お金を使うのは楽しいのに家電の買い替えで摩耗。情報収集して比較して交渉…何度も挫折しそうに
世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、50代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第62回は「買い物が億劫になってきた」です。
* * * * * * *
前回「おばさんこそ出かけたほうがいい。40歳からひとり行動派になった結果、見えてきた世界は…」はこちら
テレビは友達
最近、テレビとブルーレイレコーダーを購入した。結構な大型家電だ。実はテレビを17年、レコーダーを10年近く使った。ついにハードディスクに限界がきたのか、録画ができなくなってしまったので購入を決めた。ちなみにどちらもシャープ製品。焼きが回ったテレビはよしとして、令和なのだから「ブルーレイレコーダーを買わなくてもいいのでは?」と突っ込まれそうだけど、そうもいかない。仕事で時折、ブルーレイディスクが送られてくることもあるし、自分で購入したディスクもたくさんある。
主力メーカーが相次いで撤退して、割高になっているのは承知しているが、私には必要なのだ。おそらく命尽き果てるまで、しつこく買う気がする。
そしてテレビは単身住まいにとっては、欠かせない相棒。自宅にいれば朝から晩までテレビはついているし、音楽も聴く。なんなら「ウッソだね(笑)」「えー? マジか」と、日々テレビに話しかけているので、心が孤独にならないためのインフラなのだ。買うぞ、いまベストなものを買うぞ。少し、鼻息が荒くなった。
(はて……?)
コーヒーを啜りながら、購入計画を考え始めると首を傾げた。なんせ、購入するのは10年ぶりなのだから、浦島太郎状態。家電量販店? アマゾン?? 中国製のテレビ??? 選択肢の大波が押し寄せてくる。独身女性が突然、ママ友会に放り込まれたようなもので、まったく頭がついていかない。落ち着け、私。こんなときは自分の職業に“編集者”が並んでいるのを思い出せ。編集者とは一冊、1ページを作成するために資料をかき集めて、発売までの時間を逆算して、スケジュールを立てる。そう、まずはゴールを決めるのだ。今回のミッションは「設置するサイズにあった43インチのテレビと、シャープのブルーレイレコーダーを予算20万円で買う」。シャープにこだわっているのは「ドラ丸」と呼ばれている、連続ドラマを一気に毎クール録画してくれる機能が便利だから。よし、次は情報収集だ。
販売スタッフガチャ
情報を集めるためには、やはり足だ。実物をこの目で確かめて、その筋に詳しい人間から聞き出すしかない。念の為、私の肩書きに刑事は含まれていない。
結果的に仕事の合間を縫って、5軒ほど家電量販店を回った。入店すると私の購入欲に殺気を感じるのか、どの店舗でも販売スタッフがなかなか近づいてこない。
(……めんどくさそうなおばさん、って思われているのかな……)
今回の連載はどうも独り言が多い。仕方がないので、カウンターで「テレビを購入したいんですが……」と、おばさんイメージを払拭すべく、あえて静かな雰囲気を醸し出して尋ねてみる。すると“販売スタッフガチャ”が始まり、私にマッチングすると思われたスタッフの説明が始まる。
「お客さま、地上波と配信どちらを見られる確率が高いですか? ああ、配信? ですとねえ、やっぱり韓国製、中国製が向いているかもしれません。日本製ももちろんいいんですが、やっぱり、ほら、お値段がね(笑)。日本の会社は審査基準が厳しいので、なかなか値段も下がらないんですよ。それならばと、中国で日本の部品を使って作られたテレビもあるんですよ。そうすると、視聴時間が短くなることで目の疲労を軽減してくれると言われている倍速機能。これが安く手に入って……」
一気に、そしてやや上から目線で捲し立ててくるスタッフ。どうにも視線が合わせられない。(どうもこの人が苦手だ……。この場を去って、別の店に行くか?)と、脳内で押し問答を繰り返してしまったので、5軒も回る羽目になった。加えて最近、テレビを売り出し始めた「ニトリ」でも説明を聞き、インターネットでも調べた。おかげで現在は販売スタッフになれそうなほど、テレビとレコーダーに詳しい。
「そんなに迷っているなら、安いんだし、アマゾンで買えばいいじゃん」

イメージ(写真提供:Photo AC)
友人の勧めに心が揺らぐ。ただ通販で買ってしまうと、設置を自分でやらなければならない。私は稀代の不器用で組み立て家具はもちろん、ボタンつけさえできないので、テレビとレコーダーを設置するのは、明日から中国雑技団に加入しろと言われているようなもの。
結果、人柄の良さそうな販売スタッフと巡りあい、テレビのリサイクル、設置、消費税込みで155000円まで値下げ交渉に成功した。
買い物にときめきたい
今回のミッションで得た情報を一部、共有しよう。
1:販売スタッフから聞き出したのは「郊外型の店舗よりも中心部のほうが、値段が安い場合が結構ある」。実際に私も同じ商品、同じ会社でも店舗によって見積もり金額が違った。
2:「今日、ご契約いただければ……」は営業クロージングトークではなく、値段はその日によって違うらしい。なので、こちらも今日決める意気込みは必要。
3:値段交渉は一気に攻め込んでもらったほうがいいと、販売スタッフ談。あと個人的感触では「ここまで下げてくれるのなら、今日この場で一括で買います」が効く。
あくまでも私に限った場合の情報なので、ご参考までに。
もうすぐ我が家にテレビとレコーダーがやってくる。ふとここまでの2ヵ月間を振り返って気づいたのは、買い物が億劫になっている自分。若い頃は大きな金額の商品を買うときには、ワクワクしっぱなしだったのに、今回は途中で何度も挫折しそうになった。ハードディスクと同じく、私の脳も摩耗してすり減っている。判断力が鈍っているのだ。思えば最近、スーパーへ行くのも「足りないものを補充に行く」義務感が高まっていて、ちっとも楽しくない。そりゃ年収が1億円もあったら、値段も時間も気にしないで買えるのかもしれないが、私はただの凡人だ。

イメージ(写真提供:Photo AC)
(もう少し、買い物を楽しもう)
苦労して得ているギャランティ。もっと楽しく、スペシャルに活用せねば。金を使うのは楽しいのだ。そんな前向き思考のふりをしつつ、パソコンとスマホの買い替え時が近づいている状況に(また、あの惨劇が来るのか)と少しビビっている。
