【現役デザイナーの眼:アウディ・コンセプトC】アイデンティティを取り戻せ!初代TTとは本質が異なる?
2シーターの電動スポーツカー『アウディ・コンセプトC』が発表されました。初代アウディTTに通ずる非常にシンプルなデザインは、今後のアウディ車のデザインに波及すると言われているだけに、大変注目の1台と言えます。
【画像】初代TTとは本質が異なる?未来を予感させる『アウディ・コンセプトC』 全52枚
まず初代TTの話からですが、このクルマは私が大学生だった1998年に発売されました。その頃からカーデザイナーを目指していたので、大変衝撃を受けたのを覚えています。なんと言っても極限にシンプルなデザインは、ちょうどその頃勉強していたバウハウスから生まれたような、ミニマルで普遍的な魅力に溢れていました。

シンプルながら車格を感じさせるコンセプトCのサイドビュー(下)。しかしシルエットにおいて、初代TT(上)のようなオリジナリティはあまり感じない。 アウディ
今あらためてこのクルマを見ると、タイヤアーチの円がそのままシルエットに直結していることがデザインの肝だと感じます。自動車には絶対必要なタイヤ。それを素直にシルエット全体に波及させて、究極のシンプルを目指しているんですね。
またこのクルマのすごいところは、そのような無駄を廃したデザインが『唯一無二の個性』に昇華できているところです。
コンセプトCを見た第一印象は、初代TTの様に本質的なデザインへの回帰を目指したんだなと言うことです。全体的にとてもシンプルで塊感のある造形であり、またキャラクターラインも最小限にとどめています。
これらは初代TTに通じるところがありますが、唯一無二の個性で究極のシンプルかというとそうは言い切れません。まず、サイドシルエットは割と平凡で、TTのような独自の個性とは言いづらいです。
フロントでは細い縦長のグリルから始まる立体が視覚的にオーバーハングの長さを強調し、さらに完全にスタティックなフロント周りのグラフィックはアイコンとしては強いのですが、造形的に他の部位と合っていないようにも思います。
とにかくシンプルにしたいという心意気は感じられるのですが、それらのデザインは初代TTが持っていた本質とは少し異なるものだと思いました。
アイデンティティを取り戻すことへの期待
少し歴史を振り返ると、初代TTは他のアウディ車のデザインにも大きな影響を与えました。
オールロードクアトロが初めて投入されたA6などを筆頭に、すべてのアウディ車でバウハウス的ミニマルデザインが踏襲され、メルセデス・ベンツやBMWといったライバルとは全く異なった個性を出すことに成功しました。この知的なイメージが、アウディのブランドそのもののアイデンティティになったと言っても良いでしょう。

全体的に塊感の強い造形だが、グリル横の掘り込みが深いので視覚的にオーバーハングが長く見えている。 アウディ
発売当時は物議を醸した『シングルフレームグリル』も、バンパーの上下で分かれていたラジエター開口をシンプルにひとつにまとめようという、ミニマルデザイン的発想だったかもしれません。
しかし、その後はモデルチェンジのたびに装飾が多くなりました。これは市場環境の変化、ユーザーや営業担当からのリクエスト、また競合車の動向など様々な要因があります。クルマのモデルチェンジとは旧型を分析し、問題の解決策を出すことが大きな仕事ですので、どうしてもシンプルであることを突き通すのは難しい面があるのです。
しかしモデルチェンジごとに市場に埋もれ存在が薄くなることがあり、近年のアウディはまさにそのようなスパイラルではなかったかと感じています。
ですのでコンセプトCのメッセージは、初心に帰り『アイデンティティを取り戻す』ことなのではないでしょうか。装飾過多になった今のデザインをアウディ自身が問題に思っていたのでしょう。その点がとても嬉しいことだと感じてます。
欧州の伝統的ブランドには、未来を見せてほしい
さて、コンセプトCは初代TTの他に想起させるクルマがあります。それはアウトウニオン・タイプCを始めとした往年のレーシングカーや、それを模した2007年のコンセプトカー『アウディ・ローゼマイヤー』などです。
それが前述の細い縦長のグリルであり、ウインドウレスで塊感を強調させたリアのデザインに表れています。ですので、コンセプトCは過去の名車オマージュとも言えますね。

このビューが最も魅力的だと感じる。踏ん張ったスタンスはもちろん、シームレスなキャビン周りも見所のひとつ。 アウディ
このようなオマージュは現在のデザイントレンドのひとつで、特にEVで顕著です。ルノーではサンクやキャトルが復活しました。フィアットでは初代パンダがオマージュされグランデ・パンダになり、フォルクスワーゲンではIDバズが出ました。
さらにはスーパースポーツの世界でも、フェラーリ12チリンドリ、ランボルギーニー・カウンタックLPI-800-4、アストン マーティン・ヴァラーなどがあります。この流れの理由は『過去のクルマに魅力があるから』と言うことがひとつでしょう。今見ても数十年前のクルマは魅力的ですよね。
もうひとつ理由があるとすれば、新興EVメーカー対策と言えます。
数多くのメーカーの台頭があり、しかもそのメーカーたちのデザインレベルが高いので、一見どのブランドか見分けが付かなくなった感じがします。ですので、おそらく新興メーカーにはないもの、すなわち歴史を存分に活用しようということでしょう。
しかし、それは本来あるべき新しい提案が少なくなった裏返しでもあるのかなと感じます。いちファンとしてはオマージュももちろん良いのですが、特に欧州の伝統的ブランドにはぜひ次の未来を見せて頂きたいものです。
