※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

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「映画化のきっかけは帰省した際に、両親から昔の思い出話を聞いたことです。当時の台湾についてネットで調べたら、白色テロに関する史料が数多く出てきて。多少は知っているつもりでしたが、自分の想像を遥かに超えていましたね。激しく心を揺さぶられ、絶対にこれを伝えなければと。とくに衝撃を受けた出来事は、ふたつとも兄弟の話です。ひとつは、反体制派の疑いをかけられ処刑された兄の遺骨を20年以上、探し続けた弟の話。もうひとつは、自宅の台所の壁に隠し穴を掘って18年もの間、兄を匿い続けた弟の話です。後者は、さとうきび畑に阿月の兄が隠れるエピソードとして、劇中に活かしています」

 犯罪が横行した、戒厳令下の台北の猥雑な空気観も再現。

「登場人物が善人ばかりじゃなく、悪人やチンピラも存在することが社会そのものの生命力となっている。様々な犯罪行為も含めて、激動の時代を余すことなく描きたいと思いました」

 阿月役は当て書きだという。

「『アメリカから来た少女』を観たら目の輝きや表情がすばらしくて。ぜひケイトリンにと思いながら書いた役ですが、じつはアメリカ育ちで台湾語が話せなかった(苦笑)。けれど教師をつけ猛勉強してもらったら、2、3カ月後には自分よりも巧くなっていました。しかも70年前の台湾など知る由もないはずなのに、当時の雰囲気や話し方など、あらゆる演技が天才的でしたね」

『1秒先の彼女』のリウ・グァンティンの存在が、エンターテインメント性を爆上げ。

「本当は彼を公道役に起用したいほどでしたが、中国出身の退役軍人にはみえず断念しました。ただどうしても彼を撮りたいから、特別な役を用意して。彼が登場するたびに観客も大喜びしてくれるので、出演してもらえてよかったです。彼は自分が発掘し育てた役者でもあり別格。今や台湾有数の人気スターですね」

取材・文:柴田メグミ

チェン・ユーシュン●1962年生まれ、台北出身。TVドラマシリーズの制作に携わったのち、95年に『熱帯魚』で長編監督デビュー。ロカルノ国際映画祭にて青豹賞を受賞する。続く『ラブ ゴーゴー』でもユーモアと温かさを独自のバランスでポップに描き、若い世代から圧倒的支持を獲得した。その他の監督作に『祝宴!シェフ』『健忘村』『1秒先の彼女』など。



『霧のごとく』

監督・脚本:チェン・ユーシュン

出演:ケイトリン・ファン、ウィル・オー、9m88、ツェン・ジンホア

2025年台湾 134分

配給:JAIHO/Stranger 5月8日よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

●1950年代、戒厳令下の台湾。嘉義に暮らす少女・阿月(アグエー)は、反政府分子として処刑された兄の遺体を探しに台北へ。同じく時代の犠牲となった元軍人の公道(ゴンダオ)に出会い、未来へと強く歩みだしてゆく……。