あまりにも短絡的に凶悪犯罪に手を染める少年たち(写真はイメージです)

写真拡大

 第1回「8+3=10」と答えた少年たちは「闇バイト」に応募した…いとも簡単に“個人情報”をトクリュウに送ってしまう“実行役”と「境界知能」「発達障害」の関係】からの続き──。なぜ闇バイトに応募する人間が跡を絶たず、凶暴・凶悪な犯罪に関与してしまうのか、疑問に感じる人も少なくないだろう。どう考えても「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と関わりを持った時点で、人生を棒に振るのは明らかだからだ。(全2回の第2回)

 ***

【漫画】非行を犯した少年少女たちが見ている“歪んだ世界”とは――。『ケーキの切れない非行少年たち』のコミカライズ版を試し読み

 担当記者は「闇バイトの問題に草の根で対策活動を行っているNPOや地方議員などの一部は、現場の実情をインターネットで発信しています。その記事を読むと、非常に興味深い記述が少なくありません」と言う。

あまりにも短絡的に凶悪犯罪に手を染める少年たち(写真はイメージです)

闇バイトに詳しい専門家が背景の一つとして口を揃えるのが『境界知能』と『発達障害』の問題です。IQテストでは70未満が『知的障害』ですが、『境界知能』は75から80程度を指します。『発達障害』は主に『ADHD(注意欠如多動症)』と『ASD(自閉スペクトラム症)』を包括した概念で、対人コミュニケーションが苦手だったり、衝動性を抑えられなかったり、というケースが当てはまります。もちろん本質的には犯罪行為と何の関係もなく、適切なケアを受ければ普通に日常生活を送ることができます。ところが親の無理解や家庭の貧困などが原因で放置されると、状況は変わってきます」

 境界知能も発達障害も就学や就労に困難を生じさせることがある。適切なケアを受けられず、いきなり社会に放り出されると、重い“ハンディキャップ”に押し潰されるのは当然だろう。バイトで働くことも難しいとなると生活苦に直面する。対人関係が苦手な場合は孤立を招き、周囲の理解や援助を得にくい。

トクリュウが狙う弱者

「苦しい状況から何とか抜け出そうとスマホでインターネットにアクセスすると、闇バイトの募集が表示されるわけです。彼らは認知プロセスに問題を抱えているケースも少なくないため、異常な高報酬を謳っていても怪しむことがなく、一も二もなく飛びついてしまうことも珍しくありません。障害者支援を行う団体の関係者は、『闇バイトの応募者についてトクリュウ側が個人情報をチェックしていると、SNSで応募者のプロフィール欄に「発達障害で悩んでいます」と書いてあるのを見つけた。するとトクリュウは「理想的な応募者だ」と喜ぶ』という興味深い記事をネット上に公開しており、社会に警鐘を鳴らしています」(同・記者)

 こうした社会的弱者を、トクリュウは狙い撃ちにしている。闇バイトの“リクルーター”が取材に応じ、率直に語った驚くべき内情が記されているのが『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(太田出版:藤原良著)だ。

 著者の藤原氏は長年、反社会的勢力の取材を積み重ね、月刊誌などで多数の記事を執筆してきた。著作も『山口組対山口組』、『三つの山口組』、『M資金』(いずれも太田出版)など、いわゆる“アウトロー”のリアルな生態を描き出してきた。

「“バカ”が来てくれたほうがいい」

 藤原氏の取材に応じた“リクルーター”は「普通の人なら、そもそも闇バイトに応募しないし、個人情報を自分たちに送ることもない」と断言する。

 ならば「闇バイトに応募し、合格と太鼓判を押される」人間とは、どんなタイプなのか。“リクルーター”は《社会経験が乏しくて、政治や法律に関心もなくて、働く気はあるけれど来月の給料日まで待てなくて、今日にでもカネが必要な奴》と説明する。

 闇バイトは日当5万円、日当10万円を謳う。普通の社会経験がある人なら「そんな話は嘘に決まっている」と一蹴するだろう。ところが社会経験に乏しく、ニュースにも全く興味がないという層は飛びついてしまうのだ。

 個人情報を何の疑いもなく送ってしまうのは《法律の知識が常識レベル以下》だからだ。そして“リクルーター”は藤原氏に身も蓋もない事実を指摘する。

「まともな社会人に来られちゃうと、どっかのタイミングで警察に行かれるだけですから、そんなリスクはこっちも負いたくないですから、なるべく“バカ”が来てくれたほうがいいんですよ」

 藤原氏に取材を依頼すると、「可能な限り関係者取材を積み重ねましたが、闇バイトの応募者全員を100%とすると、知能境界や発達障害の問題を抱えている人々は半分の50%というのが偽らざる実感です」と言う。

不思議な金銭欲

「応募者全員に共通する特徴として、金銭に対する異常な執着を感じました。かつて『若者のクルマ離れ』、『断捨離』、『ミニマリスト』など、消費欲や購買欲が減少した人々が話題を集めましたが、闇バイトの応募者は物欲と金銭欲が非常に強いのです。ある意味、時代に逆行していると言えるかもしれません。そして私が非常に気になったのは、なぜ物欲が強く、金銭に執着するのか、取材を重ねても全く分からなかった点です」

 昭和の時代は「いい服を着たい、いいクルマに乗りたい」と願う若者は多かった。彼らは「カネを儲けるためにはどうしたらいいか」を考え、それを実行した。

「ところが闇バイトの応募者は、まずカネが欲しいという欲望があり、その次はいきなり『ビッグになりたい』という夢に飛んでしまうのです。おまけに話を聞いても、『ビッグ』の具体的なイメージを持っていません。つまり『ビッグになるためには何をすべきか』ということも考えていないのです。ただ単にモノが欲しい、カネが欲しい、ビッグになりたい、という欲望だけを抱いているのです」

 金銭に執着するのは闇バイトの応募者だけでなく、トクリュウの幹部にも同じ傾向が認められるという。

昭和の暴走族との違い

「要するにトクリュウというグループには、理解不能な金銭欲だけで結ばれた薄っぺらい人間関係しか存在しないのです。過去を美化するわけではありませんが、昭和の暴走族を例に挙げてみましょう。市井の人々にとっては迷惑この上ない存在だったのは間違いありません。とはいえ彼らは強固な上下関係を持ち、彼らなりの礼儀作法もあり、ある意味では体育会に似たところもある集団でした。組織への帰属意識も強く『友情』や『団結』という言葉が使われることも珍しくなかったのです。昭和の暴走族が持っていた濃密な人間関係と比較すると、トクリュウの特異性や現代社会の抱える問題点が浮かび上がってくるのではないでしょうか」(同・藤原氏)

 トクリュウを潰すのは、少なくとも理論的には決して難しいことではない。藤原氏は「闇バイトの応募者をゼロにすれば簡単です」と言う。

「そのために何ができるかと言えば、教育の充実です。私は小学生の段階から『闇バイトとトクリュウの危険性』、『闇バイトに応募しないための心構え』、『インターネットを安全に利用する方法』について授業を行う必要があると考えています。その際、重要なポイントは警察関係者が講師にならないことです。闇バイトに応募した実行犯は紛れもない“加害者”ですが、一方でトクリュウにカモにされた“被害者”という側面もあるからです」(同・藤原氏)

教育の必要性

 もちろん警察にも優秀な人々は多い。しかし逮捕権を行使する彼らは、どうしても“加害者”の側面に関心や知見が集中してしまう。

闇バイトの応募者も“被害者”なのだという事実に豊富な知見を持ち、なおかつ医療的な側面からもアドバイスできる人が理想的でしょう。となると少年犯罪に詳しい心理カウンセラー、精神科医といった人々が候補に浮かびます。特に少年院における更生の実情を知っている人が理想的です。境界知能や発達障害の特性を持っている子どもたちにこそ聞いてほしい授業ですから、彼らでも理解できるよう配慮する必要もあると思います。トクリュウや闇バイトも実情に精通している専門家がリアルな授業を行うことで、闇バイトの応募者がゼロになるという未来予測は、決して夢物語ではないはずです」(同・藤原氏)

 第1回【「8+3=10」と答えた少年たちは「闇バイト」に応募した…いとも簡単に“個人情報”をトクリュウに送ってしまう“実行役”と「境界知能」「発達障害」の関係】では、民放キー局が少年院の実態をレポートしており、そこから浮かび上がる闇バイトの応募者と境界知能、発達障害の極めて密接な関係について詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部