「芸能人が不祥事の禊で介護する風潮はどうなのか」施設長の言葉から1年、本気で介護に向き合ったオラキオの現在地
「芸能人が不祥事を起こしたとき、禊(みそぎ)のようにちょっと介護やりました、みたいなのってどうなんですか?」。老人ホームの施設長からお酒の席で受けた「問い」。介護業界など1ミリも知らず、ましてや不祥事もなかった芸人・オラキオさんでしたが、そこから1年間、介護職と本気で向き合うことに。経験して導き出した、問いへの「答え」は──。
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発端は飲み会の場での、何気ない発言だった
── 2016年に弾丸ジャッキーを解散してピン芸人となったオラキオさん。2019年から2020年にかけて、芸人の仕事をしながら介護職の実務者研修を修了していらっしゃいます。介護職に取り組むきっかけとなったのが、ある老人ホームの施設長さんの発言だったとか。
オラキオさん:飲み会の席での、何気ない発言だったんですよ。友達が連れてきたのが、当時、特別養護老人ホームの施設長をしていた柳沼さんという方で、初対面でしたけど楽しく飲んでいたんです。
お酒が進んだ頃に柳沼さんから「芸能人が不祥事を起こしたとき、禊(みそぎ)のようにちょっと介護やりました、みたいなのってどうなんですか?」って聞かれたんです。「僕たちは職業のひとつとして介護職を選んで給料をもらっているのに、悪いことした芸能人が謹慎中にボランティアしてみました、という雰囲気でやられるのは、ちょっと違う気がするんです」と。
僕は芸能人側の人間として「そうですよね。なんかすみません」と謝ったら、「いや、謝るんだったらオラキオさん、禊とか何も関係なく介護やってみてくださいよ」と言われて。僕も酔っぱらってるから勢いで「じゃあ、やりますよ!」と返したんです。
とはいえ酒の席の話だと思っていたら、後日その施設長から「じゃあとりあえず研修受けてみてくださいね」って声をかけられたので「あれは本気だったのか…」と。でもノリで言っただけのやつだと思われたくなかったですし、自分にできることがあればと、スケジュールを合わせて研修を受けることにしました。
── 家族の介護など、身近で見たり経験したりしたことはあったのでしょうか?
オラキオさん:まったくなくて、介護業界のことは1ミリも知らない状態からのスタートでした。逆に変な先入観もなかったので、「とりあえずやってみよう」と思えたのかもしれません。
介護職は大変?現場で感じた若者の課題
── 実際に研修を受けてみてどうでしたか?
オラキオさん:まず初任者研修を受けてから、1年ほどかけて実務者研修を修了したんですけど、「介護とお笑いって意外と相性がいい」と気がついたんです。芸人は声が大きくてハキハキ話すから高齢者の方が聞き取りやすいですし、会話を盛り上げるのに慣れています。認知症などで何度も同じことを言う高齢者の方にも、その都度フレッシュなリアクションを取っていたので、すごく喜ばれました。漫才にせよコントにせよ、何度、同じネタをやっても初めてのように驚き、ツッコむのが芸人ですからね。
── その後、介護業界の職員定着支援を目指した活動をされるようになったそうですね。
オラキオさん:僕の本業は芸人だから、毎日、介護の現場に入れるわけではない。でも、芸人という立場を生かしてライフワークとなるような福祉活動に取り組めないか、という気持ちがだんだん芽生えてきて。介護人材の定着支援サービス「kaigo FIKA(カイゴ フィーカ)」で、若手介護職員のメンタルケアや相談に応じる活動を始めました。
FIKAはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと。介護職は想像以上にやることが多くてコミュニケーション不足になりがちだから、定期的にお茶でも飲みながら雑談する時間を設けて職場環境をよくしていこうという狙いがあります。
── 世間的に、やはり介護職は大変で、離職率が高いイメージがあります。
オラキオさん:介護って排泄物の処理や認知症の方の対応が大変というイメージがあると思うんですけど、実際にはそれが大変と言っている介護士は少なくて。どちらかというと夜勤があって友達や恋人と遊ぶタイミングが合わないとか、人間関係とか、そういうことで悩んでいる若者の方が多いんです。
若手介護職員の集まりに芸人の僕が入ることで、コミュニケーションが円滑に進み、もう少しこの仕事続けよう、と思ってもらえたら嬉しいですね。ただ、僕自身は常に施設で働いているわけでもなく、圧倒的に介護現場での経験が少ないので、そんな僕でも役に立つのかな?というコンプレックスや葛藤は常に抱えています。
「介護は禊なのか」オラキオが出した「答え」
── 介護の啓発活動も行っているそうですね。講演会ではどのような話をされるのでしょうか?
オラキオさん:将来的には「介護」を小中学校の必須科目にしてほしいと思っていて、若いうちから介護のことを知ってほしいという話をしています。日本はもう20年近く前から超高齢化社会を迎えているし、ヤングケアラーの問題も表面化してきている。突然、介護が必要な状況になる機会は誰にでもあるんです。
介護がまだ先の将来の話だと思っている小中学生だって例外ではない。いざその環境になったときに介護の知識があるのとないのとでは全然、違うんです。知識があれば外部に助けを求めることもできるし、介護をプロに任せる、介護が必要な家族を施設に預けることに罪悪感を感じないでほしいということも伝えています。
── 介護は家族がするものだ、という風潮が強い年代や地域もありますよね。
オラキオさん:介護をプロに任せるのは責任逃れでも何でもありません。家族だと介護する方もされる方も気を遣い合ってお互いが疲弊していくので、要介護度が重くなれば施設に預けるほうがお互いのためだと思います。もちろん、お金や入所待ちの課題は社会の仕組みとしてまた別の問題ですが、人材が足りていない部分は僕にもできることがあるんじゃないかという思いでいろんな活動をしています。
── オラキオさんが介護に関わるきっかけとなった「芸能人がスキャンダルの禊で介護」の風潮、実際に介護職を経験してから、感じ方は変わりましたか?
オラキオさん:介護って禊でちょっとできるような仕事じゃなくて、実はクリエイティブで人間力が試される仕事でした。基本の知識があっても、介護する相手によってケアの方法やコミュニケーションの取り方は全然違い、そのぶんやりがいがある。ボランティアじゃなくて、きちんとした対価をいただいて責任をもって取り組む仕事ですよね。
「大変そう」「きつそう」というイメージがあるから禊という発想になるのかもしれないけど、もっと「介護っていいね」「介護士カッコいいね」となるような世の中になってほしいです。僕ひとりの力じゃ小さくて何ともならないけど、発信だけは続けたいです。
取材・文:富田夏子 写真:オラキオ

