生活保護費に比べて約2倍の国費が……暴力団の「正業妨害」が招く、見えざる国民負担の増加
かつて20万人もの構成員を擁した暴力団。
覚せい剤の輸入や賭博、みかじめ料の徴収で莫大な収益を上げ、1980年代の年間収入は推計8兆円に達したと言われる。だが平成に入って以降、暴対法の制定や警察の行き過ぎた捜査、メディアによる批判的な報道が原因となり、暴力団は衰退の一途をたどってきた。
では、暴力団が社会から消えていくことは、我々一般国民にとって「良いこと」だけなのだろうか?しばし「必要悪」として語られてきた“やくざ”の実態を、『やくざは本当に「必要悪」だったのか』より一部抜粋・再編集してお届けする。
【前編を読む】組員から搾取する6代目山口組では考えられない…3代目山口組組長・田岡一雄の「若衆思い」エピソード
政務次官や総理大臣にも愛された若衆・山本次郎
田岡時代の山口組にはやくざの一線を退き、身近に若い者を置かない舎弟を中心に「山老会」というグループ分けがあった。当時の山口組直参表にはたしかに「山老会」と記され、10名近くの人名が掲載されていた。おそらく彼らはただ自分の名前だけ残し、月会費を免除され、老後を悠々自適に暮らしながら、昔の仲間たちとも会える、寂しさを感じずに済む老人たちだったはずだ。
山本次郎は舎弟ならぬ若衆の身で、同じような待遇を手にした。
彼は中野文門という先達に私淑していた。中野は1901年生まれの政治家兼仏教系の社会活動家だった。戦前の1933年、神戸市議会議員に当選し、その後兵庫県議会議員を務めた。両議会で中野はそれぞれ議長に就任している。戦後は空襲に遭った神戸市の復興に尽力し、仏教徒としても神戸市の仏教連合会の会長、兵庫県の仏教会会長を長く務めた。1956年参院選に出馬して当選、参院では内閣委員長、農林政務次官、文教委員長、文部政務次官に就任している。
凶悪イメージがある山本次郎とは対極的な立場、立ち位置にいる人と見えるが、なぜか山本はこの中野にも愛され、身近に中野の教えを受けた。同じように自民党の福田赳夫にも愛され、親しく教えを受けている。
「正業を持て」
山本は1974年、自宅に60畳の大広間を持つ鉄筋コンクリート造り、3階建ての山本洗心塾を建設したが、それも中野文門の教えからだった。
中野文門が「心を洗え、つまり洗心です。欲を捨てよ、己が心を拝め、生死一如」ということを教えてくれた。
翌1975年、山本はこの洗心塾を手土産に田岡を訪ね、自分の引退と山次組の解散を願い出た。田岡さんはそうか、そういうことならええ、と。正業をもって社会のために尽くせというてくれた。山次組にはまだ13人の組員がいた。全員を堅気にして、組を解散しましたんや。
こうした山本次郎の語りに明らかなように田岡一雄のいう「正業を持て」は真剣に考えた末の指針だった。現在の山口組の「辞めるいうんなら、組で稼いだものみんな置いていけ」というセリフとはえらい違いである。
「田岡に返れ」というスローガンは今でも聞くが、そのスローガン中に「正業を持て」を忘れては、まさに「仏つくって魂入れず」になってしまう。
暴力団の正業妨害は国家的損失を招く愚策
現在、警察の圧迫や妨害で暴力団員の多くが実質的に正業(合法的な事業)を営めないが、それでも少数ながら営んでいる者もいる。そうなら暴力団首脳のなすことは一つ、声を大にして「やくざに正業を!」と叫ぶことではないのか。裁判にも訴えるべきだし、同調者を募って集会やデモをする手もあるだろう。メディアも遠慮なく動員するべきだ。
考えてもみてほしい。組員が最後のセーフティネットとする刑務所の総費用は一人当たり年間450万円に上るという。また生活保護費の月間支給額は、75歳以上の2人所帯の場合、東京で月間約17万6,400円。年間なら211万6,800円である。
もし暴力団が正業を持っているなら、これらの国家支出はゼロですむのだ。若い頃の気力や体力をすっかりなくし、妻も家族もいない老後を迎えたやくざがまがりなりにも衣食住が保障されている刑務所を最後のねぐらにと思い定めて、したくもない犯罪を犯して刑務所に入る。刑務所の一人当たり総費用は年間約450万円というから、生活保護費に比べて約2倍の国費を費やすことになる。
警察が種々妨害を加えてやくざに正業を持たせず、単に合法でない犯罪にやくざを追い立てる取り締まりを続けるなら、それは国家的損失を招く愚策ということになる。警察はいい加減やくざ、暴力団の正業妨害を止めるべきなのだ。
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