根津甚八 妻・仁香さんが明かす「最後のロケ」に込めた思い
私は、根津が「もう、(映画は)いいよ」と、断るとばかり思っていたんですね。すでに引退宣言をしていましたから……。すると、根津が「やる」「どうしてもやる」と。「これが最後だ」と言いました。
映画の試写は、家族そろって見ました。私の右に根津、左に息子が座りましたが、二人とも黙ったまま、最後まで何も言わなくて。いつもそう。
息子は今年、医学部に進みました。根津の父や兄が歯科医で、私の兄も医者なので、その影響かもしれません。物心ついたころから、父親が病気と闘う姿を見ていますから。父親のために、医学を志してくれたのなら、うれしいですけどね。でも医学部に進んだということは、俳優の道に進むことは考えていないということでしょう。
根津は、やっぱり息子にも俳優になってほしいんだと思うんですよ。食事のときなど、「甲斐太には、何になってほしい?」「俳優がいいかな?」なんて会話を何度かしましたし、最近もありましたから。
根津は俳優という仕事の魅力を知っている。自分が感じた魅力、喜びを子供にも感じてほしいという気持ちがあるんだと思います。根津がこの映画出演を決めたのは、息子に自分自身の姿を見せたい気持ちもあったかもしれませんね。
試写を見て、やっぱり根津は俳優でいたかったんだろうなとも思いました。彼のなかでは、すごく葛藤があったと思うんです。でも病を患い、俳優を続けられない自分を、彼はついに受け入れたんだと思います、たぶん……。
それでも最後の最後に、大好きな監督の映画に出られて、今では本当に良かったと思います。根津も、「もう、寂しさはない」と言っていました。私もないです。
最後は納得して、スクリーンから降りることができたのかな……と思っています――。

