赤字ローカル線廃止は「過疎地だけの問題」だけではなかった…じつは「全国の食卓」を直撃する深刻な理由

写真拡大 (全5枚)

広大な北海道を駆ける鉄道の将来が危機に瀕している。発端となったのは、4月15日にJR北海道が発表した「黄線区での上下分離方式導入」に関する提案だ。

2026年5月現在、JR北海道の営業区間のうち収支が黒字となっているのはわずか171km、全体の8%にすぎない。赤字区間のうち輸送密度が200人未満の「赤線区」はすでに全廃され、次の焦点は輸送密度200〜2000人未満の約925kmに及ぶ「黄線区」へと移っている。

JR北海道は黄線区の線路保有・管理を地元自治体に委ねる上下分離方式の導入を提案したが、沿線自治体からは「負担できない」と一斉に反発が上がり、協議は早くも暗礁に乗り上げた。国からの財政支援期限が迫るなか、JR側は自治体との協議を見送り、国・北海道との調整を優先する方針に転換している。

問題はローカルな鉄道経営にとどまらない。黄線区には「タマネギ列車」が走る区間も含まれており、道外へのタマネギ輸送の約60%、ジャガイモや米の約30%を鉄道が担う北海道の食料流通が揺らげば、全国の食卓も無縁ではいられない。食料安全保障の観点から国はどう向き合うべきかを問う。

前編記事『タマネギ、ジャガイモ、コメが本州に届かなくなる…?「JR北海道の赤字路線廃止」が食料危機を招きかねないワケ』より続く。

なぜ経営が危機的なのか

では、なぜ北海道の鉄路がこのような危機に瀕しているのか。想像に難くないが、根本的な原因は沿線の人口が少なく、利用者数が限られていることにある。

他方で、当然のことながら、このことは1987年の国鉄分割民営化の際にも十分予見されていた。

本州以外を営業エリアとするJR北海道、JR四国、JR九州のいわゆる「3島会社」は、営業損益が赤字となることが分割民営化の当初から見込まれていた。そのため、国は経営安定基金と呼ばれる基金を設け、この運用益によって3島会社の赤字を補填することとした。

だが、バブル景気の最中だった分割民営化の当時から金利が大幅に低下したこともあり、基金の運用益は伸び悩んだ。近年は株高などの影響を受けて運用益は回復傾向にあるものの、JR北海道の場合、運用益の水準は分割民営化当初の6割程度にとどまっている。

線路使用料のカラクリ

また、食料の流通を担う貨物路線の危機を考える上では、分割民営化の際に導入された「アボイダブルコストルール」の影響も見逃せない。

これは、貨物輸送を担うJR貨物が、JR北海道をはじめとするJR旅客各社の線路を使用する際に支払う線路使用料の算定ルールだ。簡単に言えば「貨物列車が走行しなければ回避できる経費のみを支払えばよい」という原則であり、「回避(avoid)できる(able)経費(cost)」で、「アボイダブルコストルール」と呼ばれる。

具体的には、貨物列車の走行によって破損・摩耗したレールや枕木などの修繕費のみがJR貨物から各社へ支払われ、人件費などは含まれない。

このルールは経営基盤が脆弱なJR貨物に対する経営支援策として位置付けられてきたが、JR北海道などにとっては収益改善の足かせにもなる。現在、JR北海道へ支払われている線路使用料は年間約20億円だが、これは本来支払うべき金額の10%程度とも指摘されている。

全営業区間の4割を占める黄線区の存続が懸かっているJR北海道は、これまでも線路使用料の引き上げを要請してきた。しかし、JR貨物も本業の鉄道事業では赤字を計上しており、ルールの見直しには簡単に応じられない。

JR貨物とJR旅客各社との線路使用料に関する契約は20年ごとの更新となっており、来年がその更新年度にあたる。だが、抜本的な見直しで合意に至るかどうかは極めて不透明だ。

「脱トラック」を推進しながら鉄路を見捨てる国の矛盾

前述のように、農村部における鉄路の存続は食料安全保障にとっても極めて重要だ。そして、その危機の責任を単純な民間企業の経営の失敗に帰すことができない以上、国による支援は不可欠だろう。

食料の安定供給に向けた鉄道の役割はこれからますます増していく。その大きな背景となっているのがトラックドライバーの働き方改革、いわゆる2024年問題だ。

労働基準法の改正にともない、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働について年960時間の上限が設けられた。その結果、輸送モードをトラックから鉄道に切り替える「モーダルシフト」が、農産物や食料品の輸送についても進んでいる。

2023年11月からはJA全農とJR貨物の連携により、青森県から大阪府までを結ぶ米専用の貨物列車「全農号」の運行が開始した。さらに、低温輸送が求められる生乳についても、北海道から本州に向けて鉄道で輸送する動きが出始めている。

国も2024年問題やカーボンニュートラル目標などを背景に、トラック輸送から鉄道・船舶へのモーダルシフトを呼びかけている。しかし他方で、モーダルシフトにとって欠かせない地方の鉄路は、国からの監督命令を背景に存続の危機に瀕している。

政府はJR北海道の自立した経営に向けて、黄線区の事業見直しを要求しているが、食料安全保障やモーダルシフトの観点で赤字路線の価値を見つめ直し、「国鉄の清算」とは別の発想で政策的な支援を検討するべきではないか。

・・・・・・

【もっと読む】『「令和の米騒動」で加速した《日本人のコメ離れ》の深刻な実態…1人あたりの年間消費量は半世紀で半減していた』

【もっと読む】「令和の米騒動」で加速した《日本人のコメ離れ》の深刻な実態…1人あたりの年間消費量は半世紀で半減していた