【現役デザイナーの眼:フェラーリ・ルーチェ】初のEVは賛否両論 合理的に成立も希薄なパッションや官能性
単純に『カッコいい、悪い』ではない
フェラーリ初のEVとして注目を集める『フェラーリ・ルーチェ』。デザインを手がけたのは、元アップルのジョニー・アイヴとマーク・ニューソンによるユニット『LoveFrom』であることでも話題となりました。
【画像】初のEVは賛否両論!ついにデビューを果たした『フェラーリ・ルーチェ』 全50枚
先行公開されていたインテリアは、従来のクルマにはないミニマルかつ高品質な世界観が高く評価されていましたが、今回ついにエクステリアも公開。しかし、そのデザインには賛否が大きく分かれています。

フェラーリ初のEVとして注目を集める『フェラーリ・ルーチェ』。 フェラーリ
その理由は、単純な『カッコいい、カッコ悪い』という話だけでなく、フェラーリというブランドに対する人々の期待値が大きく関係しているからでしょう。
快適性と空力を優先した新しいパッケージ
フェラーリ・ルーチェは、全長5026mm、全幅1999mm、全高1544mmという大型なボディを持っています。特に特徴的なのは1544mmという全高で、フェラーリとしてはSUVであるプロサングエ(1589mm)に次いで、かなり背の高いパッケージなんですね。
サイドビューを見ると、フロントタイヤ直上からキャビンが始まり、大きな弧を描きながらリアへと流れていくややワンモーション的なフォルムが分かります。EVらしい長めのホイールベース(2961mm)と組み合わさり、フェラーリとしては異例の長いキャビン空間を形成。

長いキャビンを持つサイドシルエット。グリル部からフロントガラスまで綺麗に繋がった造形は興味深いですが、Aピラーに沿わせたワイパーは風切り音など不利な面が出てくると推測します。 フェラーリ
つまりルーチェは、従来のスポーツカー的な『低くコンパクトなキャビン』ではなく、『快適な5シーターサルーンとしての居住性』を優先したクルマなのです。
さらに特徴的なのが空力処理です。フロントのグリル部分から空気が貫通する構造となっており、そのままフロントガラスへとスムーズに繋がっています。また、リアも同様にボディがフローティングする構成となっており、空気を積極的に制御しようとする意図が見て取れます。
これはまさにEV時代らしいデザインであり、『形態は機能に従う』というプロダクトデザイン的な思想が強く感じられます。各エレメント単体を見ると非常に先進的で、デザインテーマも分かりやすい。少なくとも、フェラーリがこれまでとは違う方向へ踏み出そうとしていることは伝わってくるのです。
『スポーツカー』を名乗る違和感
一方で多くの人が違和感を覚えているのも事実ですが、その最大の理由は『表現したかったデザイン』と『与えられたパッケージ』との不整合があるように思えます。
フェラーリ自身がこのクルマを『スポーツカー』と名乗っているので、それを踏まえてお話ししますが、パッケージとしては完全にサルーン的なものなんです。

リアビューは箱的なシルエットで、スポーツカーらしいスタンスを感じません。リアコンビの位置にも違和感が。 フェラーリ
カーデザインにおいて最も難しいのは、決められたパッケージの中で理想のイメージを成立させることだと思います。特にルーチェのように全高1500mmをゆうに超えるパッケージをスポーツカー的に見せるのは極めて難易度が高い作業ですが、実際カーデザイナーはそのような仕事を求められることが多いです。
その点においてルーチェのデザインは低く見せるような工夫が少なく、ただシンプルさを求めたように思います。また、グリルからフロントガラスまでシームレスに繋がったデザインも逆効果で、更なるキャビンの大きさ感に繋がっている印象があります。
重要なのはスタンス
そして何と言っても重要なのは『スタンス』です。タイヤの位置や大きさ、フェンダーやオーバーハングの処理、キャビンがコンパクトであることなどの要素が揃うことで、スポーツカーらしい踏ん張り感が表現できます。
ルーチェは前述の通り、スポーツカーとしてはキャビンがとても巨大です。さらにタイヤ周辺の造形も重く、特にリアフェンダーまわりはボリュームが大きすぎるため、315/30R24という巨大タイヤを履いているにも関わらず効果的に見えていません。リア正面から見るとそれが顕著で、真四角のシルエットはスポーツカーらしいスタンスではないですね。

ルーチェは、スポーツカーとしてはキャビンがとても巨大です。 フェラーリ
ですのでルーチェは純粋なスポーツカーには見えず、SUVほどの力強さもなく、サルーンの上質感とも少し違う。そのため、『これは何者なのか?』が直感的に分かりにくいクルマになっています。
もしこれが、最近開発中止となった『ホンダ0サルーン』のような、もっと低いパッケージで成立していたなら、説得力は大きく変わっていたかもしれません。
フェラーリが背負う宿命
ルーチェの評価が難しい理由は、単にデザインだけでなく『フェラーリであること』が、さらにハードルを上げています。
フェラーリは、単なる高級スポーツカーブランドではありません。購入層以外の人々からも注目され、憧れの対象として崇拝される存在です。だからこそ、フェラーリのデザインには常に特別感や高揚感が求められます。

とことん理性的に見えるデザインで、これを「フェラーリではない」と言う方の気持ちもよくわかります。数十年後にどう見えるか確認したいところです。 フェラーリ
しかしルーチェは、非常に理性的。空力や機能を追求し、EVとして合理的に成立している一方で、『パッション』や『官能性』がやや希薄に見えてしまう。工業製品として完成度を追求した、家電的なデザインのようにも感じられます。
ただ、かつてフェラーリが4シーターミドシップという特殊なパッケージを持つ『モンディアル』を世に送り出したように、ルーチェもまた、既存のフェラーリ像を崩そうとしているのかもしれません。
今の物差しで解説いたしましたが、現在は違和感を持たれているこのデザインも数十年後には『時代を先取りしていた』と再評価される可能性もあるのです。
