軍用機民間機問わず、操縦席が横にふたつ並ぶ場合、固定翼機、いわゆる飛行機の機長席は原則左側で、回転翼機であるヘリコプターは原則右側です。なぜこのような違いが見られるのでしょうか。理由のひとつは操縦桿です。

飛行機ヘリコプターでは「機長席」の位置も異なる

 旅客機のコックピットで、2名のパイロットが横並びで座る場合、通常、機長の座席は左側です。軍用機でも、たとえば海上自衛隊のP-1哨戒機も操縦席は横にふたつ並びますが機長席は左で、そのほかのいわゆる固定翼の飛行機を見ても、操縦席がふたつ横に並ぶ場合は、やはり原則的に左側が機長席となるようです。

 一方、ヘリコプターで横並びに操縦席が設けられている場合、機長席は原則的に右側になります。

 いずれも空飛ぶ乗りものですが、なぜ左右で分かれているのでしょうか。


アメリカ空軍が保有するC-130J輸送機の操縦席。操縦桿は操縦輪タイプ(清水 薫撮影)。

 基本的に、2名の操縦士がフライトデッキ(コックピット)へ搭乗する航空機の場合、1名が正操縦士、つまり機長となり、その航空機の運航に関わる全責任を負います。もう1名は副操縦士として機長をサポートします。

 そして、この2名が座る操縦席の前にはほぼ同じ計器が並んでいます。「ほぼ」というのは、細部に異なる点があるためで、具体的に何が異なるのかは機種によりますが、機長席の前面にある計器をフル装備とするならば、副操縦士側は機長席に準ずる計器が並ぶものの、飛行を補助するための計器が中心です。

 クルマでいうハンドルに該当する操縦桿は、双方ともに同じものが装備されていて、ふたつの操縦桿は連動して動くようになっています。

 そしてこの操縦桿が、実は機長席の左右を決める要因のひとつになるのです。

カギは操縦「輪」であることと空の交通ルール

 冒頭で触れたような操縦席が横にふたつ並ぶ旅客機などの操縦桿は、一部の機種を除いて操縦席の正面に取り付けられています。

 両手で握りやすいような形状にデザインされていて、クルマのアクセルに相当するスロットルレバーを握っていても、片手で操縦できるようになっています。「操縦輪」とも呼ばれるその形状は、左右の手のどちらを使っても操縦に支障がないようになっているのです。


エアバスの旅客機、A300の操縦席は操縦輪型の操縦桿。左右どちらの手でも操縦に支障はない(画像:エアバス)。

 ちなみに最近の旅客機では、ジョイスティック型の操縦桿を装備する機種も増えてきています。このジョイスティック型の操縦桿は、操縦席の左右の壁側に取り付けられているため、機長席である左側では左手で操縦することになります。右利きの操縦士には一見すると不利であると感じるレイアウトですが、機敏な空中機動が求められるわけではない旅客機においては、さほど影響はないともいわれています。

 さらに、航空機は原則として右側通行で、航空法第182条や第185条に規定されています。そのため、同一高度で相互に行き違う航空機は、原則として互いに自機から見て左側を通過していくことになります。機長は搭乗する航空機に対する全責任を担っているため、自分の目でしっかりと相手を確認して、安全に行き交うまでを見届ける必要があります。

 このように、利き手に左右されない操縦桿(操縦輪)や、すれ違う際のルールなどの理由から、操縦席が横に並ぶ飛行機の機長席は左側にあった方が安心であるとの考え方で、原則的に左側へ設けられるようになたというわけです。

 しかし、ヘリコプターの場合は話が別です。その理由のひとつは、ヘリコプターの操縦桿は旅客機などのそれとは異なり、棒状の操縦桿が装備されているからです。

 旅客機などとは異なり、ヘリコプターは時に戦闘機のような機敏な動きを求められます。そのため、旅客機のような操縦桿(操縦輪)ではうまく操縦することができないともいわれています。

やはり操縦桿からはなるべく手を離したくないから

 ここで注目したいのが、ヘリコプターはパイロットひとりで操縦することも珍しくはないことと、多くの人が右利きであるという点です。

 先にも述べたように、時として戦闘機のような機敏な動きが求められるヘリコプターを操縦するには、やはり利き手で操縦桿を操作した方が無理のない操縦ができると、現役のヘリコプターパイロットから聞きます。そうなると問題になるのが、操縦桿以外の各種計器の配置です。


陸上自衛隊 CH-47輸送ヘリコプターの操縦桿。右手での操作を前提に、操縦桿左側にボタンが配されている(清水 薫撮影)。

 飛行機ヘリコプターも、冒頭にふれたような操縦席がふたつ横に並ぶタイプのものは、操縦席と操縦席のあいだの機体中央に各種計器が集中して配置されています。そのため、右利きのパイロットがヘリコプターの操縦席左側に座り1名で操縦する場合、機体中央の計器を操作するには、右手に持っている操縦桿を一度左手に持ち替え、計器の操作を終えると、左手に持っている操縦桿を右手に再び持ち替えることになります。

 もちろんこの動作は手間になり、パイロットとしては避けたいものだそうです。飛行中に生じるかもしれない各種トラブルに迅速に対応するためにも、できることならば、操縦桿は常に握っておきたいというのが、パイロットの心情であるともいいます。

 こうした理由もあって、ヘリコプターの機長席は原則、右側になっているのです。

 余談ですが、たとえば陸上自衛隊が保有するUH-1J多用途ヘリコプターは、右側の操縦席にエンジンをスタートするためのイグニッションキーがあります。そのため、機長があえて左側に座り、エンジンスタートの手順を若手操縦士に錬成させるということもあるので、必ずしも上級者が右側に座るわけではないそうです。