【真壁 昭夫】苦境のフォルクスワーゲンが「中国で突然の大量出店」…中国勢との立場逆転で元王者に焦りか
中国勢の驚異の躍進
ここへ来て、主要先進国の自動車メーカーが苦戦する中、中国の一部メーカーは存在感を強めている。
2020年時点で約100万台だった中国の自動車輸出台数は、年平均50%を超える異常なペースで急増。2023年には約500万台に達してわが国を上回り、世界トップに躍り出た。世界の電気自動車(EV)市場においても、中国メーカーは約55%のシェアを獲得したとみられる。
対照的に、日米欧の主要メーカーの業況は厳しい。特に、フォルクスワーゲンなど欧州の自動車メーカーは、ほぼ総崩れ状態といわれる。そうした状況下、欧州などでは、中国メーカーを誘致する政策が目立ち始めている。この背景には、自国内の雇用の維持に加え、米国抜きの通商体制構築の狙いもあるようだ。
米国でもトランプ大統領は、中国企業の直接投資を歓迎する考えを示している。欧米諸国としては、中国メーカーと競争するよりも、その進出を歓迎する姿勢を取らざるを得ないということだろう。そうした政策には、長い目で見た持続性に懸念はあるものの、目先の雇用維持のため背に腹は代えられないのが実情なのかもしれない。
国内自動車メーカーも、長期の視点から対応策を練る必要がある。
現在、わが国メーカーは、電動化や車載用ソフトウェア開発などで、中国など海外勢に遅れている部分がある。その一方、ハイブリッド車(HV)関連の製造技術などの分野で優位性を持っている。この優位性を、今後、いかに生かすかが一つの鍵になるはずだ。
近年、世界の自動車業界は、電動化、自動運転など100年に一度の変革期を迎えたといわれている。それに加え、中国勢の台頭、米欧関係の悪化、地政学リスク上昇など、先行きはますます不透明さを増している。
わが国の自動車メーカーにとって、比較優位性を磨き、中長期的な成長が見込める市場でシェア拡大に取り組む意義は大きい。問題は、その目的をいかに実現するかだ。その一つの方策として、同業他社に加え、総合商社などと連携するケースは意味があるはずだ。
日米欧時代の終焉か
現在の世界の自動車産業において中国企業のシェア拡大は鮮明だ。それは、世界の新車販売ランキングからも確認できる。
トップ5は、前年比5%増の1132万台を販売したトヨタを筆頭に、独VW(フォルクスワーゲン)、韓国の現代自動車(起亜含む)、米GM、米欧ステランティスと並んだ。6位は中国の比亜迪(BYD)、7位は米フォード、8位に浙江吉利控股集団(ジーリー)がランクイン。9位と10位は、ホンダとスズキだった。
各社の販売台数の増減をみると、トヨタ以外の主要先進国企業はほぼ横ばいか、あるいは前年実績を下回っている。対照的に、BYDやジーリー、11位以下にランクインした中国企業は、シェアを急速に拡大した。
19世紀にドイツで発明された自動車は、第2次世界大戦後に米国勢がシェアを伸ばした。その後、日本メーカーが台頭。1990年代、わが国の自動車メーカー全体の販売シェアは世界トップだった。
日米欧を軸に成長してきた世界の自動車業界だが、現在はその主導権が中国へと急速に移りつつあるようだ。
2025年の中国自動車業界の生産台数は、前年比10%増の約3500万台に達した。前年からの増加分だけで、わが国の生産台数の3分の1程度を占める。そのうち、新エネルギー車(HV、PHV、EV)は約30%増加し、1660万台程度になったようだ。供給能力の拡大ペースは極めて速い。
一方、中国自動車業界の設備稼働率は50%程度とみられる。“EVの墓場”といわれたように、補助金目当てで参入した企業の破たんは増えた。それでも、生産能力拡張が緩む気配は見られない。むしろ、生産能力はさらに拡大している。
ファーウェイやシャオミなどIT先端企業のソフトウェアを、EVなどと結合する企業も出てきた。価格を抑え先端機能を備えた自動車を世界に供給し、シェアを拡大するのが中国の自動車国家戦略なのだろう。
中国の販売店を1年で2倍に
中国自動車メーカーの攻勢に対し、今のところ、先進国の企業は押され気味だ。
欧州では、フォルクスワーゲンに加え、メルセデス・ベンツのシェア低下が目立つ。米国ではフォード、わが国では日産、ホンダの販売台数が減少した。ただ、米国勢に関しては、トランプ大統領の関税政策やMAGAの影響から、GMなどに一時的に需要が向かった可能性はある。
こうした中、特に状況が厳しいのはフォルクスワーゲンだろう。
1985年、同社は上海汽車集団と合弁会社を設立し、2021年まで中国の乗用車市場トップの座を維持してきた。ところが、2022年、フォルクスワーゲンはBYDに抜かれ、中国市場トップの座を明け渡した。
この変化は世界新車販売台数にも影響を与えている。8%減だった中国の新車販売が響き、フォルクスワーゲンの2025年の世界新車販売台数は898万3900台だった。首位は1032万7976台(2025年1〜11月)のトヨタで、フォルクスワーゲンは6年連続で後塵を拝している。
この状況下、同社は4月27日開催の北京モーターショーで、2026年末までに中国国内の販売店を倍増させる計画を発表した。現在の約140店舗から280店舗まで増やす。こうした店舗網の拡大は同社の危機感の表れだろう。
今や、BYDや車載用バッテリー最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は、主要先進国の自動車メーカーに製造技術などを供与するようになった。クルマ作りを指導する立場から技術を仰ぐ立場へ、独・中自動車メーカーの関係は変化しつつある。
先進国企業は挽回できない?
世界の自動車産業の構造は、急速に変化している。
過去、先進国企業は中国企業と合弁事業を運営し、中国市場に参入した。市場への参入認可と引き換えに、中国企業は自動車からスマホまで、製造技術を急速に習得した。その上、政府の産業補助金などを支えに大量生産体制を確立した。
中国EVシェアの拡大に対し、先進国企業が挽回するのはもはや難しいとの見方もあるほどだ。
中国には、アリババやファーウェイ、シャオミ、AI新興のディープシークなど、米GAFAMなどに比肩するIT先端企業もある。そうした先端企業との連携、新規参入を促進することで、中国は“ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)”でも海外の需要を取り込み、世界トップを目指すだろう。
中国企業が新興国に加え、欧州、メキシコなどで直接投資を積み増しているのは、そうした変化の象徴とも考えられる。
では、こうした状況下で日本企業はどう立ち回るべきなのか。
つづく記事〈トヨタやホンダにすら迫る《中国メーカーの脅威》…三菱商事ら総合商社と共闘する“反撃シナリオ”に投資家が期待するワケ〉で、詳しく解説する。
【つづきを読む】トヨタやホンダにすら迫る《中国メーカーの脅威》…三菱商事ら総合商社と共闘する”反撃シナリオ”に投資家が期待するワケ
