冤罪をかけられたら貴方はどうする? 取調べにいっさい応じず黙秘を貫くのが、「最善の策」となるのはなぜなのか

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約1分の勾留質問で164日間勾留、検事の作文で作られる供述調書、証拠改竄や捏造……。

おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』(村木厚子 著)では、冤罪に巻き込まれた著者がみた驚愕の刑事司法の実態が明かされています。

本記事では、〈裁判官も弁護人もいない「検察の土俵」で生き残る…冤罪を回避するために知っておくべき刑事司法の現実〉に引き続き、「黙秘権」について詳しくみていきます。

(※本記事は村木厚子『おどろきの刑事司法』より抜粋・編集したものです)

黙秘権について知り、勇気をもって黙秘を貫く

私の弁護団は総勢6名で、そのうちの2名は大阪の信岡登紫子・栗林亜紀子両弁護士でした。信岡弁護士はそれまでに無罪をたくさんとっており、「被告人がやってないと言ったら、取調べでいっさい喋らせない」と言っていました。

役所で起きた犯罪だから一定の責任があると思っていた私は、はじめのうちは喋りましたが、途中から、検察官は私の喋ったことを公判で潰すために、それを否定する関係者の供述調書を作るのだということがわかり(『おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』58〜59ページ参照)、後半の取調べを担当した國井検事には、事件についてできる限り喋らないと決めました。

黙秘権とは、「刑事事件の取調べや裁判の時に、喋りたくないことは喋らなくてよい」という権利です。日本国憲法で保障されている国民の権利(第三八条第一項「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」)であり、刑訴法でも被疑者・被告人の黙秘権は保障されています。

冤罪をかけられた当事者として、誤解を恐れずに言えば、容疑を否認するのであれば、取調べでは黙秘に徹するべきです。もとより、検察はあなたの話を聞くつもりはなく、有罪の材料だけを血眼になって探しています。あなたが真摯に対応し、言葉を尽くして説明しても、相手に材料を与えるばかりで何の利益も得られません。

ただ、警察官や検察官は取調べの際に、「黙秘すると裁判で不利になる、罪が重くなる」と脅してきます。黙秘権を行使している被疑者に警察官や検察官が暴言を浴びせて供述を強要した事例も、多数報告されています。

たとえば、黙っている被疑者に顔を近づけ、「おまえがやったんやろ! クズが!」と怒鳴りつける。被疑者がやったと決めつけて、「泥棒に黙秘権あるか!」と言い放つ(この被疑者は不起訴となっています)。「黙秘は検察に対して喧嘩を売っている。たちの悪いヤクザの親分のようだ」と罵る。「黙秘権等の行使は公判において被疑者の不利益になる」と平気で言い放つ──。捜査機関がこういう姿勢ですから、黙秘を続けるにはかなりの勇気が必要です。

黙秘に対する世間的なイメージも、よくありません。「容疑者の○○は黙秘しています」とニュースで報じられると、それだけで、「やましいことがあるから喋らないんだろう。こいつは悪い奴だ」という印象を、ほとんどの人が持つのではないでしょうか。

捜査機関から嫌疑をかけられた人のなかには、「黙秘するのは卑怯だ。ちゃんと話せばわかってもらえる」と思っている人も大勢います。プレサンスコーポレーション事件(以下、プレサンス事件。『おどろきの刑事司法』第七章参照)で逮捕され、のちに冤罪が明らかになり無罪になった山岸忍さんは、逮捕直後に接見した弁護士から黙秘を勧められた時、「何も悪いことをしていないのに、なぜ黙秘しなければいけないのか」と反発し、口論になったといいます。それで山岸さんは、ずいぶん喋ってしまいました。

取調室で黙秘を貫き、法廷で初めて事件について話しはじめた場合、その供述の信用性をどう評価するかは裁判官によって異なります。なかには、黙秘そのものに良くない心証を抱く裁判官もいるかもしれません。しかし、それでもなお、取調べ段階で安易に話すことには大きな危険があります。取調べで語れば語るほど、実際とは異なる内容が調書に付け加えられ、のちの裁判で不利に扱われるおそれがきわめて強いからです。

もちろん、否認事件であっても、取調べに応じる“理論上の意味”がまったくないわけではありません。もし、検察官が自ら描いた検察ストーリーの「筋の悪さ」に気付き、それを修正したり、訴追を見送ったりする可能性があるのであれば、取調べで説明することにも一定の価値はあり得るでしょう。

しかし、その可能性は限りなくゼロに近いのが実情です。私自身の事案でも、客観的事実の積み重ねからは有罪立証が不可能だったにもかかわらず、冤罪と知りつつ立件しようとする姿勢が明確でした。

一般の方が想像するように、検察や警察が被疑者の話を虚心坦懐に聞き、事件の全体像や動機、犯罪の有無を合理的に判断するために取調べを行っているのであれば、彼らに説明することには確かに意味があるはずです。ところが、現実の取調べはそのイメージとは程遠く、真実の所在にかかわらず、被疑者がやったという前提の下、「犯罪をいかに立証するか」という一点に向けて運用されています。その意味で、取調室は警察官や検察官が被疑者を有罪と決めつける裁判所のようになっています。

こうした状況を踏まえれば、否認事件では、取調べで黙秘を選ばざるを得ないというのが実際のところです。黙秘は決して捜査機関に対する挑戦的な態度などではなく、歪んだ捜査のなかで自身を守るための、消極的ではあっても合理的な選択肢にほかなりません。公開の法廷で初めて真っ当に裁判を受けるためにも、取調室では慎重な対応が求められるのです。

●特に言及のない限り、登場人物の所属・肩書、法律や制度の名称・内容は、すべて当時のものである

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