「医者からも聞いてなかった」B型肝炎給付金制度“30万人が未救済”なのに“期限まで残り9か月”…延長求め弁護士が要望書
制度はあるのに、肝心の情報が届いていない――。
B型肝炎訴訟の給付金請求期限が2027年3月末に迫るなか、アディーレ法律事務所は6月23日、請求期限の延長と制度の周知強化を求める要望書を厚生労働省に提出した。
同日、都内で記者会見を開いた同事務所は、依頼者1008人へのアンケート結果を公表。給付金制度を知ったきっかけとして「行政の広報」を挙げた人はわずか4.6%にとどまり、「弁護士事務所の広告」の83.6%と大きな差が開いた。
B型肝炎特措法(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法)とは、幼少期の集団予防接種などで注射器が使い回され、B型肝炎ウイルスに感染した被害者に、国が病態に応じた給付金を支払う制度だ。2012年1月の施行から14年が経ち、請求期限はこれまで2回延長されてきた。
だが、給付金の対象は40万~45万人とされる一方、国との和解が成立したのは約12万人。同事務所は「まだ30万人近くが救済されないままだ」と指摘する。
なぜ進まないのか。同事務所は6月2日から5日にかけて、給付金請求を依頼した既決者のうちSMS送信が可能な人を対象にアンケート調査を実施し、1008件の有効回答を得た。
調査結果によると、制度を知ったきっかけ(複数回答)で最多は「弁護士事務所の広告」の83.6%。一方、「行政(国・自治体)の広報」は4.6%だった。請求期限があること自体を「知らなかった」人は35.8%。制度を知ってから相談・行動に移すまで「1年以上」を要した人は53.0%で過半数を占めた。請求期限の延長については59.0%が「必要」と答えている。
会見に登壇した大西亜希子弁護士は、調査が依頼者層の傾向を示すものだと前置きしたうえで、「国や自治体からの広報の届け方には改善の余地がある」と述べた。
「医者からも制度について聞いたことはなかった」会見には、幼少期の集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染したとされる男性Aさん(匿名)が同席した。Aさんはウイルスが原因の肝がんも発症し、これまでに肝炎と併せて8回の手術を受けてきた。今年、給付金が支払われたという。
Aさんは感染を把握した後も、給付金制度の存在を長く知らなかったといい、加えて制度を知ってからも「手続きのハードルが高いかなと思って、すぐには動けなかった」と話す。
その後、Aさんは友人とのドライブ中、ラジオでB型肝炎の話が流れたことで「友人に背中を押された」といい、3日後には弁護士に相談したという。
「主治医から制度や訴訟について話を聞いたこともなかったし、存在を知った後も、手続きを自分で全部やらないとダメかと思うと、当時は働いていたこともあり無理だと思いました。
給付金を受けるのは患者の権利です。個人で手続きを行うのはできないと思うが、早めに権利を主張して、早めに動いた方がいいと思います」(Aさん)
救済を阻む「資料収集の壁」B型肝炎訴訟の依頼者と日々接しているという丹野卓真(たんの・たくま)弁護士は、B型肝炎訴訟では「スムーズに行っても、2年から2年半の時間がかかる」と説明。
そのうえで、救済を阻む理由の一つとして「資料収集の壁」を挙げた。給付金請求には本人の医療記録や家族の血液検査結果など、決まった資料が必要になる。
「発症が最近なら資料も残っているが、『30年前』となると、通院した病院を覚えていない方もいる」と丹野弁護士は指摘した。医療記録の法定保存期間は5年とされ、時間の経過とともに証明手段が失われていく。家族の検査結果も、本人や親族の高齢化・死亡で集めにくくなる。
医療機関側の対応も課題だという。丹野弁護士によると、カルテの開示を受けることは患者の権利であるにもかかわらず、「肝臓は診ていない」「対象外だ」などとして開示に応じない医療機関が一部にあるとした。
医療現場の認知不足を示すデータもある。同事務所が消化器の専門医100人に行った調査では、B型肝炎患者を「月1件以上」診察する医師が34%、患者から訴訟について相談された医師は52%に上った。しかし、患者に訴訟を勧めたことがある医師は7%にとどまったという。
要望は「期限延長」と「広報の抜本強化」要望書は厚生労働大臣と健康・生活衛生局長に宛て、代表弁護士・鈴木淳巳氏の名で提出された。
柱は2つ。1つは2027年3月31日までとされる請求期限の延長。もう1つは国による広報活動の抜本的な強化で、医療機関や健康診断機関、保健所との連携、自治体の広報誌やホームページの活用などを求めている。
大西弁護士は会見でこう訴えた。
「制度が存在していても、必要な情報が届かず、知ってもすぐに動き出せないのであれば、救済制度として十分に機能しているとは言えません。請求期限を速やかに延長すべきだと考えています」
