「高い」と文句を言う日本人の横で”2万円のカニ”を爆食いするタイ人…バンコク飲食店オーナーが明かす「絶望の格差」

写真拡大 (全6枚)

2万円のカニを平らげるタイ人を横目に…

東南アジアに行けば、日本よりもはるかに安く豪遊できる

そんな昭和から平成にかけての常識を未だに信じている日本人は少なくない。だが、現実は残酷だ。

バンコクの中心部にある高級カニ料理店では、1食2万円(※テーブル単価は5万円超)という強気な価格設定にもかかわらず、連日満席が続いている。

驚くべきは、その客層だ。日本からの駐在員や観光客ではない。顧客の9割以上を現地のタイ人が占めているのだ。

彼らは躊躇なく高級なカニや牡蠣を注文し、テーブルいっぱいに並べて平らげていく。一方で、たまに来店する日本人はメニューを見て「高い」と文句を言い、渋々注文するという。

タイ在住20年の連続起業家であり、バンコクでカニ料理店や焼肉店など複数の飲食店を経営する安藤功一郎氏は、この逆転現象を目の当たりにしている。

「うちの店に来るお客さまは、月収30万円以上の中産階級の方々が中心です。バンコクの都市部には、日本人の平均月収と同等、あるいはそれ以上稼ぐ層が確実に形成されています。彼らは本当においしいものには、惜しみなくお金を払うのです」(安藤氏、以下同)

食料自給率170%…タイに「アリとキリギリス」が通じぬ理由

なぜ、このような購買力の逆転が起きたのか。一般的なニュースでは「円安の影響」として片付けられ、いずれ元に戻るだろうと楽観視する声すらある。ところが、現場の肌感覚はまったく異なる。安藤氏は、その明確なターニングポイントを「コロナ禍」だと話す。

「コロナの前後で状況は劇的に変わりました。インバウンドが消滅した期間、タイでは逆に内需が活性化したのです。自国内でお金を使う循環が生まれ、経済力が底上げされました。そこに為替相場の変動が直撃し、日本円の圧倒的な弱体化が浮き彫りになったと感じています」

日本人が「東南アジアはまだ物価が安い」と高を括っている間に、彼らは着実に経済的な体力をつけていた。その格差は、具体的な数字を見れば一目瞭然だ。

「私がタイに来た20年前、大卒の初任給は1万バーツ(当時のレートで約3万円)程度でした。それが今では2万2000バーツを超えています。約2.2倍の成長です。一方、日本はどうでしょうか。20年前も今も、初任給は20万〜25万円程度でほぼ横ばいです。むしろ、税金や社会保険料が上がり続けている分、手取りは確実に減っているのが現実でしょう」

通貨の強さも圧倒的だ。日本円が対ドルで歴史的な下落を記録し続ける中、タイバーツは1ドル=33バーツという水準を安定して維持している。

「タイの物価が上がった」と日本人は嘆くが、単に「日本円が独歩安で弱くなっただけ」というのが国際的な正しい評価だった...。

さらに、タイには経済を根底から支える構造的な優位性がある。多くの日本人が見落としているのが「食料自給率」という土台の違いだ。

「日本人はよく『アリとキリギリス』の話をして、冬に備えて働くアリを評価しますよね。でも、あの童話の教訓は東南アジアではまったく通用しません。そもそも1年中暖かく、厳しい冬が存在しないからです。タイの食料自給率は170%を超えており、輸出する余力すらあります。極端な話、適当に種を撒いておくだけで自然と作物が育つため、あくせく働かなくても『食べていくこと』には困らない土壌があるんです」

これに対して日本の食料自給率は40%を下回り、大半を輸入に依存している。だからこそ、円安による物価高の直撃を避けられない。

必死に外貨を稼がなければ生きていけない日本と、何もしなくても「食」が担保されているタイとでは、国としての基礎体力に絶望的なまでの差がついている。加えて、労働力確保の面でもタイは圧倒的に有利だ。

「陸続きであるミャンマーやカンボジア、ラオスから、安価で豊富な労働力が絶え間なく流入してきます。少子高齢化で慢性的な人手不足の島国・日本とは、立地という前提条件からして勝負にならないのです」

バンコク高級店の異次元の儲け方

こうしたタイの強烈なポテンシャルを最大限に活かしたのが、安藤氏が手がける飲食ビジネスだ。初期費用4000万円で立ち上げた高級カニ料理店は、なんとわずか6カ月で投資を回収したという。その裏には、現場の事実のみに基づく徹底した戦略的判断があった。

「当初は外国人観光客をターゲットにする予定でした。しかし、オープンしてすぐに現地のタイ人客が圧倒的多数を占めていることに気づき、即座にターゲットをタイ人に変えたのです。さらに、思い切ってトップメニューを5000円値上げし、牡蠣の食べ放題を追加しました。これが大ヒットしました」

特筆すべきは、この店が利益率40%を叩き出しているという事実だ。日本の飲食店の利益率が平均8〜10%程度と言われる中、なぜこれほどの差が生まれるのか。

「最大の理由は人件費の安さです。政情不安の周辺国から働き手が流入するため、労働コストを低く抑えられます。さらに『カニや肉を切って出すだけ』というシンプルなオペレーションにすることで、教育コストもかかりません。離職率が高くてもすぐに次の人材が補充でき、業務が回る仕組みを構築しています」

仕入れの仕組みも、常識的な飲食店とはかなり違う。安藤氏は、東日本大震災以降、中国向けの販路を失って苦境に陥っていた、もともと知り合いだった北海道の漁師たちから助けを求められたことをきっかけに、直接契約を結んだ。

「日本の一般的な流通では、間に7社もの業者が入り、そこで約30%のマージンが取られます。ですが、うちは漁師さんたちと直接つながっていて、そのコストを省けるのです」

日本で稼ぐだけでは危うい。拡大する残酷な格差

安藤氏は、日本とタイの格差は今後さらに開いていくと見ている。タイの平均年収が日本に追いつくのも、もはや時間の問題だ。

「現地の富裕層や中産階級は、確実に底上げされています。うちの店で3万円を払える層も、今後何倍にも膨れ上がるはずです。現に、現地の高級デパートから『家賃無料でいいから出店してほしい』とオファーが来たり、マレーシアなど周辺国からの引き合いも絶えません」

この勢いはタイの一店舗にとどまらず、成長著しいアジア全体へと広がっていく。「日本企業がアジアに進出して稼いであげる」というかつての上から目線は、とうの昔に通用しなくなっている。むしろ、アジアの圧倒的な購買力に日本が頼る構図へと変わりつつあるのだ。

「今の日本は、手当もない新卒の給料だけで都内で生活するのは物理的に不可能に近くなっています。自由に使えるお金が減り続ける中、日本国内だけで稼いで豊かになろうとするのは、もう限界を迎えているんです」

安藤氏の指摘通り、もはや「日本にいるだけで豊かになれる時代」は終わった。成長する東南アジアの活力を取り込む彼のビジネスは、その厳しい現実に対する一つの答えだ。

では、停滞が続く日本経済の中で、普通の会社員や個人はどうやって資産を守り、生き残ればいいのか。

続く後編『新NISA、オルカンだけじゃない…富裕層の「知られざる防衛術」と資産1000万円から始めるべき「最強の通貨分散」』では、日本に住みながらでも実践できる、現実的な「資産の生存戦略」に迫る。

【つづきを読む】新NISA、オルカンだけじゃない…富裕層の「知られざる防衛術」と資産1000万円から始めるべき「最強の通貨分散」