「便所掃除でも何でもする」熱意で道を切り開く…NPOに企業法務の知見 鬼澤秀昌弁護士
弁護士とNPOをつなぐプラットフォームを設立し、スクールロイヤーやNPO法務を中心に活動する鬼澤秀昌弁護士(BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 プロボノ・社会貢献部門賞、主催:弁護士ドットコム)に、その活動の原点と、今後の展望を聞いた。
●オタク気質ゆえの没入 「楽しい」が原動力
あの時の勇気が、道を切り開いた。
「インターンさせてください。便所掃除でもなんでもするので、お願いします」。ソーシャルビジネスに関心を抱いていた大学4年生の時、鬼澤秀昌氏は資金と人の経営支援を行う「SVP(ソーシャルベンチャー・パートナーズ)東京」の創設者で代表の井上英之氏に直談判した。講演の合間のたった30秒。「恥ずかしい。でも今を逃したらダメだと思った。当時の自分に感謝したい」と振り返る。
その後、司法試験に通った後も内定していたTMI総合法律事務所に1年待ってもらい、教育系NPO「Teach For Japan」の職員に。弁護士数が増えて就職難のころに、大胆な決断をしたのは「とことん突き詰めたくなるオタク気質」と自己分析する。NPOの内部はどうなっているんだろう。当事者として中に入ってみなければ分からない。納得できるまで知ってから、自分は何がしたいのか、みんなが活躍するにはどうすればいいかを考えてきた。
たどり着いたのが、社会を変えようと動くNPOの後押しであり、子どもの最善の利益のために寄り添う教員の支援だった。直接のプレーヤーではなく、第三者的立場で、彼らが実現したい道筋の一部として関わることに喜びを感じた。企業法務の経験がある弁護士であり、NPOや教育の現場の実情を知っていることこそが強みだ。「根本にあるのは自分が楽しいから。少し休んでも、また、やる気が湧いてきちゃうんですよね」
●団体設立、弁護士100人規模に
さらに、鬼澤弁護士は自身の「楽しさ」を多くの人とシェアしようと動く。司法試験を終えたころ、かねてからNPOには企業法務の知見を生かした支援が有効だと考えていたため、2012年に弁護士とNPOをつなぐプラットフォーム「BLP(Business Lawyers Probono)-Network」を設立する。
当時プロボノに注力する企業法務弁護士として有名だった大毅弁護士と木下万暁弁護士に相談し、事務局として奔走した。「人と人をつなげるのが好きなんです。すごい人がつながっていくのが嬉しくて、もし司法試験に落ちても飲み会の幹事はやりますと言っていました」。当初は数人だった弁護士も、いまや100人規模になった。先駆者の両弁護士が40代で急逝したいま、鬼澤氏の肩にかかる重みもぐっと増した。
BLP-Networkは任意団体として活動しながら、2023年には一般社団法人も設立。NPOのリスクマネジメント体制構築を支援する事業が休眠預金活用事業として採択され、助成金を得たことも大きかった。「組織として本気度が問われている。トップはこういう頭なのか、と見える景色が違ってきました」。1人事務所の経営とは違う。資金調達、スタッフの労務、活動の持続性など、組織の方向を決める責任を担っていると感じる毎日だ。
●立場や職域を越えてつながる面白さ
「NPO」と「教育」の2本柱をひとすじに貫いてきたように見えるが、「自分はかつて中途半端だと思っていた」と語る鬼澤氏。悩みながらも大事にしてきたのは「当事者感覚」だ。 Teach For Japan職員としての経験、現在BLP-Networkを運営する代表としての立場で、NPOが抱えるリスクや課題、職員の感じる不安が現実味をもって感じられる。NPO法務には企業法務弁護士が有用だということも、説得力がある。
また、「教育判例勉強会」を通じて、10年以上も現場の教員との交流を続けてきた。「判例は事実が克明に記されています。勉強会で細かく事例を追っていきながら、先生たちの意見を聞くと、思考プロセスが見えてくる。それを言語化することに意義を感じています」。いじめ自殺などシビアな状況では、学校現場は硬直する。メディアは犯人探しになりがちだ。そんななかで冷静な第三者として、事態を整理することが重要だと指摘する。
重大な結果を招いた背景はなにか。どういう指導がまずかったのか。防ぐ手立てはあったのか。「同一化しなくとも、学校の先生ならどう考えるかを先回りして、合理的な解決法を探るのが、私の役割だと思っています」。こうして長く外部の介入がなかった教育界ともつながりを深め、学会にも所属し論文を書くほどまで入り込んでいる。文部科学省では、全国に配置され始めたスクールロイヤーのアドバイザーとして活躍する。
おにざわ法律事務所のプロフィールには、こうある。「ぜひ私を皆様の悩みや課題を解決する『仲間』に加えていただければ幸いです」。人と人の間に入り、仲をつなぐ。その輪はどんどん広がっている。
【プロフィール】 おにざわ・ひでまさ 東京大学法学部卒、同法科大学院修了。在学中からNPOに携わり、司法修習を1年遅らせ教育系NPO職員として勤務した。TMI総合法律事務所を経て、2017年に独立。現在はスクールロイヤーやNPO法務を中心に活動。NPOを支援する弁護士団体「BLP-Network」の創設者・現代表。
