「銀河の一票」はなぜ伸び悩んだのか 出色の出来なのに視聴者を分断してしまった「政治色」という避けられない壁
政策がネックか
春ドラマが最終盤に入った。事前に高視聴率を予想する声が多かったものの、数字が伸び悩んだドラマもある。疑問符の付いたドラマも。フジテレビ系「銀河の一票」(月曜午後10時)など3作品を考えてみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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29日に最終回を迎える「銀河の一票」は良く出来たドラマだと思う。
下馬評も高かった。胸を打つ場面が少なくない一方、クスリと笑える場面も用意されている。主演の黒木華(36)と共演の野呂佳代(42)ら出演陣の演技も申し分ない。
もっとも、回が進むに連れ、「これは観たくない人もいるだろう」と感じ始めた。個人視聴率はおおよそ2%台前半から2%台半ばを推移。決して高いとは言えない。春ドラマの中では中位から下位に属する。それもやむを得ないと考えるようになった。

当たりにくいとされる政治ドラマだからではない。このドラマが放つ政治色を好む視聴者と好まない視聴者に分かれると考えるためである。このドラマの政治色とは突き詰めると従来型政治の否定だ。多くの人は政治改革を望んでいるが、それに反対する人がいるのもまた事実なのである。
主人公は与党民政党の元幹事長秘書・星野茉莉(黒木)。元スナックママの月岡あかり(野呂)を東京都知事で勝たせようと躍起になっている。2人の目指す都政は突飛なものではない。誰も置き去りにしない政治だ。弱者を切り捨てない社会の実現を志す。多くの視聴者が共感するに違いない。
しかし、強者の利益が守られる社会構図が正しいと考える視聴者もいるはず。それが現実である。茉莉たちを煙たがる視聴者すらいるのではないか。
茉莉は民政党幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)の1人娘で、かつては秘書を務めていた。以前の鷹臣は「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という宮沢賢治の言葉を政治信条としていた。茉莉と同じく誰も置き去りにしない政治である。
ところが鷹臣は人が変わってしまい、今は党内の権力闘争に腐心している。自分にとって不都合な人物は冷徹に排除する。世論を操るためにマスコミを利用することもある。昭和期から存在するタイプの政治家だ。
そんな鷹臣に関する疑惑が浮上する。医大の学部長が転落死を遂げたあと、鷹臣宛てに「おまえが殺した」と書かれた封書が届いた。この医大の附属病院では茉莉の実母・瑠璃(本上まなみ)が心臓病で息を引き取っている。
疑惑の真偽を茉莉が調べ始めたところ、鷹臣はなぜか激高する。父娘は決別した。茉莉は家を飛び出し、あかりを都知事選に擁立することになった。
選挙の裏側を分かりやすく解説するなど斬新な政治ドラマだ。ただし、旧来の政治ドラマのパターンを踏襲してしまったところもある。
与党の政治家は悪役という点である。鷹臣たちだ。これに快哉を叫ぶ視聴者がいる半面、快く思わない視聴者もいるに違いない。
ファンとアンチにはっきりと分かれそうな展開となったのが第8回。あかりは「8つの安心」と銘打った公約を掲げる。住まい、働くこと、子育て、教育、介護と医療、多様な生き方が出来ることなど8つの事項について安心を目指すと約束した。
現代的な公約であり、本当の選挙でも十分支持を得られそうだろう。個人的には賛成だ。現実の選挙で既成政党の候補者が公約として訴えがちな「成長」や「強さ」は引っ込めた。
もっとも、視聴者の中には成長や強さを求める人も少なからずいるのは間違いない。茉莉とあかりのような無党派でなく、与党と直結した地方自治を望む人もいる。
出色の仕上がりと言えるドラマだが、茉莉とあかりの政治信条や選挙手法に共鳴する人の数に限界があった。それが高視聴率にならなかった原因と考える。
なぜ、波瑠を起用?
米国は政治ドラマ大国だが、視聴者が成熟しているからではない。巧妙に幅広い層に観せるための仕掛けが施してある。たとえばNBCで7年にわたって放送された大ヒット作「ザ・ホワイトハウス」(1999年)は、リベラルな民主党の大統領が主人公だった。だが、保守的な共和党の政治家や支持者も観ていることで話題になった。
なぜかというと、共和党の政治家も立てたからだ。どちらの党の政治家も国を深く愛し、国民のことを真摯に考えていると表現した。両党の政治家はともに身を粉にして働いた。政策も双方のものを流した。
日本の政治ドラマは与党が悪役になることばかり。また与党政治家は権力奪取しか頭にない場合が大半だから、政策がないケースが目立つ。現実には政策のない政治家はごく少数派のはず。この点は日本の政治ドラマも一考の余地がある。
日本テレビ「月夜行路−答えは名作の中に」(放送終了)はスマッシュヒットした。個人視聴率はおおよそ2%台半ばから約3%。16本あった春ドラマの週間ランキングでは5、6位が多かった。
主人公は2人。まず波瑠(35)が扮したバーのオーナーママで、覆面作家の野宮ルナ。さらに麻生久美子(48)が演じた主婦の沢辻涼子である。涼子の夫は文芸編集者をしている。事件物なのに観る側の気持ちを辛くさせる重たさがなく、洒落た作風だった。
ただし、根元でいただけない部分があった。ルナはトランスジェンダー女性(MtF、誕生時に男性と割り当てられたものの、本人の性自認は女性の人)である。それなのに、どうして波瑠を配役したのか。
映画「ミッドナイトスワン」(2020年)は草なぎ剛(51)がトランスジェンダー女性を演じたから、現実味があり、広く感動を呼んだ。世界的に評価された。「映画は別」とは言えない。ドラマも映画も配信で観られる時代なのだから。
ルナがトランスジェンダー女性であるということは最終回まで関わる重要なファクターだった。トランスジェンダー女性の女優は西原さつき(40)ら決して少なくないのだから、その起用を選択肢に入れるべきだったと考える。
NHKはNetflixを通じ、ドラマの世界配信を始めた。民放ドラマもより積極的に海外展開する時代になる。女優であると同時にLGBTQの権利に関する社会活動家であるハンター・シェイファー(27)たちが大活躍する米国。その人々が、「月夜行路」を観たら、どう思うだろう。強い違和感を抱くのではないか。
検視に疑問点
「田鎖ブラザーズ」(放送終了)も面白かった。個人視聴率は2%台半ばから3%台半ばを推移。週間ランキングでは上位に位置した。
主人公・神奈川県警青委署刑事課の田鎖真に扮した岡田将生(36)は、往年の名優・沖雅也さんを彷彿とさせた。甘さと冷たさ、温かさを兼ね備えていた。魅力的だった。
弟で県警捜査1課検視官・田鎖稔役の染谷将太(33)、質屋兼情報屋の足利晴子役の井川遥(49)、中華料理店店主でもっちゃんこと茂木幸輝役の山中崇(48)の演技にも引き込まれた。
首を捻ったのは最終回に判明した兄弟の両親の死因である。もっちゃんが刺す前に晴子が有毒植物・ジギタリスで殺していたことが分かった。31年前の事件当時の鑑定ではジギタリスの成分が検出できなかった。
ここまでは理解できる。しかし、死後に刺した場合、心臓が止まっているから、出血量が劇的に減る。また生きているときに刺されると、生活反応が出る。皮下出血したり、傷口の血が凝固したり。一方で死体は生活反応が出ない。その違いは歴然。31年前でも見逃さないだろう。
それまでは稔が自死を装った転落死を他殺と見破るなど検視部分の描写が緻密だったから、拍子抜けした。この作品も欧米人が観たら違和感を抱くのではないか。
欧米のクライムサスペンスは結末を観る側の心象に委ねることこそあるが、犯行手口への疑問はまず残さない。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
