴的だ。「将来高く売れるか」「インフレ対策になるか」という金銭的なメリットを、居住価値より優先する傾向が確認されている。

住宅は単なる投資対象ではなく、生活の基盤でもある。だからこそ、「買えるかどうか」だけでなく、「長期的に持ち続けられるかどうか」という視点、そして「暮らしの質」と「資産としての合理性」の両方を満たす判断軸を持つことが、これまで以上に重要になっている。

タカマツハウスが首都圏の住宅購入検討者1000人を対象に実施した調査では、20代の購入動機の首位が「資産形成・インフレ対策・金利動向」だった。30〜50代の首位が「住まいの手狭さ」であることと対照的である。防衛的に住宅を取得しようとする若年層の意識変化は、今回の複合危機が生んだ、見逃せない潮流だと言える。

「インフレの盾」として住宅を捉える20代の感覚は、あながち間違いではない。ただし、その盾が本物の価値を持つかどうかは、立地の希少性、持ち続けるコスト、そして供給の安定性という、いま急速に不安定化している条件にかかっている。

「中東情勢が落ち着けば終わる」は本当か

ここで、多くの人がこう考えるだろう。

「中東情勢が落ち着いて、原油価格が下がれば、住宅価格も元に戻るのではないか」

だが、この見方はかなり楽観的だ。

住宅業界では、原油価格の変動が実際の住宅価格に反映されるまで、最短でも9〜16ヵ月程度のタイムラグがあると言われている。

その理由は、住宅建材が非常に長いサプライチェーンの上に成り立っているからだ。

まず原油が精製され、ナフサになる。そこからエチレンやプロピレンなどの基礎化学品へ加工され、さらに塩ビや樹脂素材へ変わる。その後、断熱材や配管、塗料、防水材などの建材になり、最終的に住宅価格へ転嫁される。

しかも、各メーカーは既存在庫を消化してから新価格で調達を始めるため、価格転嫁には必ず遅延が生じる。

仮に今日、停戦合意が成立したとしても、その恩恵が住宅購入者に届くまでには最短でも1年以上かかる計算になる。「落ち着いてから買おう」という判断が、必ずしも合理的ではない理由がここにある。

上がるのは速い。下がるのは遅いのである。それが住宅市場における資源価格変動の現実だ。

ナフサの真実―これは「住宅問題」ではない

今回の問題を単なる「住宅価格の高騰」と見ると、本質を見誤る。

ナフサは住宅だけに使われているわけではない。物流資材、包装材、医療資材、自動車部品、電線、半導体材料に至るまで、日本社会のインフラそのものを支えている。

つまり今回起きているのは、「住宅市場の混乱」ではなく、日本社会全体のサプライチェーンの脆弱性が露呈しているということだ。

しかも、日本は長年、「安い輸入資源が永遠に入ってくる」ことを前提に、効率化とコスト削減を極限まで進めてきた。

在庫を減らし、余剰設備を削り、国内生産を縮小し、グローバル物流に依存する。その結果、ひとたび中東情勢が揺らぐだけで、住宅価格やマンション供給にまで連鎖的な影響が及ぶ構造になってしまった。

今回のナフサショックは、単なる資源高ではない。日本社会の脆弱性そのものを、露わにしているのである。

さらに連載記事『湾岸タワマンに“異変”…!成約激減が示す「値上がりの限界」と住まい選びの新常識』でも混迷の時代の住宅選びについて解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。

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