「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「疲れる」、「疲労」「疲弊」の「疲」。猛暑が続いた今年の夏。なんとか乗り切った、と感じていても、思わぬ疲れが出る頃です。



「疲」という漢字は、やまいだれに「皮」と書きます。

やまいだれ(疒)は象形文字。

病をかかえて元気がない人が、脚のついた寝台によりかかって座る様子を描いた部首です。

その下の「皮」という字の成り立ちについては諸説あります。

たとえば、獣の皮を手(又)で引き剥がし、なめした様子に見立てる説や、その皮を引き寄せてかぶる様子とする説があります。

病をかかえて弱った人が獣の皮を身につけて「疲れた」様子を隠したのか、または、獣の力を身につけて回復を試みたのか。

「皮」という字は足をひきずって歩き、からだが傾く様子を表すという説もあり、この場合は疲れた人の様子をそのまま表そうとしたことが推測できます。

「疲れる」という言葉の語源を調べると、「つかれる」の「つく」とは「力尽きる」「燃え尽きる」の「尽く」。

あるいは、もののけなどが「憑く」ことで「疲れる」。

さらに「つかれる」の「つ」が唾(つばき)、つまり唾液のことを意味していて、唾が枯れた状態になると「疲れる」という考えもあったようです。

ではここで、もう一度「疲」という字を感じてみてください。

独自の漢字学を究めた白川静博士は、「疲」という字の音である「ヘイ」に注目します。

「病」という字の音である「ヘイ」や、「疲弊する」の「弊(ヘイ)」などとともに、この「ヘイ」は乱れた荒い呼吸の音であり、人の疲れた様子と関係があるのではないか、と指摘しているのです。

古語の「つく」とは息を「吐く」と書いて「呼吸をする」という意味をもちますが、これもまた、息が「枯れ」て「疲れた」ということかもしれません。

予想以上の自然災害に息をのみ、照りつける太陽を見上げて短いため息をつき、湿り気を含んだ重たい空気に息を止めたあの日。

この夏の私たちは、心身をゆるめる深い呼吸を忘れていました。

浅く乱れた呼吸を続けて、疲れてしまった自分に気づいたら、何よりもまず自分自身をいたわって、ゆっくり息を整える。

それこそが、最も優先すべき今年の夏の宿題です。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『新選漢和辞典 第八版』(小林信明/編著 小学館)

『旺文社古語辞典 第10版 増補版』(松村明、山口明穂、和田利政/編 旺文社)

『不明解日本語辞典』(高橋秀実/著 新潮文庫)

9月1日(土)の放送では「棚」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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聴取期限 2018年9月2日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/