【福田淳の対談闊歩】大崎洋(後編)ダウンタウン松本はテレビをやりたいと思っている 吉本退職で振り返らないと決めた残りの人生
46年間の吉本興業でのサラリーマン時代、「NSC」「2丁目劇場」などを生み出し、ダウンタウンを筆頭に人気芸人を多数輩出。芸能界の酸いも甘いも知り抜く大崎氏と、メディア、デジタルに造詣の深い福田淳・内外タイムス客員編集長が、今のコンプライアンス、ネット社会のこれからを語る。
【福田淳の対談闊歩】大崎洋(前編)底辺にいたときに目を開けたらダウンタウンがいた 同期に先を越された吉本社員と芸人の出会い から続く
福田 リラックスしてマイペースで働いていた大崎さんですが、80年代には空前の漫才ブームがやって来るわけですよね。あのムーブメントはどのようにして起こったのですか?
大崎 当時はドーム球場もない時代で、プロ野球のナイター放送が雨で中止になった時、“雨傘番組”といって珍プレー好プレーだとか、映画なんかが急きょ放送されていましたよね。最初その枠で「THE MANZAI」(フジテレビ系)は放送されたそうです。分からんもんで、蓋を開けたら数字は忘れましたけど、信じられないくらい視聴率が上がっていった。
福田 すごい人気だったのを覚えていますよ。みんな「THE MANZAI」を見るために家に帰っていましたもの。でも、現場は大変だったのでは?
大崎 吉本興業、大阪のテレビ局のプロデューサー、ディレクター、放送作家もみんな、売れている人たちをやっぱり大切にするんですね。若い子たちは虫けらみたいな扱いで、無視するんですよ。若い芸人さんが、劇場やテレビ局で社員とすれ違って「おはようございます」ってあいさつしても目も合わせないし、ノーリアクション。それが当時の吉本興業、関西の芸能界。
僕は松本君、浜田君と出会って、ほかの誰にもあいさつされない若い子たちを集めて、何かできればと考えたんです。流行っている漫画やアニメを題材に漫才しても、お年寄りには分からないし、響かない。だけど、若い子はすぐに理解して反応する。そういう若い子だけが集うコミュニティーがあれば、同じ空気を共有できるかなと思って。それで、ちっちゃな小屋(※心斎橋筋2丁目劇場)を作ったんです。
福田 漫才ブームと劇場、そこにイノベーションがあったんですね。
大崎 人生変わったというかね。やっぱりその頃にスタジオ内の客席の作り方、ステージの作り方を学びましたよ。三味線の「チャカチャン、チャンチャン」で出番表をめくるんじゃなくて、ディスコミュージックで派手に登場するとか、いろいろと変わりました。収録でフジテレビの広いスタジオにも初めて行きましたね。お弁当をタダで食べさせてもらえたり、タクシーで帰ってもええんやって。びっくりしました。
福田 当時は羽振りが良かったですからね。今はテレビ局も経費削減の波が押し寄せていますから。
撮影・内外タイムス 大崎 昔ね、「日産ミュージック・ギャラリー ポップ対歌謡曲」っていう朝日放送のラジオ番組があって、横山ノックさんが出演されていた。後に大阪府知事にまでなられた方なんですけど、ラジオのタクシーチケットなのに大阪の朝日放送から熱海まで行ったんです。後日、プロデューサーが「ノックさんすいません、ラジオのチケットで熱海まではちょっと……」って言うと、ノックさんは「おれは運転手に伊丹までって言ってんけど、熱海まで行きよってん」って。
そんなこともみんなで笑って過ごせたええ時代でした。今ほど「コンプライアンス」とかうるさくない時代でね。じゃれ合って、ちょっと外れたり、はみ出したり、人の逆を行ってこその芸能界だった。エンタメってそういうところが面白かったりするから。
福田 そうですね。世界最高のモラルを日本の芸能界が今求めているかのようで、本当に行き過ぎかなと感じます。いい大学入って、いい商社に入るという以外の人生の導線が、インターネットの普及によって見つけられるようになったわけですから。芸能界を目指す子は、勉強はできないかもしれない。だけど、「踊りが上手い」「歌が上手い」といった何か秀でる一芸があって、さらにその中で競争を勝ち抜いてようやく成功をつかむような人もいます。その価値ある成功を一つや二つのくだらないことでつぶしてしまって本当にいいのか。今、セカンドチャンスがないのは、おかしいですよ。
大崎 福田さん、なんとか本当にしてくださいよ。お願いしますわマジで。
福田 真実かどうか分からなくても週刊誌に書かれたら、何十年も活躍してきたのに「はい、あなたのキャリアはもうおしまいです。あなたの代わりはいますから」って切り捨てる傾向が強くなった。いやいや、そんな簡単に次の人はいませんよ。これだと芸能界のなり手も少なくなってくるでしょうね。
大崎 コケた子どもの膝についた砂を払ってやって、「ほら、もう一回走れ」と言えるようになればね。どうしたら元に戻るんですかね。
福田 みなさんSNSで独自のメディアを持ったことが大きいですね。本人の心の中で留めておけばいいような罵詈雑言(ばりぞうごん)まですべて文字や映像で可視化されるようになりました。それで社会が荒れてしまった。利他主義や「ちょっと許したれや」という寛容の精神が全くないから、「ワンアウト退場」みたいになった。
大崎 福田さんマジの話、変えてくださいよ。
福田 勝手に変わりますよ。22歳以下の若者のSNS利用時間が世界的に激減しているんです。生まれてからスマホがある世代で、常にネットでつながっていることが逆に嫌だという人たちが現れてきた。若者の「LINE離れ」も顕著に出始めています。若い人はLINEの返信が次の日に来るんです。朝に一度LINEをチェックしたら、その後は1日中機内モードにしてしまう。なぜかというと「日常がブチブチと区切られるのがウザい」と言っていましたね。
理解あるテレビ関係者とまた番組が始まればと願っています
撮影・内外タイムス 大崎 ネットでいうと、あまり近寄りたくないんですけど百田尚樹さん。まあ友達なんですけど。百田さんのフェイスブックを見たら、フォロワー2人くらいの人とガンガンずっとやりあっていて、あの人アホちゃうかなと思うんですけど。「大崎さん、小説よりもYouTubeの方がもうかんねん」とか言うんですよ。「けど小説書いた方がええですよ」って言うときました。
福田 YouTubeばかり見ていると、アルゴリズムで自分の好みに合う情報だけが表示されて「フィルターバブル」の中に閉じ込められてしまう。僕の家はどこにでもラジオが置いてある環境で、パッとつけると自分のフィルターバブルから離れて、知らないことをたくさん教えてくれる。改めてラジオはいいなって思い、インターエフエム(※InterFM897)に経営参画させてもらったんです。
人間がSNSに逆襲するための方法として僕が提唱するのは、まず旅をすること。あと、スマホを1日に何回も見ないようにする。今、友達がいない人が多いじゃないですか。友達ではなくても、観光地に行ってスナック入ってみんなと1時間話すだけでも知り合いにはなれます。そういった時間を増やして人間関係を広げて、深めていく。スマホなんかに時間を使わず体験価値の成分を濃くしてもらいたい。
大崎 よく分かりました。でもね、以前福田さんは芸能の世界で成功するには、ショート動画をいかに上手く使うかがポイントだともおっしゃっていた。スマホを捨てて旅に出ようというのは二律背反しているのでは?
福田 芸能の世界でヒットを出すのであれば、SNS、ショート動画がまだ“マス”としてあるのは確かです。しかし、その後ろには「スマホはもういいや」というアルファ世代(※2010年代序盤から2020年代中盤生まれ)が控えています。あと10年たったら社会はガラッと変わると思う。実質体験の方にグッと自分の可処分時間を割いている世代がやって来るわけですから。
大崎 なるほど。
福田 これは実際に文春の記者から聞いた話だから本当だと思うんですけど、若い世代はスキャンダルに反応しなくなってきているそう。
大崎 いいですね。僕は「フライデー」に16回載っていますから。
福田 スキャンダルを掲載するような週刊誌をもう年寄りしか読まなくなった。僕らはスキャンダル世代じゃないですか。大手メディアが報道しない殺人者の顔が見たいから、そういった週刊誌を買って好奇心を満たしていた。でも、今はすぐにネットで見られるし、若者は見ようとも思わない。芸能人の誰と誰が付き合おうが、20代前半から下の世代は飽きてきている。では、彼らは何を読んでいるかというと、経済関連で「日経ビジネス」が人気なんです。
大崎 わが内外タイムスはどうなんですか?
福田 これからですよ。昨年12月に79年の歴史を破って、ウェブで生まれ変わったんです。
大崎 やっぱりメディアって時代の空気吸いながらずっと生き残ってきたし、変遷する。これからは内外タイムス、ウェブメディアの時代ですよ。僕もなんかさせてください。今までは誰かに何かものを頼まれて頑張ってきたんですけど、70歳を過ぎてからいろいろなことを自分から頼んだろうと思って。
福田 (内外タイムス)編集部から何かありますか?
編集部 松本人志さんが地上波テレビに出ていない状況が続いています。一方で動画配信サービス「ダウンタウンプラス」は開始から2週間で50万人を突破しました。ネットの世界での成功について何か感想はありますか?
大崎 僕は吉本を辞めるときに振り返らないって決めたんです。だから、松本君とも全然会っていないんです。でも、彼はものすごく、ものすごく、ものすごくテレビをやりたいと思っている。理解あるスポンサーと放送局、プロデューサーとでまた何か始まったらいいなとは強く願います。福田さんにスポンサーをやってもらってね。
福田 ダウンタウンプラスのサブスクがすごい数ですね。それだけ多くの登録者数がいるのは事実なのだから、それに刺激を受けた地上波テレビ局はどう出るのかって見ていますよ。テレビ局側が「アンサーソング」を送らないと。
大崎 フジテレビがね。フジテレビも他の局もそうだけどね。
福田 最後に読者の方に一言。
大崎 道、歩いとったら気軽に声かけてください。
撮影・内外タイムス 《プロフィール》
大崎洋(おおさき・ひろし)1953年大阪府堺市生まれ。78年関西大学社会学部卒業後、吉本興業に入社。2009年代表取締役社長、18年共同代表取締役CEO、19年吉本興業ホールディングス代表取締役会長。23年同取締役会長退任、同年日本国際博覧会協会の「大阪・関西万博催事検討会議」共同座長に就任。一般社団法人mather ha.ha代表理事。著書に「居場所。」(サンマーク出版)、「あの頃に戻りたい。そう思える今も人は幸せ」(飛鳥新社)など。
※「崎」は「たつさき」
