都心の宿泊費高騰で、出張経費でホテルに泊まれない人が増えている。そうした中、ドーミーインを展開する共立メンテナンスが手がけるカプセルホテルの稼働率が上昇している。2025年11月には8割を超え、平日の利用者の大半は日本人のビジネス客だという。なぜ支持されているのか。共立メンテナンス首都圏事業部の米剛史副部長に、経済ジャーナリストの高井尚之さんが取材した――。
筆者撮影
施設のウリであるヒーリングスパ(風呂)。ドーミーイン名物の“つかまり石”もあった - 筆者撮影

■都内の宿泊費は“1万円超え”が当たり前に

東京都内のホテル宿泊費が高騰したままで、出張で「ホテルに泊まれない」という事態が、現実になりつつある。

たとえば本稿執筆時に「銀座・日本橋・東京・神田」「1泊朝食付」の条件で予約サイトを調べてみると、12月22日(月)は「ビジネスホテルKが1万8580円」「同Aが1万5200円」(調査時。金額は税込み、以下同)と1万5000円を超える施設が次々に出てきた。

筆者は各社の出張旅費規程も取材してきたが、「一般企業の社員は1万円以内。それを超える場合は上長の承認がいる。もしくは自己負担で対応」という会社が多かった。

東京23区を外すと安くなるが、朝食付きは割高で以前のような“社内規程の範囲”で泊まりにくい。地方から東京に出張する会社員の中には悩んだ末に、「鍵付きでシャワーが使える少し上質なネットカフェに泊まった」という話も聞いた。

そんなご時世に異色の施設がある。今回はその事例を紹介し、運営会社の責任者にサービス内容やこだわりを聞いた。

■12月の繁忙期に「1泊朝食付で5000円」から

「グローバルキャビン(global cabin)横浜中華街」(以下横浜中華街:横浜市中区)という施設がある。運営はビジネスホテル「ドーミーイン」を展開する共立メンテナンスだ。

立地はみなとみらい線の元町・中華街駅から徒歩6〜7分。元町・中華街駅から横浜駅は電車で約10分の距離で交通の便もいい。ホテル正面には観光名所の「関帝廟」がある。

筆者撮影
施設から見えた関帝廟 - 筆者撮影

気になる料金はいくらか? 前述の予約サイトで同じ条件の12月22日(月)「1泊朝食付」で調べると「カプセルタイプ=5000円」「キャビンタイプ=6000円」と驚くほど安い。日によって料金体系が異なるが、調査時は年末年始以外は同価格が多かった。

そもそも、この業態はどんな経緯で生まれたのか。

開発当時は「カプセルホテル=男性」というイメージが強かったが、女性の社会進出やインバウンド(訪日外国人客)増加も見え始めた時期だった。そこで女性や訪日客にも気軽に使ってもらえるよう、内装やサービスにこだわったのが「グローバルキャビン」の原点だという。

当初のターゲットは少し異なっていたが、その「居住性へのこだわり」は、結果として今のビジネスマンのニーズに合致することになる。

■「お風呂やサウナがないのはダメでしょう」

なぜ、手頃な料金の宿泊施設を運営しているのか。

「この業態は2016年の五反田(東京都品川区)や2017年の水道橋(同文京区)でスタートしました。たとえば水道橋は、近くにある東京ドームでプロ野球やコンサートが頻繁に開催されます。地方から来られたお客さまはチケット代やグッズ代でお金を使うので宿泊費は安く抑えたい。そうした顧客層に支持されてきました。その後のコロナ禍で休止した施設もありますが、横浜中華街は2024年7月にリニューアルオープンしました」

ドーミーイン首都圏事業部 副部長の米剛史氏(共立メンテナンス ホテル事業本部)はこう説明する(以下、発言は同氏)。

これまで「ドーミーイン上野・御徒町」や「同EXPRESS浅草」(ともに東京都台東区)の総支配人を務めた米氏は、ドーミーインならではの思いも強い。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ドーミーイン首都圏事業部の米剛史氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「横浜中華街のリニューアルでは『ヒーリングスパ』(風呂)と『サウナ』を新設。スペースの関係でヒーリングスパは男女入れ替え制、サウナは男性専用となりましたが、社内では『ドーミーイン系列の施設でお風呂やサウナがないのはダメでしょう』という声も上がり、客室数を減らしてでも設置にこだわりました」

■客室はコンパクトな空間

それまでは予約制の「貸し切り風呂」と自由に使える「シャワー」のみだったが、宿泊客なら誰でも使えるヒーリングスパ(男女入替制)とサウナ(男性のみ)が加わり選択肢が増えた。ホテル2階(女性専用フロア)、3階〜5階(男性専用フロア)の各階にシャワーがあり、チェックインからチェックアウトまで使える。

「収益性とドーミーインの魂(大浴場・サウナなど)をどんなバランスで両立させるのか。その試行錯誤の末に、ドーミーインより部屋は少し狭いですが、足を伸ばしてくつろげる今の形に行き着きました」

部屋というプライベート空間を削ってでも、「風呂とサウナ」は死守する。それは同社のこだわりでもあった。

写真提供=共立メンテナンス
こだわりの貸し切り風呂 - 写真提供=共立メンテナンス
筆者撮影
男性のみだがサウナ室もある - 筆者撮影

客室は前述した「キャビン」タイプと「カプセル」タイプがある。前者は仕切りの左右に部屋があってベッドが分かれており、一定のプライベート空間が確保されている。

筆者撮影
キャビンタイプの左の部屋(ベッドは上)と右の部屋(ベッドは下)。2つの部屋は壁で仕切られている。デスクとイスでは仕事もできる - 筆者撮影

「横浜中華街の稼働率は2025年11月が81%でした。利用者の9割超は日本人で、平日はビジネス客、土日祝日は観光客も増えます。もともと当社は社員寮からスタートした会社で、自宅のようなくつろぎを追求して宿泊施設も“あったらいいな”を造ってきました」

徒歩10分圏内には横浜スタジアムがある。プロ野球の横浜DeNAベイスターズが日本シリーズで優勝した昨年秋は稼働率がさらに上がり、約9割だったという。

■鍵のかかるドアがない

業態としては旅館業法の「簡易宿泊所」であるカプセルホテル(簡易宿所営業)のため、客室であるカプセルユニットには法律(旅館業法や消防法)により鍵をつけることができない。鍵のかかるドアにすると「旅館」扱いになるからだ。

貴重品はどう管理すればよいのか。

「たとえばキャビンタイプの場合、客室の横にセキュリティボックスがあり、ご自身で設定した4ケタのダイヤル番号でロックされます。カプセルタイプは、カギ付きロッカーとワイヤーロックのキャリーケース置き場があります」

筆者撮影
キャビンタイプの男性客室。貴重品はセキュリティボックスで保管できる - 筆者撮影

ドーミーインも取材してきたが、同業態のこだわり4本柱は「_適な客室、大浴場(サウナ)、朝食、ぬ詭弔そばを含む無料サービス」だった。横浜中華街ではどうか。

「快適性としては、フリースペースにマッサージチェア(無料)や読み放題のコミックを用意しました。朝食は軽朝食を、夜鳴きそばは当社オリジナルのカップラーメンをご提供しています」

筆者撮影
客室フロアを出たフリースペースに置かれたコミックの棚とマッサージチェア - 筆者撮影

■「小さな雑音はあったが安眠できた」

取材後は実際に宿泊してみたので、周辺情報を含めて紹介したい。

フロントでチェックイン手続きをすると、館内案内図とともにカードキーが渡された。客室スペースは施錠されたドアで仕切られ、カードキーでタッチして開錠する。

今回宿泊したのはキャビンタイプでベッドは下。前述したように隣室(ベッドは上)とは壁で仕切られており利用客とは会わない。客室内デスクではモバイル作業もはかどった。シャワーやトイレはドアを出た共有スペースにあり、カードキーを携帯する必要がある。

中華街なので食事場所には困らない。夕食は広東料理の名店「徳記」を選んだ。偶然にもホテルから徒歩1分の距離。味は美味しく、町中華のような価格だった。

夕食後は横浜スタジアムまで歩いてみたが、徒歩7分ぐらいで到着。ホテルに戻り、1階レストランで夜鳴きそばの代わりに無料提供される「ご麺なさい」を食べた。

筆者撮影
ドーミーイン名物「夜鳴きそば」代わりに用意されたカップ麺 - 筆者撮影

その後はシャワールームを使用した。個室で仕切られており、座って利用できるイス(座面)もあった。汗を流した後は客室に戻り就寝。小さな雑音はあったが安眠できた。

■価格を考えれば納得できる「シンプルな朝食

翌日、朝食をとりに1階レストランへ。メニューはシンプルで和食は「ご飯、味噌汁(フリーズドライ)、のり、ふりかけ」が用意されていた。おかずはないがバイキング方式でおかわり自由。オレンジジュースや牛乳もある。利用者は大半がビジネス客だ。

筆者撮影
朝食メニューの和食はシンプルだった - 筆者撮影

シンプルな内容だが、価格を考えれば納得できる。個人的には〈5000〜6000円の宿泊費に含まれる朝食でこの内容なら〉と感じたが、宿泊サイトのレビューには「有料でいいから卵や納豆がほしい」という声もあった。

朝食後、昨夜スルーしたヒーリングスパに行き入浴。浴槽もドーミーインらしく“つかまり石”がある。シャワーヘッドも同じリファ製だ。偶然隣り合わせた男性に聞いてみた。

「実家は横浜ですが仕事の関係で北海道在住。今回は実家に立ち寄りましたが、お互い気を遣うのでここに宿泊。ドーミーインは利用してきましたがこの施設は初めてです」

価格面も含めて満足しているようだった。前日の取材でも「近隣の方が別荘代わりに使うケースもあります」という話を聞いたが、それに近い利用の仕方だろう。

なお、朝の入浴では名物の「湯上がりアイス」(提供時間は15時〜25時)はないが、「湯上がり乳酸菌飲料」(同5時〜9時)を楽しむことができる。

筆者撮影
ドーミーインおなじみの「湯上がりアイス」。アイスキャンディーもあった - 筆者撮影

■高価格化する宿泊市場の歪み

宿泊料金の高騰はドーミーインも例外ではない。都心の施設は冒頭で示した競合ホテル並みで海外からの問い合わせが多いという。円安もあり、競合も含めてインバウンドの姿が目立つ。その陰で、日本人の出張需要は「低価格帯」へ押し出されつつある。

予約面でも、日本のビジネスマンには不利だ。訪日客は数カ月前から旅行日程を組み、割安な早期予約で部屋を押さえてしまう。対して、日本人ビジネスマンの出張は直前に決まることが多く、その頃には価格が高騰しているか、満室だ。都心ではすでに「泊まれるホテルがない」という状況が現実になりつつある。

「我々はビジネス目的のお客さまも大切にしており、根底にあるのは日本人のお客さまです」と話す米氏は、昨今の宿泊料金高騰と混雑に「心苦しい」と本音を漏らす。

「どうしてもビジネスマンの方の予約は直前になりがちで、そうなると料金も上がってしまいます。我々のメインのお客さまであったはずの方々に泊まっていただけない点は、非常に心苦しいところです」

撮影=プレジデントオンライン編集部
ドーミーイン首都圏事業部の米剛史氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「カプセル業態ですが、当社としては“キャビン”(元の意味は客室・船室)という言葉を浸透させたい。“わが家のようなくつろぎ”をスタンスに掲げる会社なので、手足を伸ばしてお風呂に入れる、湯上がりに何かを味わうサービスは可能な限り訴求していきます」

部屋を削ってでも、くつろぎの体験だけは削らないという判断なのだろう。

■「泊まれるホテルがない」時代の受け皿になれるか

筆者はこれまで数回、出張時の「ビジネスホテル選び」を調べてきたが、重視するのは「朝食」「大浴場」「快適性」や「駅近」だった。だが宿泊費の高騰で「ここは妥協する・あきらめる」が増えた感もある。選びたいホテルと、選ばざるを得ないホテルの乖離は、確実に広がっている。

グローバルキャビンは、現状における出張や観光時の“解のひとつ”だ。「安いから選ばれる宿」ではなく、日本人ビジネスマンが排除されつつある市場のなかで、「一定の快適性で泊まれる場所」を残そうとする試みといえよう。

筆者撮影
「グローバルキャビン」のキャビンタイプの廊下 - 筆者撮影

----------
高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「人気ブランド」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。
----------

(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)