「彼って…私のこと、どう思っているんだろう」

連絡は取り合うし、ときにはデートだってする。

自分が、相手にとっての特別な存在だと感じることさえあるのに、“付き合おう”のひと言が出てこないのはどうして?

これは、片想い中の女性にとっては、少し残酷な物語。

イマイチ煮え切らない男性の実態を、暴いていこう。

▶前回:付き合う前に、体の関係を持ってしまった…。焦る女が男の部屋で見つけた、とんでもないモノとは?




私、あなたの彼女だよね?(世里奈・29歳の場合)


「じゃあ、帰ろうか」

土曜日の午後2時。

有楽町駅近くにあるハンバーガー店で、軽めの昼食を済ませたあと、博文は言った。

私とのデートを、やけにあっさりと切り上げようとしている。

彼はここしばらく出張続きだったから、1ヶ月半ぶりの再会だというのに…。

― もう帰るの…?でも“少し疲れてるから”って、言ってたもんね。

待ち合わせの時に博文が口にしていたことを思い出し、余計な言葉をグッと飲み込んだ。

「…うん、わかった。このあともお仕事?」

「仕事じゃないんだけど、ちょっと用事があるんだ」

博文は腕時計をチラチラと気にしながら立ち上がり、店の近くでタクシーをつかまえる。そして、私のことを乗せて見送りの態勢に入った。

「じゃあ、また」

…今日のデートは、あまりに適当ではないか。

本当は、予約して行くようなレストランで、ゆっくりランチをしたかった。けれど、ファストフード店に連れて行かれた。

― 何かおかしい。それに、私に対する扱いが雑になってきてない?まぁ、お礼はするけど…。

世里奈:今日はありがとう!

車内からLINEを送る。

しかし、深夜になっても未読のままだ。

― これで、私…彼女って言える?

交際半年。

ここ最近の私は、彼との関係がよくわからなくなってきていた。


博文との出会いは、ワインスクールだった。

数種類のワインをテイスティングする気軽なクラスに友人と参加したとき、彼のほうから声をかけてきたのだ。

「こんばんは!ワインお好きなんですか?」
「あ、はい。でも、私は友達に誘われただけで。詳しくはないです」

私より3つ年上の彼は、食品の専門商社勤務だという。ワインの取り扱いはしていないけれど、知識があるに越したことはないからと、同僚と参加したそうだ。

― これって、最近よく聞くワインスクールナンパ?

そう思って、はじめは少し警戒した。

「改めてテイスティングしてみると、それぞれの特徴がよくわかりますよね」

だが、思いのほか真面目な受け答えをする博文に、少しずつ緊張がほぐれていくのだった。

「本当ですね、知れば知るほど奥が深いというか。私も勉強してみようかな」

彼がスッと手渡してくれた水を飲んでから、最後のワインを口に含む。

「これで、5種類制覇ですね!どのワインが1番好みですか?」
「うーん、私はこの辛口のワインが好きですね」

すると、彼は、この日一番の笑顔で“僕もです”と答えた。すっかり意気投合した私たちは、その場でLINEを交換。後日、2人で食事に行った。

そして数回デートを重ね、交際を申し込まれた。




博文:今日、世里奈の会社の近くで仕事が終わるんだ。夜ご飯食べに行かない?
世里奈:私も18時には終わるから大丈夫!博文くんが行きたいお店に行こう。

交際当初は、博文から積極的にデートに誘ってきてくれた。食の好みが合うこともあって、レストラン選びや、行き先は彼におまかせ。

― 彼って、センスもいいし頼りになるから、つい…。私、甘えすぎ?

バランスが悪いのではないかと心配になった私は、お返しに、彼の家で食事やお泊りをするときには、必ず手土産を持参した。

それから、水あかひとつ、髪の毛1本残さないくらい、丁寧に掃除をしてから帰った。

お互いに思いやりを持って、順調に交際できているつもりだった。

だが、交際3ヶ月頃から、少しずつ彼の行動に違和感を覚えるようになってきたのだ。




― あれ?返事…まだきてない。

翌朝になってもスルーされたままのLINEに、かすかな胸のざわつきを覚える。

これまでは、どんなに遅くてもその日のうちには返事がきていた。ところが、間隔が少しずつ広がっていくようになったのだ。

かと思えば、可愛らしいスタンプを送ってきたり、絵文字をたくさん使ってきたりする。

― 今まで、スタンプも絵文字も、めったに使わなかったのにな…。

ちょうど同じころ、出張も増えた。

世里奈:仙台出張、お疲れさま!もう帰ってきてる?
博文:ありがとう!でも、またすぐに関西方面に出張になりそうなんだ(泣き顔の絵文字)

出張なら、夜も上司や同僚、取引先の人と一緒かもしれない。気をつかってLINEも電話も控えるが、博文も一切連絡を入れてくれない。

― 本当に、出張なんだよね…?

私は、いぶかしみながら数日を過ごした。

次に博文の部屋に呼ばれたのは、彼が出張から帰ってきた日の22時半。

お風呂あがりだったし、断る選択肢もあった。それなのに、うっすらとメイクを済ませてタクシーに乗っていたのは、体を重ねれば、何かが変わると思ったから。

しかし、私に背中を向けて眠る博文からは、冷たさを感じるだけだった。



こうして迎えた1か月半ぶりのデートが、まさかのファストフード店だったのだ。

しかも、滞在時間はたったの1時間。博文は、腕時計にしきりに目をやっていて、会話中も上の空だった。

帰宅してから私が送ったLINEは、日付が変わっても未読のまま。

なんとなく寝つけずに、ベッドのなかでInstagramを開いた。

― ん?

見知らぬアカウントから、ほんの数分前にダイレクトメッセージが送られてきていた。

― 誰…?この人。


あや香:ワインスクール、楽しそうですね!

DMの送り主は、あや香という女性。

グラスを顔の近くに掲げているプロフィール写真から、彼女もワインが好きなのだろうと察する。以前、私が投稿したワインスクールの写真を見て、メッセージを送ってきたのかもしれない。

ただ、彼女とは面識がない。突然のDMに戸惑っていると、今度は博文から電話がかかってきた。

「もしもし?今、何してる?」
「え?何って、家でインスタ見てたけど」

彼は、どこか慌てた様子で続ける。

「そ、そうなんだ!珍しいね、インスタほとんど投稿しないのに」
「うん、たまたま開いたら、知らない女の人からDMがきてたんだよね。返信どうしようかなって」

スマホの向こうで、博文が息をのむ気配がした。

「へぇー…そういうこともあるん…だ。じゃあ、今日はありがとう。おやすみ」

見知らぬ女性からのDMと、要領を得ない彼からの電話。

その謎が解けたのは、翌日になってからだった。




あや香:昨日は突然すみませんでした(泣き顔の絵文字)
実は、私もワインスクールで博文と出会って、2ヶ月前から親しくしています。
部屋にも行きました。あなたの存在は、昨日初めて知りました。

― ふーん、そういうことね。

昨日博文は、私を強引に帰らせたあと、あや香と会っていたのだろう。

彼が、私のときと同じ手口であや香に声をかけたこと。彼女がDMで使う絵文字やトーンが、最近の博文とよく似ていること。そして、昨日の手抜きデートのこと。

考えれば考えるほど、2人の関係が真実味を帯びてくる。

でも2ヶ月前といったら、まだ私が甲斐甲斐しく博文の部屋の掃除をしていたころだ。

― まさか、あのベッドで彼女とも…?それは無理。

そう思った途端、これまでの冷静さが一気に失われた。ワナワナと震える手で、彼に電話をかける。

「ねぇ!あや香さんって、どういう知り合いなのっ?」
「あ、えっと…そういう関係です」

昨晩とは、打って変わって開き直った様子の博文に、ますますいら立つ。

「どうせ私には、何をしても怒られないとか思ってたんでしょう?はぁ…あり得ない!」

「なら、もういいよ。なんか、面倒になってきていたところだし」

もう一度、彼が謝ってきてくれたら、多少は冷静になれていたかもしれない。

しかし、思いもよらぬ言葉で、私のほうがあっさりと振られてしまった。

― せっかく素敵な彼氏ができたと思っていたのに!

あろうことか彼女の自分が都合よくキープされていただなんて―。

私はあまりのショックに、体が小さく震えるのを感じたのだった。




居心地がいいから、手放すのは惜しかったけれど…(博文・32歳の場合)


世里奈とは、ワインスクールで出会った。

白のノースリーブニットに、グリーンのタイトスカート。鎖骨下で外はねにセットしたヘアスタイル。流行りが好きな、今どきの女性。それが、彼女の第一印象。

気になって声をかけてみると、思いのほか感じもよかった。

それに、ワインの好みもドンピシャ。これは!と思ってLINEを交換し、僕からの猛アタックでデートが実現。すぐに、交際がスタートした。

だが、順調な交際は3ヶ月までだった。

…世里奈は、控えめなところが魅力なのだが、自己主張が極端に少ない。

デートの行き先も、“博文くんの行きたいところで”ばかり。

…よく言えば、僕に気を使って合わせてくれているのだろうけれど、あまりにも受け身すぎる。

さらには、LINEの返事が遅くなっても、何も言ってこない。

出張といえば、一切連絡をしてこないのだ。

つい調子にのった僕が、嘘をついてほかの女性と食事に行ったり、部屋に呼んだりしたことは1度や2度ではない。

それでも世里奈と別れなかったのは、居心地がいい…いや僕にとって都合がいいからにほかならなかったからだ。

何でも合わせてくれて、文句も言わない。

このあいだは、夜中の呼び出しにも何も言わずに応じてくれた。

ただ、なんでもかんでも僕の要望に合わせてくれると、不思議なことに、大切に思えなくなってくる。

…正直、今の僕は、あや香のほうにぞっこんだ。

あや香は、率先してデートプランを考えてくれたり、不満に思ったことはその場で口にしてくれる。

何も言わないのに、ふと曇った表情を見せたり、感情をためこんでから、爆発したように怒ったりする世里奈とは正反対だ。

だから、僕の浮気がバレて、“あり得ない”と言われたときは、彼女と別れてあや香と関係を進める絶好のチャンスだと思った。

世里奈は、手放すには惜しい存在だったが、仕方ない。

世里奈を繋ぎ止めておくエネルギーなど、もはや持ち合わせていないのだ。

▶前回:付き合う前に、体の関係を持ってしまった…。焦る女が男の部屋で見つけた、とんでもないモノとは?

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