やなせたかしさんと元秘書の越尾正子さん(著者提供)

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2025年下半期(7月〜12月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(公開日:2025年7月6日)********現在放送中の、25年春のNHK連続テレビ小説『あんぱん』。モデルとなったのは、長年子どもたちに愛されるキャラクター「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんと、妻の暢さん夫妻です。今回は、そんなやなせ夫妻に秘書として20年寄り添い、現在は株式会社やなせスタジオ代表取締役を務める越尾正子さんの著書『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』から、一部を抜粋してお届けします。

【書影】20年寄り添った秘書がはじめて語る、やなせ夫妻の暮らし、生活、仕事に思い出。越尾正子『やなせたかし先生のしっぽ:やなせ夫妻のとっておき話』

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うちの人

漫画家やなせたかしの会社は、東京・新宿区内のマンション内にあった。各階にアトリエ、資料室や倉庫といった用途別に部屋があり、やなせ先生と奥さんのリビングがある自宅の一角が私の仕事場だった。自宅にはお茶室もあった。そこへ毎日通うことになった。

やなせ先生と奥さんのほか、先生のアシスタント二人と私の合わせて五人というアットホームな会社だった。以前は奥さんのお母さんも一緒に暮らしていたというが、すでに施設に入所していた。私が入社した時、先生は73歳、奥さんは74歳になっていた。

『アンパンマン』はすでにテレビ放映を機に大ブレイクしていた。

お茶のお稽古で週1回会っていた時にはなかったが、事務所で働き出すと、奥さんはよく「うちの人はね」と言ってやなせ先生の話をするようになった。

先生の金銭感覚

ある時、先生の金銭感覚について、私に楽しそうにこう言った。

「うちの人はね、学生時代から、翌月の生活ができるぐらいのお金を必ず手元に残していたの。私は反対に、明日(給料日)はお金が入るからと買い物をしていたわ」

別の機会に、やなせ先生自身からも全く同じ話を聞かされた。

「オレは気が小さいだろう、翌月の生活費分ぐらいは必ず残していた」

仕送りの使い方

「仕送りはいくらくらいだったのですか?」

と聞いてみると、


(写真提供:Photo AC)

「毎月、二十円送ってもらっていた。だから十円使って残りの十円は残していた。カミさんはオレと逆で、明日お金が入るとなると、今あるお金を全部使ってご馳走買ってきたりするの」

と先生は答えた。そして、

「オレは気が小さいから、金儲けはできない。バブルの頃、荒木町の土地を一億で買わないかと不動産会社が言ってきた。一億使ってしまうと、手元に少ししかお金が残らないのでその話を断った。この時、借金してでもこの土地を買っておけば、その後すごく値上がりして大金持ちになれたのだけど、オレはそれができないんだ」

そう言って笑っていた。

正反対

堅実でつつましい先生の金銭感覚に対し、それとは正反対の奥さんの豪快な金銭感覚が面白くて興味がわくとともに、

「互いの性格を分かり合い、受け入れ、補い合っているいい夫婦だなあ」

と、親しみがわいた。

※本稿は、『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(小学館)の一部を再編集したものです。