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総務省「令和6年度における移住相談に関する調査結果(移住相談窓口等における相談受付件数等)(令和7年11月14日)」によると、2024年度の移住相談件数は約43.3万件で過去最多を更新しました。一方、移住後に「こんなはずじゃなかった」と後悔し、短期間で断念する人も少なくないようです。60代夫婦の事例をもとに、地方移住の盲点をみていきましょう。

65歳夫婦が「沖縄」を移住先に選んだワケ

都内の賃貸マンションで妻と暮らすコウジさん(仮名・65歳)。2人の子どもたちはすでに結婚しており、それぞれ別に家庭を持っています。

夫婦の年金収入はあわせて月23万円で、このほか現役時代に貯めた預貯金が4,000万円ほどあり、老後に大きな不安はありませんでした。

そんなコウジさん夫婦が沖縄への移住を決めたきっかけは、退職祝いで訪れた沖縄旅行だったといいます。

青い海とゆったり流れる時間、開放感のある街並み……。東京の人混みや慌ただしさとはまるで違う空気に、夫婦は強く惹かれました。

もちろん、実際に住むとなればまとまった費用がかかります。長距離の引っ越し代に加え、敷金・礼金、新居に合わせた家具・家電の購入なども必要となり、初期費用だけで300万円程度になる見込みでした。

それでも、4,000万円の貯蓄があることから「なんとかなるだろう」と判断。長年暮らした都内の賃貸を解約し、沖縄へ移住しました。

理想の暮らしに大満足

移住後の生活は、まさに理想そのものでした。

引っ越し先は、海にほど近い一軒家。移住を機に高級SUVも購入し、休日には海沿いをドライブ。景色のいいカフェやリゾートホテルでランチを楽しみます。

また、地域の花火大会などのイベントにも積極的に参加し、夜は夫婦で飲みに出かけることもしばしば。沖縄の開放的な雰囲気に後押しされるように外食やレジャーの頻度もしだいに増加し、現役時代にはそこまで使わなかったお金も、「せっかくの老後だから」と、あまり気にせず使うようになっていきました。

「沖縄に来て本当によかった」

当時のコウジさんは、心からそう感じていたそうです。

沖縄最高。でも…夫婦が「帰京」を決断したワケ

沖縄へ移住してから2年が経過。

コウジさんは次第に、不満を募らせるようになります。

その原因は、家族になかなか会えないこと。

移住当初は、息子家族や娘が遊びに来てくれましたが、実際に訪ねてきたのは1〜2回。「次はいつ来るんだ?」とコウジさんが訊ねると、子どもたちは苦い顔でこう言います。

「飛行機代も安くないし、休みもとらないとだし、そんな気軽には行けないよ」

そして、決定打はある日のビデオ通話です。

孫に会いたいコウジさんは、こう提案します。

「沖縄までのお金はおじいちゃんたちが出すから、遊びにおいで」

すると孫は、悪気なくこう返しました。

「え〜、おじいちゃんとおばあちゃんの家、遠いから行きたくない」

その無邪気な一言は、コウジさんの胸に深く刺さりました。

「家族に会えなくなるんだったら、沖縄移住なんてしなきゃよかった……」

この孫の一言をきっかけに、コウジさんは、東京へ戻ることを真剣に考え始めるように。

しかし、ここで現実的な問題が浮かび上がります。

沖縄移住後は、車の購入(700万円)や移住時の初期費用(300万円)に加えて、本州への旅費(約100万円)、年金だけでは足りない生活費の補填(※360万円月15万円×24ヵ月)なども重なり、資産は想像以上のペースで減少していたのです。

気が付けば、4,000万円あった貯蓄は、わずか2年で2,500万円近くまで減っていました。

地方移住は「失敗プラン」まで含めて検討する

近年、老後生活を都市圏から離れてゆったり過ごす地方移住が注目されています。一方、移住後に「思っていた生活と違った」と感じ、都会へUターンするケースも少なくありません。

ただ、そこで見落としがちなのが「出戻りにもまとまった費用がかかる」という点です。具体的には、次のような支出が発生します。

・引っ越し費用

・敷金・礼金

・仲介手数料

・火災保険

・その他(清掃代、家具・家電購入など)

コウジさん夫婦の場合、引っ越し費用や敷金・礼金、家具・家電の買い替えなどを含めると、東京へ戻る際にも300万円程度の費用がかかりそうです。その場合、資産は2,500万円から2,200万円まで減少することになります。さらに、都会に戻ったあとの生活費も考慮しなければなりません。

東京都が公表した資料によると、65歳以上世帯の消費支出の平均は月31万2,809円でした。

[図表]世帯主年齢階層別の10大費目別消費支出(全世帯) 出典:東京都総務局「家計収支の概況」

コウジさん夫婦の年金は月23万円のため、毎月約8万3,000円、年間約99万6,000円の赤字です。仮に90歳まで19年間老後生活が続いた場合、赤字額は約1,892万円にのぼります。ここに介護費用や医療費などの支出を含めると、資金が枯渇する可能性も否定できません。

したがって、地方移住を考える際は、「移住後の生活」だけでなく「戻る場合の費用」「戻った先の生活費」まで含めて検討することが大切です。

夫婦が最後に選んだ「老後の形」

その後、コウジさんは妻だけでなく、息子、娘と今後の生活について話し合いを重ね、「やっぱり、家族の近くで暮らしたい」と、移住後わずか2年ほどで出戻りを決意しました。

とはいえ、東京へ戻ったあとの生活は決して余裕のあるものではありません。現在の資産状況を考えると、できる限り固定費を抑える必要があります。そこでコウジさん夫婦は、もともと暮らしていた都心から少し離れたエリアの賃貸住宅に住むことに。広さも以前よりコンパクトです。さらに、沖縄で購入した車も手放すことにしました。

「沖縄はたしかに最高だった。残りのお金では、昔のような贅沢な生活も難しい。でも、家族の近くで暮らせるなら、そのほうが幸せだ」

こうして、夫婦は“第3の生活”をスタートさせました。

地方移住は、考え得るデメリットを洗い出したうえで、それをどこまで許容できるかが後悔しないカギとなります。

老後の住まいを考える際は「どこで暮らしたいか」だけでなく、「誰と、どのように暮らしたいか」という点も踏まえて、慎重に見極める必要があるでしょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP