「引っ越せば税務署から狙われない」昔は通用したが…今年から本格化する〈AI税務調査〉は逃げ場なし? AIに“狙われる人”と“見逃される人”の決定的な違い【税理士が警告】
昨今、加速度的に進むAIの進化と普及、税務の世界も例外ではないようです。これまで「調査官の経験と勘」に大きく左右されていた税務調査は、AIの導入によってどう変わるのでしょうか。またAIから“狙われやすい人・会社”と“そうでない人・会社”の違いとは……税理士・公認会計士で税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が解説します。
“経験と勘”が頼りだった以前の税務調査
正直、税務調査は調査官によってかなり差があります。厳しい人は本当に厳しく、緩い人もいる印象です。
調査官も人間なので、調査内容のレベルにばらつきが出るのは仕方ない部分もあります。ただ、最近の動きを見ていると、今後はそうもいかなくなるかもしれません。
税務の世界にもある「2026年問題」
2026年問題をご存知ですか? 物流業界でよく話題になりますが、税務の世界でも大きな変化があります。
具体的には、2026年9月から国税庁が長年開発を進めてきた新システム「KSK2(次世代国税総合管理システム)」が本格稼働する予定です。
これにより、税務調査はどう変わるのかというと、これまでの経験や勘に頼った調査先の選定から、AIを活用したデータ分析による選定へ完全にシフトしていきます。現場に来るのはもちろん人間の調査官ですが、その「脳みそ」の部分がAIに置き換わるイメージです。
AIは全国の税務データを吸い上げ、不正の疑いがある会社をピンポイントで検知します。温情や手加減、見落としがなく、まさに逃げ場のない税務調査が始まるのです。
今までのような「ちょっとうっかりしてました」で済ませるのは難しくなります。だからこそ、今のうちにしっかり準備することが重要です。
これまでの税務調査とこれからの違い
■調査ごとのバラつきが少なくなる
これまでは調査先の選定が各税務署の統括官や調査官の経験に大きく依存していました。そのため、地域による温度差や忙しさで見逃されるケースもあったでしょう。
しかしKSK2導入後は、AIが全国統一の基準でデータ分析を行い、調査対象を選定します。どこにいても、どんな調査官が担当しても、AIが違和感を検知すれば確実に調査が入る可能性が高まるのです。
まだまだある「今後の税務調査」のポイント
■データの一元化
これまでは法人税、所得税、相続税などで担当部署が分かれ、情報の連携が不十分でした。実際、縦割り行政の弊害によって、法人税で問題があっても相続税まで波及しないケースがあったようです。
KSK2ではこれが解消され、会社の法人税データ、代表者の所得税データ、家族の相続税データ、消費税の申告状況まで横断的に分析されます。
たとえば、会社のお金を私的に使っていたり、奥様のブランドバッグ購入を経費にしていたりすると、個人カード履歴と照合されて一瞬でバレる可能性が高まります。
■調査官の“武装化”
これまでは紙の資料やノートでアナログに帳簿を確認していましたが、KSK2からはタブレットを持ち込み、その場で国税のデータベースにアクセス可能になります。
曖昧な説明をしても、すぐに取引先のデータや相手先情報を検索され、「言っていることとデータが違いますね」と言われるリスクが増します。言い訳や時間稼ぎが通用しにくくなるということです。
■引っ越しの逃げが効かなくなる
昔は税務署の管轄が変わるとデータの引き継ぎに時間がかかり、優先順位が下がって調査が来ないケースがありました。
しかし、KSK2は全国一元管理なので、北海道から沖縄への引っ越しでもデータが即座に追跡されます。不自然な引っ越しを繰り返すと逆に怪しまれ、むしろ調査のきっかけになるかもしれません。
AIに狙われやすい人・会社の特徴
AIが税務調査対象を決める際の主な判断基準は次の3つです。
1.同業他社との比較
AIは平均値からの乖離(異常値)を検知します。
たとえば建設業で、同規模の平均と比べて交際費の割合が極端に高い、利益率が異常に低い場合など、すぐにピックアップされます。また特殊事情があっても、数字上の異常値として注目されやすいです。
2.自社内での不自然な変動
売上が急増しているのに利益が変わらない・減っているケース、期末に経費が急増するケース、貸付金や預り金の残高が変動するケースなどです。
理由があれば問題ありませんが、AIは事実として拾うため、注目されやすくなります。
3.取引先情報との照合
インボイス制度で取引がデジタル化されているため、取引先の申告データと自社のデータが一致しないと即座にアラートが出ます。
反面調査のデジタル版のようなもので、自分だけ完璧に帳尻を合わせても相手側のデータから足がつきやすくなります。
AIに狙われないための秘策…AIの特性を「逆手に取る」
では反対に、AIが“見逃す人・会社”にはどのような特徴があるのでしょうか。筆者は次の3点を予想します。
1.書面添付制度の活用
税理士が決算書に「この数字の異常はこういう理由です」と事前に説明を添付する制度です。
AIは理由のない異常値を検知するので、事前に理由を明示しておけば「仕方ない」と判断されやすくなります。
また、書面添付があると、いきなり実地調査ではなく税理士への意見聴取から始まり、説明で疑問が解消されれば調査自体が省略されるケースもあります。手間はかかりますが、2026年以降は特に有効でしょう。
2.事業概況説明書の活用
決算書の表紙部分にある「適用欄」や「業績の概要」欄を活用します。
ここに売上変動の理由(主要取引先の契約終了など)を書いておけば、AIが異常値を拾っても事前に説明がつきます。自然言語処理が進んでいるので、しっかり読み込んでくれます。聞かれる前に先手を打つのが重要です。
3.経理の完全デジタル化
調査官がタブレットで即座にチェックする時代なので、こちらもデータを即検索・提示できるように準備します。証拠をすぐ出せれば、怪しまれるリスクが減ります。
税務調査を回避するもっとも確実な方法
ここまで色々と書いてきましたが、税務調査を回避するもっとも確実な方法は、「適正な申告を徹底すること」です。
AIの目を欺くための小細工や二重帳簿を作る労力があるなら、正しく申告して本業に集中した方が効率的でしょう。正当な節税については隠さず、理由をきちんと説明する姿勢が大切です。
2026年からは経営の透明性がより試される時代になります。「バレなければいい」という考えはもう通用しません。
AIは不自然な差を検知するツールに過ぎないので、実態を正確に数字に反映させ、背景・ストーリーを言語化して伝えれば、AIは適正な納税者として認識してくれます。AIを敵に回すのではなく、味方につける気持ちで取り組みましょう。
黒瀧泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士
