IQ高いのに「勉強ができない、社会で成功できない人」の特徴

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人間の心や頭の発達にとって、子ども時代は重要な意味を持ちます。近年、傷つきやすい若者、すぐキレる若者、頑張れない若者が散見されるのは、学力や知力とは関係ない、何か他の能力の不足が関係している――と、心理学博士の榎本博明氏は語ります。ここでは、その能力とは何か、どうしたら高められるのかを紹介します。本連載は、榎本博明著『伸びる子どもは〇〇がすごい』(日本経済新聞出版)から一部を抜粋・編集したものです。

IQは高いのに学業がパッとしない子…なぜか?

学業成績には、認知能力、いわゆる知能検査で測定されるIQがかかわっているのは言うまでもない。だが、たとえ認知能力がほとんど変わらなくても、学業成績の良い子と悪い子がいる。IQがそのまま学業成績に反映されるわけではない。

IQは高いのに、学業成績がパッとしない子がいる。これをアンダーアチーバーという。素質を十分に活かしきれていないことを意味する。一方で、IQはそれほど抜きん出ていないのに、学業成績が非常に良好な子もいる。これをオーバーアチーバーという。素質を十二分に活かしていることを意味する。

ここからわかるのは、学力にIQが関係しているのは間違いないとしても、IQで測定される潜在的能力をどこまで発揮できるかには大きな個人差があるということだ。そうした個人差は、何によって生み出されるのか。それがわかれば、IQの高低にかかわらず、潜在的能力を十分に開発し、学業成績や仕事成績の向上に結びつけることができる。そこで注目されているのが非認知能力というわけだ。

文部科学省により平成29年度に実施された全国学力・学習状況調査の結果と、その対象となった小学6年生および中学3年生の子どもたちの保護者に対する調査の結果を関連づける調査報告書をみてみたい。

それによれば、子どもの非認知能力と学力との間には、ゆるやかな正の相関がみられる。つまり、非認知能力が高いほど学力が高く、非認知能力が低いほど学力が低いといった傾向がみられた。さらには、親の学歴や収入といった社会経済的地位と学力との間には、中程度の正の相関がみられる。つまり、親の学歴や収入が高いほど子どもの学力が高く、親の社会経済的地位が低いほど子どもの学力が低いといった傾向がみられた。

(※写真はイメージです/PIXTA)

そして、子どもの非認知能力と親の社会経済的地位との間には相関はみられないことから、非認知能力と社会経済的地位は、それぞれ独立に学力に影響を及ぼしていることがわかる。そこから言えるのは、学力が親の学歴や収入に規定されるものの、たとえ親の学歴や収入が高くなくても、子どもの非認知能力を高めることができさえすれば、学力を高めることができるということである。

この調査のデータによれば、「子どもに努力することの大切さを伝えている」「子どもに最後までやり抜くことの大切さを伝えている」といった親による働きかけが、子どもの非認知能力の高さにつながっている。

何かにつけて努力する姿勢があり、困難に直面しても諦めずに最後までやり抜くことができる子どもは、当然勉強に関しても頑張り抜くことができるはずだ。学業成績を左右する要因は、こうした心理的な傾向にあると考えてよいだろう。

社会で成功するには?…IQよりも「EQ」が重要な理由

非認知的能力というのは、自分を動機づける能力、長期的な視野で行動する能力、自分を信じる能力、他者を信頼する能力、自分の感情をコントロールする能力などである。これらは、まさにEQ(心理学ではEI=情動的知性と言うが、IQとの対比で一般にはEQと呼ばれている。心の知能指数などとも言われる)に相当するものと言える。

IQというのは遺伝規定性が強い、つまり遺伝によって決定されている部分が大きいため、教育や本人の努力ではどうにもならない面が強いということが、心理学の研究で示されている。もちろん知的刺激を与えることでIQの発達を促すことができるが、遺伝によるもって生まれた素質は無視できない。

では、社会に出て活躍しているのは、遺伝的に優秀なIQの高い人かというと、必ずしもそうではない。IQの高い人が必ずしも成功せず、IQが平均並みの人が大成功したりするのはなぜなのか。

そうした疑問を出発点として、心理学者ゴールマンは、人生で成功するかどうかは、心の知能指数によって決まるのではないかと考えた。それがEQである。EQは、生後のしつけや教育によって十分高めることができると考えられている能力である。

では、EQとは、どのような能力を指すのだろうか。EQは、対自的能力と対他的能力に分けることができる。いわば、自分の心の状態を理解し、それをコントロールする能力と、他人の心の状態を理解し、それに対応する能力を指す。これをもう少し詳しくみていくと、つぎのような構成要素に分けてとらえることができる。

【対自的能力】

ー分の感情や欲求に気づく能力

⊆分の感情や欲求をコントロールする能力

自分を鼓舞しやる気にさせる能力

で瓦蟠くものごとに取り組む能力

イ發里瓦箸魍擺囘に受け止め前向きになる能力

【対他的能力】

/佑竜せちに共感する能力

⊃佑領場や意向を想像する能力

人の言いたいことを理解する能力

た佑房分の気持ちを伝える能力

タ佑筏せちを通い合わせる能力

子どものしつけや教育の中で、忍耐力や粘り強さ、共感性などを身につけさせることが大事だとされてきたが、それらはこのEQに相当するものと言える。そして、実際にEQが高い方が、ストレス対処能力が高く、学業成績が高く、職業的成功度が高く、社会適応がよく、人生の幸福感が高いことなどが報告されている。

勉強、就活、仕事…あらゆる成功も「EQ」しだい

何ごとに関しても粘り強く取り組む姿勢が成功につながるというのは、経験則としてだれもが知っている。学業成績を左右する要因が粘り強く頑張れるかどうかであることは、すでに指摘した。粘り強く取り組むことができるかどうかも、自分の心の状態をコントロールする力という意味で、まさにEQに相当する能力なのである。

心理学的な研究でも、小学生の学力には、EQ、とくに自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが関係していることが確認されている。「中一の壁」などと言われるように、環境の大きな変化を経験する中学1年生にとっては、環境の変化に打ち克って自分の心の状態を安定させることが求められるが、自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが学力に関係することがわかっている。

これは容易に想像できることだが、EQが低い場合は、困難に直面するとすぐにヤケを起こしたり、諦めたりしがちである。一方、EQが高ければ、ネガティブな感情をうまくコントロールして、自分を鼓舞しながら、粘り強く困難に立ち向かうことができる。ものごとに粘り強く取り組めるかどうかもEQしだいというわけだ。

モチベーションには理屈よりも気持ち面が大きいことを考えると、感情コントロール力がいかに重要性かがわかるはずである。たとえば、試験前に勉強しなければいけないことは頭でわかっていても、どうもやる気が湧かない。そんな経験はだれにもあるだろう。そんなときに、自分の気持ちを鼓舞してモチベーションを高めることができるかどうか。それによって試験で成功するかどうかが決まってくるわけだが、そこにEQが関係してくる。

EQが高いほど就職活動で成功しやすいという傾向もみられる。その理由として、自分の感情を適切にコントロールでき、人の気持ちや立場に対する共感性が高く、自分の思いをうまく伝えることができることが、面接官の高評価につながるということがあるだろう。

だが、それだけではない。就活では思うような結果が出ずに苦しい思いをするものだが、そこで落ち込んだりヤケになったりしていたら、就活で成果を出すのは難しい。実際、いくつか落とされることでひどく落ち込み、モチベーションを維持できず、就活を投げ出し留年を決め込むものや、アルバイターでいいと開き直る学生もいる。落とされればだれだって落ち込むが、そこからすぐに立ち直ることができないと先に進めない。それにもEQが関係する。けっして諦めたりせずに、前向きに頑張り続けられるのも、EQの高さによるところが大きい。

就職してからも、EQの高さは仕事上の業績評価や給料の高さなどと関係していることが報告されている。いくら頑張ってもなかなか成果が出ないというのもよくあることだが、それでも諦めずに頑張り続けなければならない。自分なりに成果を出せても、ライバルがそれ以上の成果を出した場合など、評価されずに落ち込みがちだが、それでも頑張り続けるしかない。上司との相性が悪く努力や成果を正当に評価してもらえない場合も、腐らずに前向きの気持ちで頑張り続けるしかない。それができるかどうかもEQしだいと言える。

このように、忍耐力や衝動コントロール力など自己コントロール力があるほど、勉強にも仕事にも粘り強く取り組めるため、潜在能力を十分に活かすことができるはずである。また、そうした自己コントロール力があるほど、人とのトラブルも少なく、公私にわたる人間関係を良好に保つことができるだろう。それは情緒安定をもたらし、モチベーションを高める効果をもつと同時に、周囲の人たちの好意的な対応も引き出すと考えられる。

ここで改めて強調したいのは、このようなEQは、まさに日本の子育てや教育において伝統的に重視されてきたものだということである。日本の教育界では、何かにつけて欧米式を導入したがる傾向があるが、すでに述べたようにOECDによる学力調査でも日本人は非常に学力が高いことが示されているし、日本人の勤勉さや仕事の質の高さは世界的に定評がある。

さらに言えば、これまで知的能力ばかりを重視してきたアメリカでは、いくらIQが高くても、忍耐力や衝動コントロール力といった自己コントロール力が高くなければ社会的に成功できないと言われ始めている。

日本では、忍耐力や衝動コントロール力など自己コントロール力を重視する子育てや教育が伝統的に行われてきたのに、それを軽視するばかりか、自己主張の教育などといって、そこから脱しようとする動きさえある。

最近の国際比較調査のデータをみると、日本の生徒や学生の学力低下や学習時間の少なさが目立つ。また、叱られたり注意したりすると落ち込んだり、逆ギレしたり、辞めてしまったりする新入社員が増えており、若者のストレス耐性の低さが話題となっている。そうしたことを考えると、自己コントロール力を鍛える子育てや教育を再評価すべきだろう。

学校生活を順調に乗り切り、自分らしい進路を切り開いていってほしい、大人になってからの職業生活や私的な人間関係もうまくやっていける人間に育ってほしいと思うなら、日本の伝統的な子育ての良さを再認識する必要がありそうだ。

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榎本 博明

MP人間科学研究所 代表