いつまでも体を若々しく保つためには、どうすればいいのか。東京科学大学病院総合診療科の石田岳史教授は「和食やサラダなどの一見ヘルシーな料理でも、血管を老化させる調味料がふんだんに入っている」と指摘する。老けない食べ方を、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第1回/全4回)
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■中年を襲う「同時多発の体調不良」に備えよ

50歳を超えると、腰が痛い、目がぼんやりとしか見えない、夜、眠れない、喉が痛い、硬いものが食べられないなど、体内同時多発テロとでもいうべき体調不良が襲ってくる。また、高齢でなくとも、若い時から酒池肉林的接待を続けてきた働きすぎのビジネスパーソンは40代でも身体と心に変調をきたしているのではないか。

同時多発的な体調不良と闘うためには誰に、どの診療科の医師に頼ればいいのか。

答えは総合診療科の医師に頼ることだ。総合診療とは2018年度に確立した19番目の専門医のこと。通常、病院は内科、外科、眼科といった専門の診療科に分かれている。ひとつの症状であればそれぞれの診療科へ行けばいい。だが、複合要因の場合はどこへ行ったらいいのかわからなくて困ってしまう。総合診療科はすべての大病院にあるとは言いがたいが、複合要因の患者が訪ねるべき診療科だ。総合診療科はさまざまな身体と心の問題に対して、患者と家族に適切な医療を提供してくれる、はずだ。

■人体を老化させている「正体」

東京科学大教授の石田岳史先生は総合診療医の草分けだ。石田先生は総合診療医として診療を続け、同時に老化、認知症を防ぐための最前線で闘い続けている。1993年、自治医大を卒業し、へき地の医療に従事した後、循環器内科の医師として自治医大、神戸大学、さいたま市民医療センターと最前線で仕事をしてきた。

神戸大学時代、地域の診療に従事していた頃、「赤ひげ先生」と呼ばれた。山本周五郎原作、黒澤明が監督した映画『赤ひげ』(1965年)の主人公、新出(にいで)去定(きょじょう)のような庶民を助けて元気づける診療、投薬をしたからだ。

石田先生が語る第1回は食生活で気をつけることについてである。

撮影=西田香織
インタビューに答える東京科学大学病院総合診療科の石田岳史教授 - 撮影=西田香織

――とにかく体の老化を防ぎたいです。食生活から変えたいと思っているのですが、どうすればいいでしょうか。

老化とは何かといえば、血管が老いていくことなんです。ウィリアム・オスラー(1849年〜1919年)というカナダ人の内科医がいました。現代医学の父と呼ばれる医師ですが、彼は「人は血管とともに老いていく」と言ったのです。今でも金言の教えとされていますが、高血圧が進むと血管は早く老化します。そして、血管の老化が進むと、頭のなかや心臓や腎臓の血流が悪くなり、臓器障害の元になります。ですから、極力、血管が老化しないような食生活を送ることが大事になってくる。

■塩よりも醤油よりも怖い“老化調味料”とは

――なるほど。では、血管が老化する食べ物を摂らないことですね。

そうです。まず塩からいもの、ハム、ソーセージ、サラミといった加工肉はやめておく。アジの干物、塩鮭といった塩分の多いおかず、酒のつまみも血管によくない。醤油、味噌もそうですね。味噌は発酵食品だから体にいいとされていますけれど、塩分が多い。塩辛なんか酒飲みにはたまらない。でも、ほんの少量にしておきましょう。老化します。

そう考えると日本料理っていうのは健康食品にはなりません。他の料理よりも塩分が多いからです。地中海料理、フランス料理よりもかなり多い。日本料理は脂質は少ないかもしれませんが、塩分は確実に多い。塩分もそうですが、砂糖もよくない。

北大路魯山人という芸術家で美食家の人がいました。魯山人は日本料理店も経営していたくらい和食に詳しい専門家でした。彼は日本料理の本質をよくわかっていて、すき焼きには絶対に砂糖を入れなかった。

和食に砂糖を入れるとおいしく感じてしまう。しかし、安易に砂糖を使ったら何でもおいしく感じるから、それではいけない。魯山人は「砂糖を大量に摂ったら病気になるぞ」といったことまで書いています。そこで、彼はすき焼きには砂糖を入れず、塩分だけで食べていたんです。まあ、塩分も摂りすぎはよくないのですが、砂糖はもっと悪い、砂糖はカロリーが多く肥満しやすいし、また、糖尿病にもなりやすくなる。

■日本のパンがおいしくて、ドイツのパンがまずい理由

――では、お菓子、スイーツも食べないほうがいいのですね。ケーキ、ビスケット、アイスクリーム、大福も……。

中年以降になったら、砂糖が多い菓子はやめておいたほうがいい。そして同じ菓子でも和菓子と洋菓子だったら洋菓子のほうがよりダメです。アイスクリーム、生クリーム、バタークリームのケーキ、ビスケットとかクッキーもよくない。

そして、実はパンもよくないんです。なぜなら日本のパンは大量の塩と砂糖を含んでいるからです。僕は料理教室に行ったことがあるんですけれど、「こんなにたくさん入れるのか」っていうくらい、塩と砂糖が入っていた。加えて、パンにはバターもしくはマーガリンも入っています。

昔、ドイツに留学していたんですけれど、ドイツのパンってまずいんですよ。日本のパンはめっちゃおいしいのに、なんでドイツの黒パン、ライ麦パンはこんなにまずいのかと思ったくらい。でも、日本のパンのおいしさっていうのは砂糖とバターをすごく使うから。バターでない場合はマーガリンですけれど、これはトランス脂肪酸です。トランス脂肪酸は血中の悪玉コレステロールを増やし、血管を老化させる原因のひとつ。摂取しないほうがいいに越したことはない。

■ドレッシングは野菜を台無しにする

――では、何を食べればいいんでしょうか。甘いもの、パン類がダメなら、食べられるのはまずい黒パン、ライ麦パンと野菜という食事になってしまいます。

パンについてはまずいものを食べているほうがいいんです。ドイツ人に限らず、フランス人でも黒パン、ライ麦パンみたいな色のついているパンを食べています。精製してなくて、ボソボソするパンだけれど、食事と一緒に食べたらちょうどいいんですよ。シチューには甘くておいしい日本の食パンよりも、ボソボソしてるパンのほうが合うんです。エスカルゴとかアヒージョみたいな料理も黒パン、ライ麦パンが合う。日本のパンはお菓子です。ドイツのパンはあくまでも食事に向くパンなんです。

野菜もどんどん食べてください。ただ、砂糖を入れて甘く炊いた煮物は糖分の塊です。じゃがいもの煮っころがしもそうですね。では、サラダがいいのかといえば、市販のドレッシングをかけたサラダはダメ。ドレッシングは砂糖と油でできている。野菜を食べて健康になった気になっているけれど、市販のドレッシングをかけたら元も子もない。

撮影=西田香織
石田教授が冷蔵庫に常備していないものはドレッシング。サラダを食べて健康になったつもりが、糖分と油を吸収してしまうという - 撮影=西田香織

■どれかひとつやめるとしたら? 医師の答え

イタリア人ってオリーブオイルとバルサミコ酢をかけて、塩コショウで野菜を食べているでしょう。あれを見習うことです。僕の家の冷蔵庫にはドレッシングは置いてありません。サラダを食べる時は酢、オリーブオイルと胡椒だけ。塩も使いません。地中海式の食べ方がいいと言ってワインのことを話す人がいるけれど、本当はワインではなく、砂糖と塩分を摂らないところを真似るべきなんです。ワインをがぶがぶ飲むのが地中海式ではありません。

料理に胡椒のような香辛料とハーブ類は重要。これを使えば塩分、砂糖がなくても料理に味を付けることができる。そういう意味ではインドのガラムマサラはとてもいい。老化を防ぐ食品です。

結局、最大の問題は白米をなるべく食べないようにすることなんです。うちは玄米。玄米しかない。外国人は「ブラウンの炭水化物を食え」と言うのですが、それは玄米、胚芽米、黒パン、ライ麦パンみたいなブラウンの炭水化物のことです。

今まで話してきたものを全部やめるのは大変です。けれど、どれかひとつやめろと言ったら、それはラーメン。なかでも豚骨ラーメンはよくない。ラーメンにはスープに脂が入っていて、塩も砂糖も入っている。「汁を残せばいいんじゃないか」と言う人がいるけれど、汁だけでなく麺もよくない。麺にかんすいが入っているでしょう。あれがダメなんですよ。

麺類で摂っていいのは田舎そば。挽きぐるみといって外側の食物繊維まで混ぜ込んだそばを食べること。さらしなより田舎そばです。

■動脈硬化、心筋梗塞、認知症リスクを高める老化物質

ラーメンの場合、小麦粉にかんすいを加えるとグルテンに作用し、コシや滑らかさが増します。一方で、その中にAGEという老化物質が生じてしまいます。AGEとはアドバンスド・グリケーション・エンドプロダクトのことで、日本語では最終糖化産物と訳します。糖とタンパク質が反応して生成される化合物で、老化やさまざまな疾患の原因となる物質です。

AGEは体内で自然に生成されるだけでなく、加熱調理された食品にも多く含まれていて、焼き肉やトーストの焦げ目部分はAGEの一例ですね。AGEが体内に多量に蓄積されると老化を促進させ、皮膚のしみやしわ、たるみの原因となる。血管を老化させて動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高める。糖尿病患者はさらにAGEが生成されやすく、合併症のリスクが増加します。その他、認知症のリスクが高まるし、骨に蓄積されると骨密度が低下します。いいことは何もないのがAGEです。

つまり、ラーメンはリスクが高い食品です。医者の友だちで、実家がラーメン屋をやっている人がいるのですが、そいつはラーメンがめちゃめちゃ好き。

「ラーメンってのは一生で食える数が決まってるから、ほんとにおいしいラーメンしか食わない」

そう言ってます。僕らも同じように考えています。ラーメンでも白米でもごくたまには食べていい。ただし、めっちゃおいしいラーメン、めっちゃおいしい白米、めっちゃおいしいスイーツだけにしています。

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石田 岳史(いしだ・たけし)
東京科学大学病院総合診療科教授
1968年生まれ。1993年自治医科大学卒業後、2006年に神戸大学大学院医学研究科内科学講座へき地医療学准教授。2009年、さいたま市民医療センター内科を立ち上げ、2016年に副院長に就任。現在、東京科学大学病院総合診療科に所属。総合診療専門医、総合内科専門医、循環器専門医、心臓リハビリテーション認定医(日本心臓リハビリテーション学会理事)としてプライマリ・ケアから急性期医療まで幅広く対応している。
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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。ビジネスインサイダーにて「一生に一度は見たい東京美術案内」を連載中。
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(東京科学大学病院総合診療科教授 石田 岳史、ノンフィクション作家 野地 秩嘉)