わずかな経費で30億の宣伝効果! 東大・早大にできず近畿大学が可能な理由
■“大学が呼んではいけない人”で100万アクセス
「東大以外に行く意味はない。でも近大はあってもいいかもしれない」
そう話したのは、元ライブドア社長の堀江貴史氏、通称ホリエモン。近畿大学の躍進ぶりをまとめた書籍の帯に寄せた言葉だ。東証1部上場のときにTシャツにジーンズ姿で現れたその人が、近畿大学の卒業式で祝辞を述べた。「大学なんかいらない」と豪語する人物であり、本来は大学が呼んではいけない人かもしれない。だが、そんな古い意識には縛られないのが近畿大学だ。
社会に巣立つ人間に必要なのは、キラキラ美化された未来に羽ばたこう! と夢を見る以上に、社会の荒波で生き残るためのノウハウや後押しの言葉である。スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学の卒業祝辞「ハングリーであれ、愚かであれ」は、歴史に残る名スピーチとなっている。ジョブズも大学には行ったものの、卒業しなかったことは有名だ。堀江さんは「未来を恐れず、過去に執着せず、今を生きろ」と語った。心に残るのは、むしろ破天荒でも社会にインパクトを与えた人の言葉なのかもしれない。
近畿大学広報部長の世耕さんたちは「15分のスピーチをお願いしました」という。その読みは見事にあたり、堀江さんのスピーチはYoutubeで再生回数100万を超えている。もちろん、その言葉は多数のメディアにとりあげられ、大学を否定する人間を卒業式に呼んだことも話題になった。
ポイントは「15分以内に」という注文にある。長すぎてはいい言葉が薄まってしまうということだけではない。祝辞をネットに生配信し、Youtubeにもアップし、その後はSNSで広がっていく……。だから絶対に“長すぎてはいけない”のだ。ここまでの計算が、より広く世の中に広げて宣伝効果を得るために大切になる。何かを仕掛けるときには「先の展開」まで考えるべきことが、あらためて感じられる例だろう。
さらに、モーニング娘。などのプロデュースでおなじみの、つんく♂さんには、近畿大学のOBとして入学式をプロデュースしてもらい、サプライズ登場で祝辞を述べてもらうことになる。前回、大阪梅田や東京銀座に店を出したときの広告費用換算は4億円ほどだったとお伝えした。今回はさらに予想を上回る、こんな金額がはじきだされることになる――。
■広告費用換算は30億円に!?
「全国ネットのワイドショーほかテレビ番組で映像が放映されました。中には20分を超える特集のような尺(放映の長さ)もあるなど想定以上でした」と世耕さん。
そもそも、モーニング娘。のプロデューサーが出身校の入学式を手掛け、祝辞を述べるという企画だけでも話題になるだろう。そんな矢先、つんく♂さんの咽頭がんの手術などの事態が生じてしまう……が、そこを逆手にとり、咽頭がんを発表してもらった。するとますますマスコミの興味を集め、きちんとした試算はでていないものの、世耕さんが「30億くらいの換算になるのではないか」というほどテレビで取り上げられた。
「何か大きなメリットがあるわけではありません。それでも、今まで近畿大学を知らなかった人たちに、結果的にリーチできたことは大変ありがたい」と世耕さんはいう。まずは人に知ってもらわないことには、いい学生も集まってこない。
だが、人に知ってもらうためには広告を打つなど経費がかかる。かけた経費以上の効果を生むために、マスコミやSNSの広がりを展開に組み込むことで、さらに効果を高められる。もちろん、つんく♂さんのギャラが発生しているだろうが、億という効果から考えるとかなりの費用対効果だ。これも、“投資のあるべき姿”のひとつだろう。
こうして旧態依然としたアカデミックという名の池に、新しい発想という大きな石を投げ込んでは、しぶきを放ち波紋を呼ぶ。古い慣習を破りタブーに切りこむことはそうたやすくないが、常に一石を投じるだけの価値は十分に得られているようだ。
そして次の一石は、教科書のアマゾンでの販売だ。その波紋として、日本では敬遠されがちな「学生のクレジットカード保持」を推奨する流れになっていく。
■東大には不可能? アマゾンで教科書販売
日本では書籍の値引きはできない仕組みながら、大学内では特定の機関が1割引きで販売する特権を有している。そのため、教科書を求めて学生が殺到し、購入するだけでも大変な騒ぎになる。
「教科書代は1人年間5万円ほどと言われている。近大には3万人いるので、年間15億円もの売上になる。それをアマゾンで買えるようにします。ネットのリテラシーも高まり、学生もポイントバックを受けられます。他の大学では難しく、近畿大学ならではです。」
従来、多くの大学では一部の機関が独占的に教科書の販売を担ってきただけに、東大や早大などの学校でも口を挟みにくい部分である。実際、早大は一度アマゾンとの提携はしたものの、さまざまな障害で断念した経緯もあるという。今度はそこに切り込んだわけだ。
ところが、また新たな問題点が浮かびあがる。それは、学生のクレジットカード所有率が低いこと。アマゾンでポイントバックを受けるためには、クレジットカードでの支払いが条件となる。さらにカードが必要な理由を、世耕さんはこう語った。
「近大では海外でも学ぶことを勧めています。海外ではクレジットカードがないと生活に不便です」
海外の学生は、クレジットカード、バンクカード、少額小切手などを使い分ける。現金を持っていると危険だからだ。そのため、世耕さんたちはさまざまな仕組みをつくり、学生にカードを持たせようとしている。
「キャッシングなどの機能をはずして、学生らしい購入ができるような上限を持たせるなど工夫も考えます。少額のうちの失敗なら、むしろ人生の勉強になるかもしれません」
近畿大学は今年4月から「全員が1年間の海外留学をする」国際学部を設置し、会話は英語のみのカフェスペース「英語村」なども用意した。さらに海外の提携校を増やすなど、ITに加えて英語も大学の強みとする予定だ。だからこそ、学生にクレジットカードを持たせたいのである。ITリテラシーからアマゾン教科書購入、そこからクレジットカードと海外生活……。なるほど、すべてがつながっていく。
こうした流れの中で、「近畿大学」の“名前の問題”が浮上する。英語でKinkyは「変態」を意味してしまうのだ。マグロにバイオコークスなど世界の学会で発表することも多い近畿大学。「Kinky(変態)」大学と呼ばれた瞬間に失笑を買うこともあったとか。成果がすばらしいほどに「おいおい、この研究は“変態大学”のものか」と、名前とのギャップに爆笑すらされそうだ。世界に羽ばたくためには、これではあきまへん。
世耕さんをはじめとする近畿大学が、「変態大学」の英語名を変え、さらなる躍進を目指す次の一手は、まだまだ続く。
(上野陽子=文)

